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略奪編
熱情の虜1
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「運命の番?」
あどけない程透明感のある声で聴き返すヴィオに、カイは再び目線を絡め唇を合わせようとした。しかしヴィオはふいっと顔を背けて長い睫毛を伏せながら掌でカイの口をあえかにふさぎそれを拒んだ。
分かりやすい拒絶にカイは僅かに丹精な顔をこわばらせたまま、大きな手でヴィオの手を包むように握りこむと、瑞々しい掌に愛を乞うように口づける。
ヴィオが怯んでこちらを見つめてくると、カイは懸命に自分の番と思い定めている青年の髪を掻き分けて、包帯を緩めるようにして長く太い指先で項をなぞった。オメガは急所であるそこをなぞられるとぞくぞくとした刺激が辛いほどでヴィオはぎゅっと瞳を瞑って顎を上げ、苦しげだが艶めく表情を見せつける。
支配欲をもそそられるその色香溢れる貌にカイはごくりと唾を飲みこむと、胸の奥にせり上がる『このオメガの全てを奪いたい』という欲求が再び満ち溢れるのを感じた。
「運命の番は互いのフェロモンの誘発に逆らえない。まだ開花する前の幼いお前からでも俺にはお前のフェロモンが香った。お前は俺のために生まれてきてくれたオメガだと思えたんだ。小さなころからお前が可愛くて仕方なくて、一番大切だったが、今はもっと狂おしいほどにお前が愛しい。お前を手に入れたくてたまらないんだ。前にも言ったよな? お前がいるから俺は里から出ても頑張ってこられたんだ。お前が俺の生きる理由だ」
「でも……。でも僕は」
伝えたい気持ちをヴィオが言葉にしようとしているのに、カイはまるで聞く耳を持たない。強引に自分の気持ちだけを伝えようとするから、ますますヴィオの心は冷え閉ざしてしまう。一方的な熱い告白はまだまだ続き、カイのフェロモンはヴィオを絡めとろうかというほどにさらに強くなる。心とは裏腹に、その香りに訳が分からなくなるほど心惹かれる自分が恐ろしくて、ヴィオを正気を保つように半ばカイに拘束された身体の中で自由な唇を強く噛みしめた。
カイは腕の力だけで軽々とヴィオを抱え上げて寝台の上に胡坐をかくと、子どもの頃のように向かい合わせに膝に抱きあげる。カイの厚みのある身体をぎりぎりで跨ぎ、膝立ちになりのけぞって逃げようとしたヴィオの背を押しとどめ、宥めるようにさすりながら、腕の中に強引に抱きしめてきた。欲で掠れ色気のある声色でなおも耳元で囁く。
「なあ、ヴィオ。このままここで番になって、一緒に里に戻ろう。伯父さんに話をしてヴィオがこっちで俺と暮らしながら学校に通って勉強ができるようにしてやるから。俺に任せてくれれば大丈夫だから」
『番』の単語が飛び出してヴィオはぎょっとする。まさかカイがそこまでの強硬手段に打って出ると思わなかったのだ。今さらながらここで無理やり番にされるかもしれない可能性が急激に膨らんだことに恐れ慄いた。
(番になったら……。もう絶対にセラフィン先生の傍にはいられない。カイ兄さんに縛り付けられて、僕の心にはもう何の自由もなくなるんだ)
「勝手に決めないで! 番になんてならない!」
顔が胸の中に押し付けられるように抱えられた状態で、ヴィオはもがいてカイの胸板を左拳でどんどんと叩くが、悔しいことに相性抜群のカイの甘美なフェロモンの香りを嗅ぐと、まるで魔物にでも魅入られたかのように四肢に力が入らないのだ。
上目遣いにカイを見上げるヴィオは、睨みつけたいほどの怒りを抱えた心とは乖離した蕩けた年若いオメガらしい優艶な表情をみせている。その潤んだ菫色の瞳の艶めかしさに見惚れ、カイもここに来てから初めて男らしい口元に笑みを這わした。
「綺麗だな、ヴィオ。お前は嫌がるけど、俺はいつだってお前のことを、可愛い、綺麗だって褒めたくてたまらなかった。なあ……。お前にも、俺のフェロモンが分かるだろ? 俺は感じるよ。お前のフェロモン。甘くて、清純なのに、官能的で。お前を頭から全て食べつくしてやりたくなるほど、俺を煽ってくる」
ヴィオは再び口を開いてなんとかカイに反論しようとするが、ヴィオの抵抗を嘲るようにやわやわと悪戯するかのように口を塞がれたのち、再び濃厚に合わせ唇を奪われる。くちゅりと水音が立つほどに口内を貪られ、嫌がって押しのける手首は児戯のように軽々とカイの片手で抑え込まれて抵抗を軽々と封じ込まれた。息をつく間もなく、頭がぼうっとしてくるほどに、激しい接吻からはカイの思いが込められているかのようだが、セラフィンとの口づけに感じた胸躍る悦びに及ぶはずもない。
(どうやったら、わかってくれるの? セラフィンせんせい、助けて)
あどけない程透明感のある声で聴き返すヴィオに、カイは再び目線を絡め唇を合わせようとした。しかしヴィオはふいっと顔を背けて長い睫毛を伏せながら掌でカイの口をあえかにふさぎそれを拒んだ。
分かりやすい拒絶にカイは僅かに丹精な顔をこわばらせたまま、大きな手でヴィオの手を包むように握りこむと、瑞々しい掌に愛を乞うように口づける。
ヴィオが怯んでこちらを見つめてくると、カイは懸命に自分の番と思い定めている青年の髪を掻き分けて、包帯を緩めるようにして長く太い指先で項をなぞった。オメガは急所であるそこをなぞられるとぞくぞくとした刺激が辛いほどでヴィオはぎゅっと瞳を瞑って顎を上げ、苦しげだが艶めく表情を見せつける。
支配欲をもそそられるその色香溢れる貌にカイはごくりと唾を飲みこむと、胸の奥にせり上がる『このオメガの全てを奪いたい』という欲求が再び満ち溢れるのを感じた。
「運命の番は互いのフェロモンの誘発に逆らえない。まだ開花する前の幼いお前からでも俺にはお前のフェロモンが香った。お前は俺のために生まれてきてくれたオメガだと思えたんだ。小さなころからお前が可愛くて仕方なくて、一番大切だったが、今はもっと狂おしいほどにお前が愛しい。お前を手に入れたくてたまらないんだ。前にも言ったよな? お前がいるから俺は里から出ても頑張ってこられたんだ。お前が俺の生きる理由だ」
「でも……。でも僕は」
伝えたい気持ちをヴィオが言葉にしようとしているのに、カイはまるで聞く耳を持たない。強引に自分の気持ちだけを伝えようとするから、ますますヴィオの心は冷え閉ざしてしまう。一方的な熱い告白はまだまだ続き、カイのフェロモンはヴィオを絡めとろうかというほどにさらに強くなる。心とは裏腹に、その香りに訳が分からなくなるほど心惹かれる自分が恐ろしくて、ヴィオを正気を保つように半ばカイに拘束された身体の中で自由な唇を強く噛みしめた。
カイは腕の力だけで軽々とヴィオを抱え上げて寝台の上に胡坐をかくと、子どもの頃のように向かい合わせに膝に抱きあげる。カイの厚みのある身体をぎりぎりで跨ぎ、膝立ちになりのけぞって逃げようとしたヴィオの背を押しとどめ、宥めるようにさすりながら、腕の中に強引に抱きしめてきた。欲で掠れ色気のある声色でなおも耳元で囁く。
「なあ、ヴィオ。このままここで番になって、一緒に里に戻ろう。伯父さんに話をしてヴィオがこっちで俺と暮らしながら学校に通って勉強ができるようにしてやるから。俺に任せてくれれば大丈夫だから」
『番』の単語が飛び出してヴィオはぎょっとする。まさかカイがそこまでの強硬手段に打って出ると思わなかったのだ。今さらながらここで無理やり番にされるかもしれない可能性が急激に膨らんだことに恐れ慄いた。
(番になったら……。もう絶対にセラフィン先生の傍にはいられない。カイ兄さんに縛り付けられて、僕の心にはもう何の自由もなくなるんだ)
「勝手に決めないで! 番になんてならない!」
顔が胸の中に押し付けられるように抱えられた状態で、ヴィオはもがいてカイの胸板を左拳でどんどんと叩くが、悔しいことに相性抜群のカイの甘美なフェロモンの香りを嗅ぐと、まるで魔物にでも魅入られたかのように四肢に力が入らないのだ。
上目遣いにカイを見上げるヴィオは、睨みつけたいほどの怒りを抱えた心とは乖離した蕩けた年若いオメガらしい優艶な表情をみせている。その潤んだ菫色の瞳の艶めかしさに見惚れ、カイもここに来てから初めて男らしい口元に笑みを這わした。
「綺麗だな、ヴィオ。お前は嫌がるけど、俺はいつだってお前のことを、可愛い、綺麗だって褒めたくてたまらなかった。なあ……。お前にも、俺のフェロモンが分かるだろ? 俺は感じるよ。お前のフェロモン。甘くて、清純なのに、官能的で。お前を頭から全て食べつくしてやりたくなるほど、俺を煽ってくる」
ヴィオは再び口を開いてなんとかカイに反論しようとするが、ヴィオの抵抗を嘲るようにやわやわと悪戯するかのように口を塞がれたのち、再び濃厚に合わせ唇を奪われる。くちゅりと水音が立つほどに口内を貪られ、嫌がって押しのける手首は児戯のように軽々とカイの片手で抑え込まれて抵抗を軽々と封じ込まれた。息をつく間もなく、頭がぼうっとしてくるほどに、激しい接吻からはカイの思いが込められているかのようだが、セラフィンとの口づけに感じた胸躍る悦びに及ぶはずもない。
(どうやったら、わかってくれるの? セラフィンせんせい、助けて)
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