43 / 222
再会編
フェロモン1
しおりを挟む
「もう、私も沢山行きたいところがあるんだからね。でもね、今回はゆっくり観光をしている時間はあまりないんですって。ついたらその日に病院にかかって、次に日に少し街を見物してからすぐにカイ兄さんと一緒にこっちに帰ってくるのよ」
「病院……」
その単語を口の中で転がすように呟きながら反射的に眉をひそめたヴィオがカイの腕を離して一歩引き下がる。ヴィオが不安に思ったと考えたのかカイは少し屈んで年長者らしく優しく笑った。
「リアが病気とかそういうわけじゃないからそんな顔をするな。お前たちもう成人したのに一度もバース検査を受けてないだろうから、一度受けたほうがいいとアガ伯父さんと相談したんだ。本当だったら少し長めにこちらにいられる予定だったのが、急な用事が入ってしまって一度向こうに戻るから、そのついでにお前たちを中央に連れて行こうと思ったんだ」
ヴィオは一瞬自分は行きたくないといって拒むこともできるのではと思ったが、今まで中央に行きたがっていたことを周りも知っているため妙に勘繰られると後々動きにくくなる。
(姉さんは番や結婚のことを知っているのか……。でもバース検査をするってことはきっと結婚にもつながっているって薄々思ってるんだろうな。機嫌いいのがその証拠だよな)
ヴィオが黙った後も日頃していない薄化粧をしたリアはカイの腕にくっついたまま一生懸命、病院の後に回りたい店の話をしている。カイが帰ってくると聞いた日から、叔母たちとあってはカイの話ばかりしていたから、久しぶりに会えて本当にうれしそうだ。カイは辛抱強くその話を聞いていて、このまま二人が結婚してくれたら手放しで祝福して喜ぶのにと苦しく思う。
なのになぜかカイはヴィオの背にさりげなく回した腕をけして外さないのだ。その太く頑強な腕の囲いの中ではヴィオは幼いころのようにちっぽけなままだった。
そしてヴィオの細い背中を伝うように甘さとその奥に樹木のように落ち着いた香りが這い上ってきた。
ヴィオの心と体を絡めとろうとするような、魅惑的な香り。
ヴィオは背筋を駆ける甘い痺れを感じながらも、あえてそれに気づかぬふりをした。
翌日、中央行きの準備ができるのは一日だけだというのに、カイがやたらとヴィオに構ってくるから内心うんざりしてしまった。あんなに大好きな従兄だったのに、疎ましく思う瞬間があるのがまた哀しい。
朝早くから学校に行くと言ったら、そういえばヴィオの学校に行ったことがなかったからとついてきたし、そのせいで先生たちとゆっくり話をする暇がない。
今こそレイ先生の力を借りたいのに、そのレイ先生とカイは中央の話で盛り上がり、妙に話が会うのか二人きりにさせてくれなかった。
そのうち子どもたちも登校してきてしまってヴィオはいつも通り自分も小さな子供たちの世話をしながら先生たちの手伝いをはじめた。
「ヴィオが学校の手伝いをしているとは思わなかったな」
何が楽しいのか嬉しそうに子どもたちの授業の様子を後ろに陣取ってみていたカイは、のんびり屋で落ちこぼれていく子の面倒を見て丁寧に教えて回るヴィオに感心した様子だ。
「家にいても……。朝、叔母さんたちの手伝いをしたらやることないから。それなら学校で手伝いをしないかって誘われたんだ。本当ならもう少し時間がかかると思ってたんだけど、僕はもうこの学校で学べることの単位を取り終わったから。今まで先生にいろんなことを教えてもらったし、僕も恩返ししたいしね」
大きく窓を開け放たれた校舎は周囲の林から涼しい風が吹き込み、明るい光にあふれた居心地よい場所だ。最初は少ししかなかった机も生徒とともに増えてきたし、空き部屋だった教室も今では使わないと間に合わないほどだ。
