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略奪編
対峙2
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(おおっ、こわっ。先生も本気だし、フェル族の威圧もやばいな。こりゃ血をみるかもな。このまま引いてくれないかな、カイ君)
ジルは日頃の癖でそれでもセラフィンをかばう様に一歩前に出ようとしたが、セラフィンの腕がすっと前に伸ばされそれを制した。
変わらず騒然とした周囲の様子に見た目よりずっとすばしっこいテンが危険を察知し、青ざめつつもここでヴィオを取り落しては大変なことが起こると額に汗しながら周囲を見渡す。腕の中のぐったりとした青年の命運を握るのは自分だと奮い立ったのだ。そもそもテンは英雄に憧れて軍に入った青年だったからだ。武者震いが背筋から駆け上がり、彼を抱く手に力を込め直す。
隙をつければ窓から飛び出してやると判断し、カイが来た渡り廊下とは逆側の端にある、木製のベンチや観葉植物のあるあたりに引っ込んでいった。
セラフィンは視界の端にはカイの気配を捉えつつ、ゆっくりと蒼い目を巡らせてヴィオの潤んだ瞳を捉えると、よく頑張ったと言う様に瞳で甘く微笑む。ヴィオが頑張って背を伸ばし物問いたげな半泣きの表情でただひたすらセラフィンだけを見つめてくると、セラフィンは彼にしては大仰な仕草で大きく頷いた。
「ヴィオ! よく頑張ったね」
「せんせい! ごめんなさいっ」
再び会うことができた事への感謝と万感の思いを込めた涙声のお詫びに、セラフィンはかぶりをふってもう一度大きく頷く。
「いいんだよ。無事でよかった」
「あいたかった」
「俺もだ」
明らかに互いを想い、愛情深く引き合う二人の声が響きわたる。ヴィオが赤い顔をして苦しい中でも健気に笑いかけようとし、セラフィンに向けて一生懸命にその手を伸ばした。
ここまで平静を装っていたセラフィンだが今すぐこの腕にヴィオを取り戻し、抱きしめてやりたい心地になりとても我慢できなかった。そのまままっすぐにヴィオに駆け寄ろうとし、ジルもそれに付き従おうとする。
一見ジルの号令のような一言で事態は簡単に収束し掛けたように思えた。しかし、思ってもみなかったことが起こったのだ。
笑いかけてくれたセラフィンの顔を見て心の底から安堵したのだろう。
ヴィオの中でセラフィンへの溢れるほどの愛と情熱的な想いの熱い奔流が巻き起こり、すさまじいまでのフェロモンの芳香が泉のように溢れ広がった。甘く爽やかでそれでいて嵐が巻き起こって吹き飛ばされた花々のような、官能的な眩惑のオメガフェロモンは、周囲の男たちで比較的正気を保っていた者たちをも直ちにその香りの虜にする。そして彼らは花に引き寄せられる蜜蜂のようにフェロモンに酔ったまま次々と、テンが抱き上げるヴィオに向かっていく。
「うわっ! こっちくるなって!」
「テン、その子を俺によこせ」
「俺にだ!」
争うようにそう言い募って魔物のようになってしまった仲間たちを正気に戻そうと、テンが木製の頑丈なベンチの上に飛び乗ったまま近寄ってくる男たちに蹴りを入れて威嚇するが徐々に間合いを取られていく。
「モルス先生! ちょっと気分が悪くなったんだ。ぶっ倒れたこいつのことも見てくれないか?」
口と鼻を袖で塞いだまま、アルファのフェロモンの方に充てられてぶっ倒れた友人を引きずってきた男が、セラフィンの前に立ちふさがって一生懸命言い募ってくる。
そうしてヴィオのフェロモンに体調の異変を感じたものがセラフィンの方に押し寄せてきて動きを阻まれた。
その隙にカイが前にいた男たちを押しのけ引き倒してヴィオのもとに向かっていくから、負けじとセラフィンも彼らを押しのけてカイの前に回りこんで、彼の行く手に立ちふさがった。
「そこをどけ!」
カイの恫喝に当然応じるはずはない。日頃物静かなセラフィンだがカイに負けぬほどの獰猛ともいうべき声で対抗した。
「お前の相手は俺がする」
ついに直接対決となり睨みあうセラフィンが対峙しているその背後をジルが一気に駆け抜ける。
ジルはさらに遠慮がなかった。格闘技で鍛えた身体を思う存分に動かし、タックルの要領で決して小柄でない男たちをどんどん引き倒し押し、押しのけて一番早くにテンとヴィオがいるベンチの前までたどり着いた。そしてヴィオに向けて手を伸ばしていた男たちもまとめて相手にしてあっという間に足元に沈めていった。
幸いふらふらと酒に酔ったようになっていた男たちは大体顎に一発拳を見舞えば簡単に崩れ落ちていったのでむしろ気分爽快なほどだった。
