香りの献身 Ωの香水

天埜鳩愛

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再会編

写真館2

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 そう、かつては仇敵のように彼のことを忌み嫌っていたから印象深いということもあるが、そんな様子はおくびにも出さない。二人を驚いた顔をして二人を見上げるヴィオがいるからだ。

「覚えている。明星生だった。兄と仲が良かったよな」
「驚いたよ。まさかここで会えるとは。こんな偶然ってあるんだな」

 ブラントは深い青い瞳を見開くと、意外そうな顔をした。学生時代のエキセントリックですらあったセラフィンを知っている身として、彼があまりにも素直に受け応えしてきたことが意外だったのかもしれない。しかしそれが逆に良い印象を与えたらしく、彼は微笑みながらヴィオの方に向き直った。

「初めまして。私はブラント・ラズラエル。セラフィンの学生時代の友人です」

「は、初めまして。僕はヴィオ・ドリです」

「ドリ?」

 察しの良いブラントはすぐさまその名に心当たりがあったようだ。すぐに何か言いたげな顔をしてセラフィンを見つめ返してくる。セラフィンは昔の彼を彷彿させるようないっそ怖い目つきで軽くにらむと押し黙った。ブラントはそれ以上詮索することはなくヴィオに向かい丁寧に挨拶をしてくる。

「我がラズラエル百貨店にようこそ。可愛い方。写真館に御用ですか?」
「我が百貨店??」
「この百貨店は彼の一族のものなんだ」
「ええ!! すごい!! とっても綺麗でどこもかしこも素敵なお店だと思います」

 頬を紅潮させてヴィオが素直にそんなことをいうから、ブラントも目じりを下げてしまった。

「セラフィン、幸せそうで安心したよ。こんなに可愛らしい恋人ができたんだな。今もソフィアリに会いに行ったりしてないのか? 彼を会わせてやったらきっと泣いて喜ぶぞ。 今年ももうじき海の女神祭りがあるけど、俺は今年は行けそうにないが、君らはいくといいよ。トマスなんてハレヘが気に入って移住までしてるんだから」

(そうか……。俺が幸せそうに見えるのか。それにしてもこんなに饒舌な奴だったかな? )

 彼は成績優秀者がなれる明星の中でも代表格の優等生だった彼とは、学生時代はソフィアリを挟んで彼の愛情を奪い合うライバルのような関係だった。
名家の出の優等生ゆえ、融通が利かない部分も往々にしてあったと記憶している。
 しかし社会に出て揉まれ、柔和でありつつ男の余裕を感じられるような雰囲気の好人物になったようだ。

 写真を撮りたい旨を素直に話すと役に立つのが嬉しいとばかりにすぐに話をつけにいってくれた。

「彼の写真を撮ってやって欲しい」

 ヴィオの背を押すと、じいっとセラフィンを見上げて離れ際、少しだけ寂しげな顔をして、後に係の人に連れられていった。

 写真を撮る位置を支持されてちらちらとセラフィンの方をみるヴィオは、係の者にカメラの方を見る様にくぎを刺されて困り顔だ。
 そんなところも微笑ましくてセラフィンがそれを見守る位置に立っているとセ隣にブラントもやってきた。大人二人して明るく照らされたスタジオ内のヴィオを見守る形になった。

「セラフィン、あの子のこと聞いてもいいか?」
「俺の恋人ではない。預かっている子だ。お察しの通り、あの男の親族だ。」

 するとブラントはヴィオの前では見せなかった怖いぐらいに硬い表情を見せた。

「まさかとは思うけど、お前あの子になにかしたりしてないだろうな? あんな若くて素直そうな子に」
「なにかって、なんだ?」
「……あの子、フェル族で、ドリって名乗ったろ? お前は、その、つまりだな」
「はっきり言えよ。俺がソフィーを取られた復讐のためにあの子に近づいたとか、そんなこと考えたんだろ?」
「……そうだ」
「答えは『違う』だ。安心したか」

 ブラントはあからさまにほっとした表情を見せる。彼なりにセラフィンと話すことを緊張していたらしい。隙のないスーツ姿を完全に崩して、背中を反らすようにして大きく伸びをするから、完全無欠の若社長のその姿に授業員たちは瞠目している。
 ニコッと笑ったブラントは、学生時代よりもむしろセラフィンに親し気に接してきた。

「それはそうだよな。あれからもう15年もたつ。俺だってソフィアリへの想いは振り切って結婚して大分立つし、お前だって……」
「俺がなんだ?」

 口を滑らせたと、罰が悪そうなブラントの顔を見てブランドが思った以上に自分とソフィアリの間に起こったことを正確に知っているとわかったのだ。
 ソフィアリがいくら親しい友人だからと言って、彼に自分との間にあった家族の『不祥事』を話していたとは驚きを通り越してむしろ度肝を抜かれた。
双子の兄は昔から真面目なくせに大胆なところのある性格だとは知っていたが、こんな話まで周りにできていたとは。

(それだけソフィーにとって俺との暗い過去より、支えてくれる周りの人間との未来が明るかったってことだな)

 感慨深く、素直に祝福したい気持ちと、未だに過去に囚われているわが身の愚かさを嘆きたい気持ち。複雑な感情に苛まれる。

「お前とソフィアリの間にあったこと、随分前に本人から聞いたんだよ。でももうソフィアリには立派な番もいるし、お前もこうして中央にもどってきてる。もう昔のことだよな。あの子のこともなにか思うところがあって預かってるんだろ? ソフィアリ以外と関わりあうことなんてないと思ってた君がああして若い子の面倒を見ている。人って変われるんだな」

 もちろんセラフィンが一足飛びに今のような状態になったわけではない。少しずつ色々な出会いを繰り返して不器用ながらも学んできた。ジルとの出会いが再び人と親しく接していける突破口になったからこそ、こうしてヴィオの面倒を見ている自分がいるのかもしれない。誰かの影響を受けて人生がこんなにも変わるものだとは思わなかったが、それも悪くないと思った。

 ヴィオは写真を撮り終わったのか、ライトが明るくたかれた場所からこちらに向かって手を振る。そのまま歩み寄ってきたその笑顔は満天の星より眩い。

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