114 / 222
略奪編
ジルの策略2
しおりを挟む
「俺はお前に話があってきたんだ」
「だろうね。ヴィオのこと? ヴィオ、ヴィオって。あの子は、婚約者が迎えに来たんだろ?」
「知ってたのか? やっぱりお前が……。」
セラフィンが動きを止めた瞬間に上下の体勢を入れ替え、彼をソファーの上に組み敷く。黒髪がソファーに蛇のようにうねり広がり、日頃人形のように汗とは無縁な彼がしっとりと汗ばみ、めくれた黒いシャツから見える引き締まった腰元に欲情する。大きく呼吸を繰り返す胸元までシャツをたくし上げると、露わになる色の薄い胸の飾りに、顔に似合わずふっくらと逞しい胸筋。セラフィンが腰から胸にかけて滑らかな肌を撫で上げるジルの悪戯な手を掴みあげ、上目遣いにジルを睨みつけてきた。
「放せ。今すぐヴィオの居場所を教えるんだ」
自分が傷つけた白い喉元に咲く赤い噛み痕。見上げてくる美しい蒼い目はいつものように甘えた雰囲気でジルを見つめてはくれない。鋭く厳しい視線がジルを貫く。こんな顔をさせるために思いを伝えたいわけじゃない。だからと言って今をヴィオのもとに向かわせたら、彼は永遠にジルの手には入らないだろう。
(どうしても俺の気持ちを伝えたいんだ。……心が丸ごと手に入らないなら、身体だけでも結ばれたい。それはそんなにいけないことなのか?)
「なあ? ずっとセラの傍にいて守ってきたのは俺じゃないのか?」
逆の手で仕返しのように鷲掴みされていた前髪が手放され、セラフィンは諦め半ば身体の力を抜いたようにソファーに沈み込み横たわると、横を向いて薄い唇をゆがめ引き絞った。
セラフィンもジルからこれまで与えてくれた、友情を超えた献身と狂おしいほどの思慕をわかっている。分かっているから刺し違える程の抵抗をジルに働けないのだ。
そこに僅かな光明を見出し、ジルは昏い瞳にぎらりと欲を灯して彼が組み敷く美しい男を見下ろした。
そして自身のアルファの支配フェロモンを明確な意思をもって開放する。セラフィンの頭から髪の先まで再び恭しく宝物ように撫ぜ、力の抜けた手を取り自分の頬にあてがうと、切なげで低い、しかし情熱的な声色で囁く。
「セラフィン、ずっとあんたのことが好きだった。友達なんかじゃ嫌なんだ。ずっとずっと、あんたを俺のものにしたかった。
『誰よりも情熱的に、あんたを抱く』から。ずっと傍にいるから。俺だけのあんたになって欲しい」
紫の香水の香り、アルファのフェロモン、『情熱的に、抱く(抱かれる)』
これがセラフィンに暗示をかけるきっかけになる手順の全てだ。
あの女が親切にジルに暗示の掛け方を教えるとは思わなかった。半信半疑で。だから一世一代の告白の台詞に詰め込んだ暗号。
彼女を信用したわけではなかったが、さっき香水入りのアンプルを落としてしまった時に腹をくくった。
セラフィンの答えを聞きたかったのか。それとも聞きたくなかったのか。
自分でもよくわからない。
「ああっ!」
セラフィンはその言葉に抵抗し身悶えるように身体をよじると、弛緩した身体から腕が滑り床にはねるように落ちた。
「だろうね。ヴィオのこと? ヴィオ、ヴィオって。あの子は、婚約者が迎えに来たんだろ?」
「知ってたのか? やっぱりお前が……。」
セラフィンが動きを止めた瞬間に上下の体勢を入れ替え、彼をソファーの上に組み敷く。黒髪がソファーに蛇のようにうねり広がり、日頃人形のように汗とは無縁な彼がしっとりと汗ばみ、めくれた黒いシャツから見える引き締まった腰元に欲情する。大きく呼吸を繰り返す胸元までシャツをたくし上げると、露わになる色の薄い胸の飾りに、顔に似合わずふっくらと逞しい胸筋。セラフィンが腰から胸にかけて滑らかな肌を撫で上げるジルの悪戯な手を掴みあげ、上目遣いにジルを睨みつけてきた。
「放せ。今すぐヴィオの居場所を教えるんだ」
自分が傷つけた白い喉元に咲く赤い噛み痕。見上げてくる美しい蒼い目はいつものように甘えた雰囲気でジルを見つめてはくれない。鋭く厳しい視線がジルを貫く。こんな顔をさせるために思いを伝えたいわけじゃない。だからと言って今をヴィオのもとに向かわせたら、彼は永遠にジルの手には入らないだろう。
(どうしても俺の気持ちを伝えたいんだ。……心が丸ごと手に入らないなら、身体だけでも結ばれたい。それはそんなにいけないことなのか?)