「ここはいい学校だな。俺も子どもの頃からここがあったら、人生変わってたかもしれないな。子どもたちもヴィオによく懐いている。お前は面倒見がいいんだな。ヴィオ、子どもは好きか?」
授業の合間のこの時間、教室は元気な子供たちの歓声で溢れている。彼らは先生よりさらに身近で甘えられる存在としてヴィオの腰や背に張り付いてくる。みな学校ができた時から一番年上だったヴィオのことをヴィオお兄ちゃんと呼んで慕ってくれている。ついでに男の子たちは大きなカイに興味津々な様子で、それをいなすカイは子どもの頃ヴィオとリアと遊んでくれた時と変わらぬ暖かな笑顔を向けている。飛び掛かってはぐるぐる回されたり、担ぎ上げられたりして大いに盛り上がった。
「みんな可愛いよ。僕はずっと里でも年下の方だったからさ、頼られるの嬉しい」
「みんなヴィオお兄ちゃんが大好きだよね~」
おしゃまな女の子たちはヴィオの髪の毛を編んだり結んだり好き勝手にいじりながらもニコニコと綺麗なヴィオの顔を眺めている。たまにカイの顔もうっとり眺めたりするから女の子は小さくてもいっぱしの女性だ。
「ヴィオお兄ちゃん綺麗でカッコいいし頭もいいもの」
「じゃあ、ヴィオお兄ちゃんが遠くにいったら、寂しいかな?」
そんな風に不意にカイが意味深な台詞を言ってヴィオに揺さぶりをかけてくる。カイの真意が分からず、ヴィオは咄嗟にそしらぬ顔を作れずきゅっと口をつぐんでしまった。成人したてのヴィオとずっと年上のカイとではまだ大人と子供ぐらい違うのだ。この言葉にたいした意味がないのか、それとも何かの謎かけをしてヴィオの出方をまっているのか。まるで分らない。
「病院……」
その単語を口の中で転がすように呟きながら反射的に眉をひそめたヴィオがカイの腕を離して一歩引き下がる。ヴィオが不安に思ったと考えたのかカイは少し屈んで年長者らしく優しく笑った。
「リアが病気とかそういうわけじゃないからそんな顔をするな。お前たちもう成人したのに一度もバース検査を受けてないだろうから、一度受けたほうがいいとアガ伯父さんと相談したんだ。本当だったら少し長めにこちらにいられる予定だったのが、急な用事が入ってしまって一度向こうに戻るから、そのついでにお前たちを中央に連れて行こうと思ったんだ」
ヴィオは一瞬自分は行きたくないといって拒むこともできるのではと思ったが、今まで中央に行きたがっていたことを周りも知っているため妙に勘繰られると後々動きにくくなる。
(姉さんは番や結婚のことを知っているのか……。でもバース検査をするってことはきっと結婚にもつながっているって薄々思ってるんだろうな。機嫌いいのがその証拠だよな)
ヴィオが黙った後も日頃していない薄化粧をしたリアはカイの腕にくっついたまま一生懸命、病院の後に回りたい店の話をしている。カイが帰ってくると聞いた日から、叔母たちとあってはカイの話ばかりしていたから、久しぶりに会えて本当にうれしそうだ。カイは辛抱強くその話を聞いていて、このまま二人が結婚してくれたら手放しで祝福して喜ぶのにと苦しく思う。
なのになぜかカイはヴィオの背にさりげなく回した腕をけして外さないのだ。その太く頑強な腕の囲いの中ではヴィオは幼いころのようにちっぽけなままだった。
そしてヴィオの細い背中を伝うように甘さとその奥に樹木のように落ち着いた香りが這い上ってきた。
ヴィオの心と体を絡めとろうとするような、魅惑的な香り。
ヴィオは背筋を駆ける甘い痺れを感じながらも、あえてそれに気づかぬふりをした。
翌日、中央行きの準備ができるのは一日だけだというのに、カイがやたらとヴィオに構ってくるから内心うんざりしてしまった。あんなに大好きな従兄だったのに、疎ましく思う瞬間があるのがまた哀しい。
朝早くから学校に行くと言ったら、そういえばヴィオの学校に行ったことがなかったからとついてきたし、そのせいで先生たちとゆっくり話をする暇がない。
今こそレイ先生の力を借りたいのに、そのレイ先生とカイは中央の話で盛り上がり、妙に話が会うのか二人きりにさせてくれなかった。
そのうち子どもたちも登校してきてしまってヴィオはいつも通り自分も小さな子供たちの世話をしながら先生たちの手伝いをはじめた。
「ヴィオが学校の手伝いをしているとは思わなかったな」
何が楽しいのか嬉しそうに子どもたちの授業の様子を後ろに陣取ってみていたカイは、のんびり屋で落ちこぼれていく子の面倒を見て丁寧に教えて回るヴィオに感心した様子だ。
「家にいても……。朝、叔母さんたちの手伝いをしたらやることないから。それなら学校で手伝いをしないかって誘われたんだ。本当ならもう少し時間がかかると思ってたんだけど、僕はもうこの学校で学べることの単位を取り終わったから。今まで先生にいろんなことを教えてもらったし、僕も恩返ししたいしね」
大きく窓を開け放たれた校舎は周囲の林から涼しい風が吹き込み、明るい光にあふれた居心地よい場所だ。最初は少ししかなかった机も生徒とともに増えてきたし、空き部屋だった教室も今では使わないと間に合わないほどだ。
「ここはいい学校だな。俺も子どもの頃からここがあったら、人生変わってたかもしれないな。子どもたちもヴィオによく懐いている。お前は面倒見がいいんだな。ヴィオ、子どもは好きか?」
授業の合間のこの時間、教室は元気な子供たちの歓声で溢れている。彼らは先生よりさらに身近で甘えられる存在としてヴィオの腰や背に張り付いてくる。みな学校ができた時から一番年上だったヴィオのことをヴィオお兄ちゃんと呼んで慕ってくれている。ついでに男の子たちは大きなカイに興味津々な様子で、それをいなすカイは子どもの頃ヴィオとリアと遊んでくれた時と変わらぬ暖かな笑顔を向けている。飛び掛かってはぐるぐる回されたり、担ぎ上げられたりして大いに盛り上がった。
「みんな可愛いよ。僕はずっと里でも年下の方だったからさ、頼られるの嬉しい」
「みんなヴィオお兄ちゃんが大好きだよね~」
おしゃまな女の子たちはヴィオの髪の毛を編んだり結んだり好き勝手にいじりながらもニコニコと綺麗なヴィオの顔を眺めている。たまにカイの顔もうっとり眺めたりするから女の子は小さくてもいっぱしの女性だ。
「ヴィオお兄ちゃん綺麗でカッコいいし頭もいいもの」
「じゃあ、ヴィオお兄ちゃんが遠くにいったら、寂しいかな?」
そんな風に不意にカイが意味深な台詞を言ってヴィオに揺さぶりをかけてくる。カイの真意が分からず、ヴィオは咄嗟にそしらぬ顔を作れずきゅっと口をつぐんでしまった。成人したてのヴィオとずっと年上のカイとではまだ大人と子供ぐらい違うのだ。この言葉にたいした意味がないのか、それとも何かの謎かけをしてヴィオの出方をまっているのか。まるで分らない。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
二人のアルファは変異Ωを逃さない!
コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26
BL
★お気に入り1200⇧(new❤️)ありがとうございます♡とても励みになります!
表紙絵、イラストレーターかな様にお願いしました♡イメージぴったりでびっくりです♡
途中変異の男らしいツンデレΩと溺愛アルファたちの因縁めいた恋の物語。
修験道で有名な白路山の麓に住む岳は市内の高校へ通っているβの新高校3年生。優等生でクールな岳の悩みは高校に入ってから周囲と比べて成長が止まった様に感じる事だった。最近は身体までだるく感じて山伏の修行もままならない。
βの自分に執着する友人のアルファの叶斗にも、妙な対応をされる様になって気が重い。本人も知らない秘密を抱えたβの岳と、東京の中高一貫校から転校してきたもう一人の謎めいたアルファの高井も岳と距離を詰めてくる。叶斗も高井も、なぜΩでもない岳から目が離せないのか、自分でも不思議でならない。
そんな岳がΩへの変異を開始して…。岳を取り巻く周囲の騒動は収まるどころか増すばかりで、それでも岳はいつもの様に、冷めた態度でマイペースで生きていく!そんな岳にすっかり振り回されていく2人のアルファの困惑と溺愛♡
【本編完結】あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~
一ノ瀬麻紀
BL
産まれた時から一緒の二人は、距離感バグった幼馴染。
そんな『幼馴染以上恋人未満』の二人が、周りから「え? あれでまだ付き合ってないの?」と言われつつ、見守られているお話。
オメガバースですが、Rなし全年齢BLとなっています。
(ほんのりRの番外編は『麻紀の色々置き場』に載せてあります)
番外編やスピンオフも公開していますので、楽しんでいただけると嬉しいです。
11/15 より、「太陽の話」(スピンオフ2)を公開しました。完結済。
表紙と挿絵は、トリュフさん(@trufflechocolat)
ちゃんちゃら
三旨加泉
BL
軽い気持ちで普段仲の良い大地と関係を持ってしまった海斗。自分はβだと思っていたが、Ωだと発覚して…?
夫夫としてはゼロからのスタートとなった二人。すれ違いまくる中、二人が出した決断はー。
ビター色の強いオメガバースラブロマンス。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
Accarezzevole
秋村
BL
愛しすぎて、壊してしまいそうなほど——。
律界を舞台に織りなす、孤独な王と人間の少年の運命の物語。
孤児として生きてきた奏人(カナト)は、ある日突然、異世界〈律界〉に落ちる。
そこに君臨するのは、美貌と冷徹さを兼ね備えた律王ソロ。
圧倒的な力を持つ男に庇護されながらも、奏人は次第に彼の孤独と優しさを知っていく。
しかし、律界には奏人の命を狙う者たちが潜み、ソロをも巻き込む陰謀が動き始める。
世界を背負う王と、ただの人間——身分も種族も違う二人が選ぶのは、愛か滅びか。
異世界BL/主従関係/溺愛・執着/甘々とシリアスの緩急が織りなす長編ストーリー。
【完結】陰キャなΩは義弟αに嫌われるほど好きになる
grotta
BL
蓉平は父親が金持ちでひきこもりの一見平凡なアラサーオメガ。
幼い頃から特殊なフェロモン体質で、誰彼構わず惹き付けてしまうのが悩みだった。
そんな蓉平の父が突然再婚することになり、大学生の義弟ができた。
それがなんと蓉平が推しているSNSのインフルエンサーAoこと蒼司だった。
【俺様インフルエンサーα×引きこもり無自覚フェロモン垂れ流しΩ】
フェロモンアレルギーの蒼司は蓉平のフェロモンに誘惑されたくない。それであえて「変態」などと言って冷たく接してくるが、フェロモン体質で人に好かれるのに嫌気がさしていた蓉平は逆に「嫌われるのって気楽〜♡」と喜んでしまう。しかも喜べば喜ぶほどフェロモンがダダ漏れになり……?
・なぜか義弟と二人暮らしするはめに
・親の陰謀(?)
・50代男性と付き合おうとしたら怒られました
※オメガバースですが、コメディですので気楽にどうぞ。
※本編に入らなかったいちゃラブ(?)番外編は全4話。
※6/20 本作がエブリスタの「正反対の二人のBL」コンテストにて佳作に選んで頂けました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる