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溺愛編
クィートの失恋2
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セラフィンは再びヴィオから身体を僅かに放し、やや屈んで宝物を扱う様な仕草でそのまろい頬を撫ぜた。ヴィオも心地よさげに目を細めてにこにこと笑みがこぼれんばかりだ。そして幼い子に言って聞かせるように優しい声を出す。
「ヴィオ、屋敷のどこにもいないものだから、探したよ」
ちらり、とヴィオがくりくりした目をしてクィートを不安げに振り返るから、クィートは僅かに首を振って『木登りのことは言わないから、こっちみないでくれ~』と無言のアピールをした。ついでに先ほどまでものすごい勢いでヴィオを口説いていたことも黙っていてくれと言いたいところだったが。叔父のあの氷のように冷たい視線をみるにつけ、なにかしら感づかれていそうだが……。
「先生がお客様と大切なお話し合いをされると伺ったので……。その間少しお散歩していました。池を眺めてたらクィートさんが後から来たんです。クィートさんは先生の?」
「俺はセラフィン叔父さんの兄の子だよ。 甥っ子な? 仲良くしてくれ。ヴィオは、その……」
「ヴィオは俺の恋人だ」
「先生……」
皆まで聞く前にセラフィンがあまりにも堂々と胸を張って宣言するものだから大きな目をこぼれんばかりに見開いてヴィオすら驚いて固まってしまっていた。
(おいおい、セラフィン叔父さん、数年前まで生涯番を作らないで、ソフィアリ叔父さんを想って黄昏て暮らす勢いでいたじゃないか。だから俺だっていつも心配してて……。なのにこんなに可愛い子をどこに隠し持っていたんだよ、ずるいよ叔父さん!)
と、文句が喉元までせり上がってきたが、もはや彼らは二人の世界に戻ったようで再びクィートは視界の外だ。それにしても年の差があるとは思ったが二人で寄り添っていると中々似合いの絵になる。セラフィンはクィートが幼いころから印象が変わらぬほど若々しく美しいというのもあるが、清純かつどこか朴訥そうなまっすぐなところのあるヴィオと、ともすれば妖艶なセラフィンとはコントラストの強い真逆のような雰囲気の二人であるのに、どこかしっくりとくるのは何故なのだろう。しかしクィートはその答えを知っているような気がした。そうそれは。育った国も文化もまるで違うのに父と母に共通している独特の雰囲気。
(ああ、そうだ。番同士っていうのはどこか似る。同じ魂を分かち合ってこの世に生まれてきた一対のようにどこか似てるんだ。そういうものなんだよな。この二人まだ番にはなっていないんだろうけど……。何れそうなるような独特の同じ気配をもっているんだ)
自然に寄り添いあう二人はクィートに狂おしいほどの憧憬を呼び起こし、僅かに胸をちくりと刺さされながらも、少年の日見たいつも寂し気だった叔父が長い年月を経てついに最愛の相手に巡り合えたことには、掛け値なしの祝福を送りたかった。
「ヴィオ、気を使わなくてよかったんだ。話の相手は俺の兄だよ」
「全くその通り。俺とセラフィンに気兼ねなんてしなくてもいいんだよ」
セラフィンとよく似た艶のある声がしてきて、今度は木陰からからもう一人の叔父であるバルクまで現れた。端正さでいったらセラフィンに負けていないほどの美丈夫でならした叔父だが、容姿の点ではクィートの父であるイオルを含めてあまり似ていない兄弟だ。共通点があるとすれば空より深い青い瞳の色だけ、バルクの豪華な艶のある金髪は年齢を重ねても健在で、身体にたるみなども一切ない。人前でよくみられる仕事をしている人間の独特の華やかさがある。
オールバックになでつけた姿にニコッと微笑む目元の皺までセラフィンとはまた違う人懐っこさ、貴公子然とした堂々たる立ち居振る舞いで人を魅了する好人物だ。今ではこの国の中枢を担う若手議員の一人としてクィートも尊敬している。
「おや、クィートか? なにをしてたんだこんなところで。ヴィオくん。お久しぶりだね」
ヴィオは彼の顔に見覚えがあるようで、ふわふわと癖のある髪をふって元気よく挨拶をする。
「昔、ドリの里に来てくださったことがありますよね。議員の方だ。お久しぶりです」
「そうだよ。いかにも私は議員の方だ。でもねえ。その前にこのセラフィンのお兄様なんだよ。バルク・モルスだ。とても大きくなったね、ヴィオ。可愛らし雰囲気はそのままに立派な青年になった。眩いほどの美しさだね。セラフィンがヴィオを紹介してくれるというのに君が屋敷のどこにもいないものだから、いまの今まで皆で大騒ぎをして君を探していたんだよ。いつでもつんとすましたセラフィンを、これほど必死に走らせるのはこの世で君しかいないだろうね」
「兄さん!」
セラフィンが蒼い目を吊り上げて兄に抗議したが、彼のごく当たり前の人間らしい反応すらクィートには驚きだった。でも叔父の面映ゆげなその表情はなんだかそれの表情はとても幸せそうで、感慨深い気持ちにすらなったのだ。
バルクはどこ吹く風という感じで、その目はにやにやと人の悪そうな悪戯っぽい笑みを浮かべている。若い頃のバルクのやんちゃぶりは父から聞いていたとおりだとすればセラフィンとは別の意味で手ごわそうな人物だと思いつつクィートも挨拶した。
「敷地の中ならば自由に歩き回ってもよいとお約束してたから……。でも心配させてごめんなさい」
「いや、いいんだ。ヴィオが体調がよく、無事ならばそれで」
そう言ってヴィオが謝ってきたから、セラフィンは慌てて慰めるように彼の肩を抱き寄せると二人は見つめあいすぐに微笑みあった。
「まあ日頃この警備堅固な屋敷の中に番のいないアルファなど連絡もなしに入り込んだりはしないからねえ? なあ? クィート?」
「え、あ。あはは……。申し訳ございませんでした」
蒸し返されたうえ、再び火の粉が自分に向けて飛んできたクィートは乾いた笑い声をあげて謝るしかなかったのだった。
「ヴィオ、屋敷のどこにもいないものだから、探したよ」
ちらり、とヴィオがくりくりした目をしてクィートを不安げに振り返るから、クィートは僅かに首を振って『木登りのことは言わないから、こっちみないでくれ~』と無言のアピールをした。ついでに先ほどまでものすごい勢いでヴィオを口説いていたことも黙っていてくれと言いたいところだったが。叔父のあの氷のように冷たい視線をみるにつけ、なにかしら感づかれていそうだが……。
「先生がお客様と大切なお話し合いをされると伺ったので……。その間少しお散歩していました。池を眺めてたらクィートさんが後から来たんです。クィートさんは先生の?」
「俺はセラフィン叔父さんの兄の子だよ。 甥っ子な? 仲良くしてくれ。ヴィオは、その……」
「ヴィオは俺の恋人だ」
「先生……」
皆まで聞く前にセラフィンがあまりにも堂々と胸を張って宣言するものだから大きな目をこぼれんばかりに見開いてヴィオすら驚いて固まってしまっていた。
(おいおい、セラフィン叔父さん、数年前まで生涯番を作らないで、ソフィアリ叔父さんを想って黄昏て暮らす勢いでいたじゃないか。だから俺だっていつも心配してて……。なのにこんなに可愛い子をどこに隠し持っていたんだよ、ずるいよ叔父さん!)
と、文句が喉元までせり上がってきたが、もはや彼らは二人の世界に戻ったようで再びクィートは視界の外だ。それにしても年の差があるとは思ったが二人で寄り添っていると中々似合いの絵になる。セラフィンはクィートが幼いころから印象が変わらぬほど若々しく美しいというのもあるが、清純かつどこか朴訥そうなまっすぐなところのあるヴィオと、ともすれば妖艶なセラフィンとはコントラストの強い真逆のような雰囲気の二人であるのに、どこかしっくりとくるのは何故なのだろう。しかしクィートはその答えを知っているような気がした。そうそれは。育った国も文化もまるで違うのに父と母に共通している独特の雰囲気。
(ああ、そうだ。番同士っていうのはどこか似る。同じ魂を分かち合ってこの世に生まれてきた一対のようにどこか似てるんだ。そういうものなんだよな。この二人まだ番にはなっていないんだろうけど……。何れそうなるような独特の同じ気配をもっているんだ)
自然に寄り添いあう二人はクィートに狂おしいほどの憧憬を呼び起こし、僅かに胸をちくりと刺さされながらも、少年の日見たいつも寂し気だった叔父が長い年月を経てついに最愛の相手に巡り合えたことには、掛け値なしの祝福を送りたかった。
「ヴィオ、気を使わなくてよかったんだ。話の相手は俺の兄だよ」
「全くその通り。俺とセラフィンに気兼ねなんてしなくてもいいんだよ」
セラフィンとよく似た艶のある声がしてきて、今度は木陰からからもう一人の叔父であるバルクまで現れた。端正さでいったらセラフィンに負けていないほどの美丈夫でならした叔父だが、容姿の点ではクィートの父であるイオルを含めてあまり似ていない兄弟だ。共通点があるとすれば空より深い青い瞳の色だけ、バルクの豪華な艶のある金髪は年齢を重ねても健在で、身体にたるみなども一切ない。人前でよくみられる仕事をしている人間の独特の華やかさがある。
オールバックになでつけた姿にニコッと微笑む目元の皺までセラフィンとはまた違う人懐っこさ、貴公子然とした堂々たる立ち居振る舞いで人を魅了する好人物だ。今ではこの国の中枢を担う若手議員の一人としてクィートも尊敬している。
「おや、クィートか? なにをしてたんだこんなところで。ヴィオくん。お久しぶりだね」
ヴィオは彼の顔に見覚えがあるようで、ふわふわと癖のある髪をふって元気よく挨拶をする。
「昔、ドリの里に来てくださったことがありますよね。議員の方だ。お久しぶりです」
「そうだよ。いかにも私は議員の方だ。でもねえ。その前にこのセラフィンのお兄様なんだよ。バルク・モルスだ。とても大きくなったね、ヴィオ。可愛らし雰囲気はそのままに立派な青年になった。眩いほどの美しさだね。セラフィンがヴィオを紹介してくれるというのに君が屋敷のどこにもいないものだから、いまの今まで皆で大騒ぎをして君を探していたんだよ。いつでもつんとすましたセラフィンを、これほど必死に走らせるのはこの世で君しかいないだろうね」
「兄さん!」
セラフィンが蒼い目を吊り上げて兄に抗議したが、彼のごく当たり前の人間らしい反応すらクィートには驚きだった。でも叔父の面映ゆげなその表情はなんだかそれの表情はとても幸せそうで、感慨深い気持ちにすらなったのだ。
バルクはどこ吹く風という感じで、その目はにやにやと人の悪そうな悪戯っぽい笑みを浮かべている。若い頃のバルクのやんちゃぶりは父から聞いていたとおりだとすればセラフィンとは別の意味で手ごわそうな人物だと思いつつクィートも挨拶した。
「敷地の中ならば自由に歩き回ってもよいとお約束してたから……。でも心配させてごめんなさい」
「いや、いいんだ。ヴィオが体調がよく、無事ならばそれで」
そう言ってヴィオが謝ってきたから、セラフィンは慌てて慰めるように彼の肩を抱き寄せると二人は見つめあいすぐに微笑みあった。
「まあ日頃この警備堅固な屋敷の中に番のいないアルファなど連絡もなしに入り込んだりはしないからねえ? なあ? クィート?」
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