「なあ? ずっとセラの傍にいて守ってきたのは俺じゃないのか?」
逆の手で仕返しのように鷲掴みされていた前髪が手放され、セラフィンは諦め半ば身体の力を抜いたようにソファーに沈み込み横たわると、横を向いて薄い唇をゆがめ引き絞った。
セラフィンもジルからこれまで与えてくれた、友情を超えた献身と狂おしいほどの思慕をわかっている。分かっているから刺し違える程の抵抗をジルに働けないのだ。
そこに僅かな光明を見出し、ジルは昏い瞳にぎらりと欲を灯して彼が組み敷く美しい男を見下ろした。
そして自身のアルファの支配フェロモンを明確な意思をもって開放する。セラフィンの頭から髪の先まで再び恭しく宝物ように撫ぜ、力の抜けた手を取り自分の頬にあてがうと、切なげで低い、しかし情熱的な声色で囁く。
「セラフィン、ずっとあんたのことが好きだった。友達なんかじゃ嫌なんだ。ずっとずっと、あんたを俺のものにしたかった。
『誰よりも情熱的に、あんたを抱く』から。ずっと傍にいるから。俺だけのあんたになって欲しい」
紫の香水の香り、アルファのフェロモン、『情熱的に、抱く(抱かれる)』
これがセラフィンに暗示をかけるきっかけになる手順の全てだ。
あの女が親切にジルに暗示の掛け方を教えるとは思わなかった。半信半疑で。だから一世一代の告白の台詞に詰め込んだ暗号。
彼女を信用したわけではなかったが、さっき香水入りのアンプルを落としてしまった時に腹をくくった。
セラフィンの答えを聞きたかったのか。それとも聞きたくなかったのか。
自分でもよくわからない。
「ああっ!」
セラフィンはその言葉に抵抗し身悶えるように身体をよじると、弛緩した身体から腕が滑り床にはねるように落ちた。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
二人のアルファは変異Ωを逃さない!
コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26
BL
★お気に入り1200⇧(new❤️)ありがとうございます♡とても励みになります!
表紙絵、イラストレーターかな様にお願いしました♡イメージぴったりでびっくりです♡
途中変異の男らしいツンデレΩと溺愛アルファたちの因縁めいた恋の物語。
修験道で有名な白路山の麓に住む岳は市内の高校へ通っているβの新高校3年生。優等生でクールな岳の悩みは高校に入ってから周囲と比べて成長が止まった様に感じる事だった。最近は身体までだるく感じて山伏の修行もままならない。
βの自分に執着する友人のアルファの叶斗にも、妙な対応をされる様になって気が重い。本人も知らない秘密を抱えたβの岳と、東京の中高一貫校から転校してきたもう一人の謎めいたアルファの高井も岳と距離を詰めてくる。叶斗も高井も、なぜΩでもない岳から目が離せないのか、自分でも不思議でならない。
そんな岳がΩへの変異を開始して…。岳を取り巻く周囲の騒動は収まるどころか増すばかりで、それでも岳はいつもの様に、冷めた態度でマイペースで生きていく!そんな岳にすっかり振り回されていく2人のアルファの困惑と溺愛♡
【本編完結】あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~
一ノ瀬麻紀
BL
産まれた時から一緒の二人は、距離感バグった幼馴染。
そんな『幼馴染以上恋人未満』の二人が、周りから「え? あれでまだ付き合ってないの?」と言われつつ、見守られているお話。
オメガバースですが、Rなし全年齢BLとなっています。
(ほんのりRの番外編は『麻紀の色々置き場』に載せてあります)
番外編やスピンオフも公開していますので、楽しんでいただけると嬉しいです。
11/15 より、「太陽の話」(スピンオフ2)を公開しました。完結済。
表紙と挿絵は、トリュフさん(@trufflechocolat)
ちゃんちゃら
三旨加泉
BL
軽い気持ちで普段仲の良い大地と関係を持ってしまった海斗。自分はβだと思っていたが、Ωだと発覚して…?
夫夫としてはゼロからのスタートとなった二人。すれ違いまくる中、二人が出した決断はー。
ビター色の強いオメガバースラブロマンス。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
Accarezzevole
秋村
BL
愛しすぎて、壊してしまいそうなほど——。
律界を舞台に織りなす、孤独な王と人間の少年の運命の物語。
孤児として生きてきた奏人(カナト)は、ある日突然、異世界〈律界〉に落ちる。
そこに君臨するのは、美貌と冷徹さを兼ね備えた律王ソロ。
圧倒的な力を持つ男に庇護されながらも、奏人は次第に彼の孤独と優しさを知っていく。
しかし、律界には奏人の命を狙う者たちが潜み、ソロをも巻き込む陰謀が動き始める。
世界を背負う王と、ただの人間——身分も種族も違う二人が選ぶのは、愛か滅びか。
異世界BL/主従関係/溺愛・執着/甘々とシリアスの緩急が織りなす長編ストーリー。
【完結】陰キャなΩは義弟αに嫌われるほど好きになる
grotta
BL
蓉平は父親が金持ちでひきこもりの一見平凡なアラサーオメガ。
幼い頃から特殊なフェロモン体質で、誰彼構わず惹き付けてしまうのが悩みだった。
そんな蓉平の父が突然再婚することになり、大学生の義弟ができた。
それがなんと蓉平が推しているSNSのインフルエンサーAoこと蒼司だった。
【俺様インフルエンサーα×引きこもり無自覚フェロモン垂れ流しΩ】
フェロモンアレルギーの蒼司は蓉平のフェロモンに誘惑されたくない。それであえて「変態」などと言って冷たく接してくるが、フェロモン体質で人に好かれるのに嫌気がさしていた蓉平は逆に「嫌われるのって気楽〜♡」と喜んでしまう。しかも喜べば喜ぶほどフェロモンがダダ漏れになり……?
・なぜか義弟と二人暮らしするはめに
・親の陰謀(?)
・50代男性と付き合おうとしたら怒られました
※オメガバースですが、コメディですので気楽にどうぞ。
※本編に入らなかったいちゃラブ(?)番外編は全4話。
※6/20 本作がエブリスタの「正反対の二人のBL」コンテストにて佳作に選んで頂けました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる