香りの献身 Ωの香水

天埜鳩愛

文字の大きさ
65 / 222
再会編

美貌1

しおりを挟む
 ヴィオの働くティーサロンもとても立派で美しい、格調高い空間だと思っていたけれど、この場所も負けじ劣らない。
 敷かれている鮮やかなブルーの絨毯がふかふか足が沈みそうだし、天井も高くてすごく広々と感じる。
 セラフィンが住まう世界はこうしたどこもかしこも整えられて清潔で真っ白な空間なのだろうなあとヴィオは思った。
 5年前にたまたまセラフィンがヴィオの住む里に来たのは調べ物があったからで、二人があの場所で出会えたのはさらに偶然が重なった結果。そうでなければ自分たちが出会うことなどなかったのだろう。
 そしてヴィオがセラフィンから自立したら、のちの二人の接点はなくなっていくのだろう。ヴィオはそう思うと高揚感の中に胸がちくんと痛むような切なさを感じる。

(でも今は、めったにできないこの経験を楽しまないと)

 気分を変える様に、自分の前に立っていたマダムに声をかけた。

「先生は、いつもこちらでお洋服を買っていらっしゃるんですか?」

「そうねえ。小さなころから私がセラフィン様とご家族のお洋服を数多く担当させていただきましたわ。セラフィン様をご覧になったらお客様にもよくおわかりでしょう? それはもう皆さん美しいご一家でらっしゃいますから腕によりをかけてデザインしていましたわよ。お兄様のバルク様なんて子どもの頃はあまりにも可愛らしくて女神の御使いもかくやって絶賛されてましたから、ここの写真館ができた時に是非にと社長が拝みにいって写真を撮らせてもらったんですよ。多分まだ下の階の写真にその写真がみられますよ」

 サロンのオーナーであると名乗ったマダムはその後もセラウィンの容姿を饒舌に褒めつつ、ヴィオの知らないセラフィンの家族の話を教えてくれた。

 そもそもセラフィンは生まれてこの方、既成の服を着たことがないまま育った生粋の貴族のお坊ちゃまで、成長し留学するまでは双子の兄と揃いの服をこちらで作ってきていたそうだ。双子のお兄様の話がものすごく気になったけれど、今は遠い街で暮らしているという情報を得るのにとどまった。

(セラフィン先生の双子のお兄様ってどんな方だろう? そっくりなのかなあ。あんなに綺麗な人がこの世に二人もいるなんて信じられないよ)

 マダムはセラフィンの生家であるモルス家お抱えの、セラフィンの母の友人なのだそうだ。
 恰幅の良い大柄な女性で、鮮やかなマラカイトグリーンのスーツ姿が迫力満点。耳についた水色の宝石がキラキラと眩しすぎる。

 別室で待っているセラフィンとはなれてヴィオは一人、彼女の前でぱりっとした服装の青年たちに寄ってたかって採寸されてしまう。里で普段から着続けてきたみすぼらしいとしか言えない服装でここまで来たからヴィオは非常に恐縮してさらに縮こまった。

 その上、ぽいっときていたシャツをはぎとられて、ヴィオは『ひゃあ』っと声を上げて身震いした。

「これ。シャキッとしなさい。男の子でしょう。ああでもまあなんてスタイルが良いんでしょう! この均整の取れた美しい身体を見て! 筋肉も綺麗について絞れていて、でもカチカチじゃなくって弾力もあって。髪の毛は手入もせずに伸ばしっぱなしでしょ? 貴方、隣のサロンに声かけてきて。毛先だけでもきれいにしないとね。ああ、あなた、そのシャツのワンサイズ下のものを隣にいって何枚か持ってきて頂戴。寒色系中心にしてね。まあ、とっても脚が長いわね。こんなつんつるてんのズボンをよくもまあずっとはいていたこと」

 テキパキ部下に指示を出すマダムはところどころ鋭い突っ込みを入れてくる。
 膝の擦り切れ具合の位置のずれに、長らくこのズボンをはいていたと気が付かれてヴィオは恥ずかしさでいっぱいになった。
 ヴィオのそんな様子にすぐに気が付いたマダムは暖かく微笑んで、宝石だらけの手でヴィオの肩をそっと握った。

「そんな顔しないの。貴方は若くて美しいんだから胸を張りなさい」
「でもこんなにすごいお店で……。僕が着られるような服はありません」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

二人のアルファは変異Ωを逃さない!

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26
BL
★お気に入り1200⇧(new❤️)ありがとうございます♡とても励みになります! 表紙絵、イラストレーターかな様にお願いしました♡イメージぴったりでびっくりです♡ 途中変異の男らしいツンデレΩと溺愛アルファたちの因縁めいた恋の物語。 修験道で有名な白路山の麓に住む岳は市内の高校へ通っているβの新高校3年生。優等生でクールな岳の悩みは高校に入ってから周囲と比べて成長が止まった様に感じる事だった。最近は身体までだるく感じて山伏の修行もままならない。 βの自分に執着する友人のアルファの叶斗にも、妙な対応をされる様になって気が重い。本人も知らない秘密を抱えたβの岳と、東京の中高一貫校から転校してきたもう一人の謎めいたアルファの高井も岳と距離を詰めてくる。叶斗も高井も、なぜΩでもない岳から目が離せないのか、自分でも不思議でならない。 そんな岳がΩへの変異を開始して…。岳を取り巻く周囲の騒動は収まるどころか増すばかりで、それでも岳はいつもの様に、冷めた態度でマイペースで生きていく!そんな岳にすっかり振り回されていく2人のアルファの困惑と溺愛♡

【本編完結】あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~

一ノ瀬麻紀
BL
産まれた時から一緒の二人は、距離感バグった幼馴染。 そんな『幼馴染以上恋人未満』の二人が、周りから「え? あれでまだ付き合ってないの?」と言われつつ、見守られているお話。 オメガバースですが、Rなし全年齢BLとなっています。 (ほんのりRの番外編は『麻紀の色々置き場』に載せてあります) 番外編やスピンオフも公開していますので、楽しんでいただけると嬉しいです。 11/15 より、「太陽の話」(スピンオフ2)を公開しました。完結済。 表紙と挿絵は、トリュフさん(@trufflechocolat)

ちゃんちゃら

三旨加泉
BL
軽い気持ちで普段仲の良い大地と関係を持ってしまった海斗。自分はβだと思っていたが、Ωだと発覚して…? 夫夫としてはゼロからのスタートとなった二人。すれ違いまくる中、二人が出した決断はー。 ビター色の強いオメガバースラブロマンス。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

Accarezzevole

秋村
BL
愛しすぎて、壊してしまいそうなほど——。 律界を舞台に織りなす、孤独な王と人間の少年の運命の物語。 孤児として生きてきた奏人(カナト)は、ある日突然、異世界〈律界〉に落ちる。 そこに君臨するのは、美貌と冷徹さを兼ね備えた律王ソロ。 圧倒的な力を持つ男に庇護されながらも、奏人は次第に彼の孤独と優しさを知っていく。 しかし、律界には奏人の命を狙う者たちが潜み、ソロをも巻き込む陰謀が動き始める。 世界を背負う王と、ただの人間——身分も種族も違う二人が選ぶのは、愛か滅びか。 異世界BL/主従関係/溺愛・執着/甘々とシリアスの緩急が織りなす長編ストーリー。

【完結】陰キャなΩは義弟αに嫌われるほど好きになる

grotta
BL
蓉平は父親が金持ちでひきこもりの一見平凡なアラサーオメガ。 幼い頃から特殊なフェロモン体質で、誰彼構わず惹き付けてしまうのが悩みだった。 そんな蓉平の父が突然再婚することになり、大学生の義弟ができた。 それがなんと蓉平が推しているSNSのインフルエンサーAoこと蒼司だった。 【俺様インフルエンサーα×引きこもり無自覚フェロモン垂れ流しΩ】 フェロモンアレルギーの蒼司は蓉平のフェロモンに誘惑されたくない。それであえて「変態」などと言って冷たく接してくるが、フェロモン体質で人に好かれるのに嫌気がさしていた蓉平は逆に「嫌われるのって気楽〜♡」と喜んでしまう。しかも喜べば喜ぶほどフェロモンがダダ漏れになり……? ・なぜか義弟と二人暮らしするはめに ・親の陰謀(?) ・50代男性と付き合おうとしたら怒られました ※オメガバースですが、コメディですので気楽にどうぞ。 ※本編に入らなかったいちゃラブ(?)番外編は全4話。 ※6/20 本作がエブリスタの「正反対の二人のBL」コンテストにて佳作に選んで頂けました!

処理中です...