「ああ!! あんた、こんなことして……」
一見優男に見えたジルの仲間たちへの遠慮のない猛攻にテンは流石に言葉を失い、少し高い位置から全体を見まわしていたテンは、改めてオメガフェロモンの想像を絶する影響に恐ろしくて腰を抜かしそうになった。
ジルは日頃の癖でそれでもセラフィンをかばう様に一歩前に出ようとしたが、セラフィンの腕がすっと前に伸ばされそれを制した。
変わらず騒然とした周囲の様子に見た目よりずっとすばしっこいテンが危険を察知し、青ざめつつもここでヴィオを取り落しては大変なことが起こると額に汗しながら周囲を見渡す。腕の中のぐったりとした青年の命運を握るのは自分だと奮い立ったのだ。そもそもテンは英雄に憧れて軍に入った青年だったからだ。武者震いが背筋から駆け上がり、彼を抱く手に力を込め直す。
隙をつければ窓から飛び出してやると判断し、カイが来た渡り廊下とは逆側の端にある、木製のベンチや観葉植物のあるあたりに引っ込んでいった。
セラフィンは視界の端にはカイの気配を捉えつつ、ゆっくりと蒼い目を巡らせてヴィオの潤んだ瞳を捉えると、よく頑張ったと言う様に瞳で甘く微笑む。ヴィオが頑張って背を伸ばし物問いたげな半泣きの表情でただひたすらセラフィンだけを見つめてくると、セラフィンは彼にしては大仰な仕草で大きく頷いた。
「ヴィオ! よく頑張ったね」
「せんせい! ごめんなさいっ」
再び会うことができた事への感謝と万感の思いを込めた涙声のお詫びに、セラフィンはかぶりをふってもう一度大きく頷く。
「いいんだよ。無事でよかった」
「あいたかった」
「俺もだ」
明らかに互いを想い、愛情深く引き合う二人の声が響きわたる。ヴィオが赤い顔をして苦しい中でも健気に笑いかけようとし、セラフィンに向けて一生懸命にその手を伸ばした。
ここまで平静を装っていたセラフィンだが今すぐこの腕にヴィオを取り戻し、抱きしめてやりたい心地になりとても我慢できなかった。そのまままっすぐにヴィオに駆け寄ろうとし、ジルもそれに付き従おうとする。
一見ジルの号令のような一言で事態は簡単に収束し掛けたように思えた。しかし、思ってもみなかったことが起こったのだ。
笑いかけてくれたセラフィンの顔を見て心の底から安堵したのだろう。
ヴィオの中でセラフィンへの溢れるほどの愛と情熱的な想いの熱い奔流が巻き起こり、すさまじいまでのフェロモンの芳香が泉のように溢れ広がった。甘く爽やかでそれでいて嵐が巻き起こって吹き飛ばされた花々のような、官能的な眩惑のオメガフェロモンは、周囲の男たちで比較的正気を保っていた者たちをも直ちにその香りの虜にする。そして彼らは花に引き寄せられる蜜蜂のようにフェロモンに酔ったまま次々と、テンが抱き上げるヴィオに向かっていく。
「うわっ! こっちくるなって!」
「テン、その子を俺によこせ」
「俺にだ!」
争うようにそう言い募って魔物のようになってしまった仲間たちを正気に戻そうと、テンが木製の頑丈なベンチの上に飛び乗ったまま近寄ってくる男たちに蹴りを入れて威嚇するが徐々に間合いを取られていく。
「モルス先生! ちょっと気分が悪くなったんだ。ぶっ倒れたこいつのことも見てくれないか?」
口と鼻を袖で塞いだまま、アルファのフェロモンの方に充てられてぶっ倒れた友人を引きずってきた男が、セラフィンの前に立ちふさがって一生懸命言い募ってくる。
そうしてヴィオのフェロモンに体調の異変を感じたものがセラフィンの方に押し寄せてきて動きを阻まれた。
その隙にカイが前にいた男たちを押しのけ引き倒してヴィオのもとに向かっていくから、負けじとセラフィンも彼らを押しのけてカイの前に回りこんで、彼の行く手に立ちふさがった。
「そこをどけ!」
カイの恫喝に当然応じるはずはない。日頃物静かなセラフィンだがカイに負けぬほどの獰猛ともいうべき声で対抗した。
「お前の相手は俺がする」
ついに直接対決となり睨みあうセラフィンが対峙しているその背後をジルが一気に駆け抜ける。
ジルはさらに遠慮がなかった。格闘技で鍛えた身体を思う存分に動かし、タックルの要領で決して小柄でない男たちをどんどん引き倒し押し、押しのけて一番早くにテンとヴィオがいるベンチの前までたどり着いた。そしてヴィオに向けて手を伸ばしていた男たちもまとめて相手にしてあっという間に足元に沈めていった。
幸いふらふらと酒に酔ったようになっていた男たちは大体顎に一発拳を見舞えば簡単に崩れ落ちていったのでむしろ気分爽快なほどだった。
「ああ!! あんた、こんなことして……」
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