147 / 222
溺愛編
装具1
しおりを挟む
ヴィオは深呼吸をするように、すうっと大きく息を吸うとまずはセラフィンに向って髪が跳ねる程勢いよく一礼した。
「先生、僕が中央に急にでて来てから沢山たくさんお世話になりました。僕は世間知らずで、中央に来さえすれば自分でなんとかできるって思い込んでた。先生はそんなの無理って知ってたけど頭ごなしに否定なんてしなくて見守ってくれた。ありがとうございます」
セラフィンは頷きながらよくいったね、というようにヴィオの背中をさすってやる。すると頬に赤みがさしてヴィオはにっこりと涙の残る頬をぷっくりさせてはにかんで笑った。
(ヴィオもヴィオなりに自分の行いが無謀だったってことは分かってはいたんだな)
「あの日、郷に帰ったら父さんを説得してもう一度中央で勉強できるように援助をお願いする予定だった。自分で働けるようになったらお返しするからって。……必ずまたここに、先生のところに戻ってこようと思ってた。でもね……。僕自分のことばかり考えてて、勝手に中央に留まって……。父さんの気持ちもきいたことなかったし、里で僕を育ててくれた人たちとか、学校の先生とか……。みんなに心配をかけて蔑ろにしたとおう。みんなに謝りたい。謝って僕の気持ちもちゃんと伝えたい。……レストランの皆さんにもちゃんと謝りたいんだ」
「わかったよ。ヴィオ、郷に帰りたい?」
穏やかだが試すようなニュアンスになるのはセラフィンが物わかりの良い大人の振りをしていながら内心隠せていない本心が漏れてしまっているから。今度こそ絶対にヴィオを里に一人で返すつもりないし、自分の傍から片時も手放す気はさらさらないのだ。
「帰りたい。でもここに戻ってきたい。やっぱり僕の居場所は先生の傍だって今、実感している」
「俺もだ」
嬉しい、と一言呟いて、少しもじもじしながら再びセラフィンにもたれかかってきたヴィオを正面から抱き留め、セラフィンは満足げに頷いて同意した。
「ドリの里に帰るならば俺も一緒に行こう。アガさんには一度ご挨拶をしなければいけないとずっと考えていた。ヴィオのことを俺に任せてほしいとお願いしに行くんだ」
「先生、ありがとう。でもね……」
でも、などと言われるとまた穏やかでないが、そこはこらえて続きを大人しく聞きつつ、ヴィオの手を掴み上げるように握ってしまうのもまたアルファ特有の独占欲の表れか。ヴィオは大人しく手を繋がれながらまたゆっくりと気持ちをセラフィンに一生懸命話してくれた。
「里に帰る前に僕。やりたいことがあるんだ。僕には年の離れた兄さんが二人いるんだけど…… 雪崩があった後、父さんと意見が合わなくて。二人ともこっちに来てしまったらしくて……。僕が赤ちゃんの時に出ていったきりだから、あったこともないんだ。本当だったら二人のうちのどちらかが里を継ぐのが筋だって、里の人たちが話していたのを何度も聞いたことがある。だから二人に里を本当に継ぐ気がないか聞いてみたい。それに父さんと仲直りしてほしいんだ。リア姉さんもいってた。兄弟がいるのに話もしたことがないなんておかしいって」
(アガが言っていた長男と次男。里を丸ごと元の場所に再興することにこだわった父親と対立して、多くの若者たちが里を出ていく対立のきっかけになったらしいな)
「多分二人とも中央に住んでいるってこと以外、知らなくて。叔母さんとはこっそり連絡を取っているから中央でお母さんの親戚の仕事を手伝ってお店をしているって聞いたことがある。一度話をしてみたい」
「わかった。ヴィオがやりたかったことは、中央でお兄さんたちを探すこと、レストランのみんなに謝りに行くこと。里でアガさんと話をすること。それから俺の傍をはなれたくないということ。これでいいか?」
「いいよ」
「それが全てできたら、ヴィオは心配事がなくなるね?」
「なくなるよ」
「じゃあ、一つずつ。俺とやろう」
「うん」
「先生、僕が中央に急にでて来てから沢山たくさんお世話になりました。僕は世間知らずで、中央に来さえすれば自分でなんとかできるって思い込んでた。先生はそんなの無理って知ってたけど頭ごなしに否定なんてしなくて見守ってくれた。ありがとうございます」
セラフィンは頷きながらよくいったね、というようにヴィオの背中をさすってやる。すると頬に赤みがさしてヴィオはにっこりと涙の残る頬をぷっくりさせてはにかんで笑った。
(ヴィオもヴィオなりに自分の行いが無謀だったってことは分かってはいたんだな)
「あの日、郷に帰ったら父さんを説得してもう一度中央で勉強できるように援助をお願いする予定だった。自分で働けるようになったらお返しするからって。……必ずまたここに、先生のところに戻ってこようと思ってた。でもね……。僕自分のことばかり考えてて、勝手に中央に留まって……。父さんの気持ちもきいたことなかったし、里で僕を育ててくれた人たちとか、学校の先生とか……。みんなに心配をかけて蔑ろにしたとおう。みんなに謝りたい。謝って僕の気持ちもちゃんと伝えたい。……レストランの皆さんにもちゃんと謝りたいんだ」
「わかったよ。ヴィオ、郷に帰りたい?」
穏やかだが試すようなニュアンスになるのはセラフィンが物わかりの良い大人の振りをしていながら内心隠せていない本心が漏れてしまっているから。今度こそ絶対にヴィオを里に一人で返すつもりないし、自分の傍から片時も手放す気はさらさらないのだ。
「帰りたい。でもここに戻ってきたい。やっぱり僕の居場所は先生の傍だって今、実感している」
「俺もだ」
嬉しい、と一言呟いて、少しもじもじしながら再びセラフィンにもたれかかってきたヴィオを正面から抱き留め、セラフィンは満足げに頷いて同意した。
「ドリの里に帰るならば俺も一緒に行こう。アガさんには一度ご挨拶をしなければいけないとずっと考えていた。ヴィオのことを俺に任せてほしいとお願いしに行くんだ」
「先生、ありがとう。でもね……」
でも、などと言われるとまた穏やかでないが、そこはこらえて続きを大人しく聞きつつ、ヴィオの手を掴み上げるように握ってしまうのもまたアルファ特有の独占欲の表れか。ヴィオは大人しく手を繋がれながらまたゆっくりと気持ちをセラフィンに一生懸命話してくれた。
「里に帰る前に僕。やりたいことがあるんだ。僕には年の離れた兄さんが二人いるんだけど…… 雪崩があった後、父さんと意見が合わなくて。二人ともこっちに来てしまったらしくて……。僕が赤ちゃんの時に出ていったきりだから、あったこともないんだ。本当だったら二人のうちのどちらかが里を継ぐのが筋だって、里の人たちが話していたのを何度も聞いたことがある。だから二人に里を本当に継ぐ気がないか聞いてみたい。それに父さんと仲直りしてほしいんだ。リア姉さんもいってた。兄弟がいるのに話もしたことがないなんておかしいって」
(アガが言っていた長男と次男。里を丸ごと元の場所に再興することにこだわった父親と対立して、多くの若者たちが里を出ていく対立のきっかけになったらしいな)
「多分二人とも中央に住んでいるってこと以外、知らなくて。叔母さんとはこっそり連絡を取っているから中央でお母さんの親戚の仕事を手伝ってお店をしているって聞いたことがある。一度話をしてみたい」
「わかった。ヴィオがやりたかったことは、中央でお兄さんたちを探すこと、レストランのみんなに謝りに行くこと。里でアガさんと話をすること。それから俺の傍をはなれたくないということ。これでいいか?」
「いいよ」
「それが全てできたら、ヴィオは心配事がなくなるね?」
「なくなるよ」
「じゃあ、一つずつ。俺とやろう」
「うん」
1
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
二人のアルファは変異Ωを逃さない!
コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26
BL
★お気に入り1200⇧(new❤️)ありがとうございます♡とても励みになります!
表紙絵、イラストレーターかな様にお願いしました♡イメージぴったりでびっくりです♡
途中変異の男らしいツンデレΩと溺愛アルファたちの因縁めいた恋の物語。
修験道で有名な白路山の麓に住む岳は市内の高校へ通っているβの新高校3年生。優等生でクールな岳の悩みは高校に入ってから周囲と比べて成長が止まった様に感じる事だった。最近は身体までだるく感じて山伏の修行もままならない。
βの自分に執着する友人のアルファの叶斗にも、妙な対応をされる様になって気が重い。本人も知らない秘密を抱えたβの岳と、東京の中高一貫校から転校してきたもう一人の謎めいたアルファの高井も岳と距離を詰めてくる。叶斗も高井も、なぜΩでもない岳から目が離せないのか、自分でも不思議でならない。
そんな岳がΩへの変異を開始して…。岳を取り巻く周囲の騒動は収まるどころか増すばかりで、それでも岳はいつもの様に、冷めた態度でマイペースで生きていく!そんな岳にすっかり振り回されていく2人のアルファの困惑と溺愛♡
【本編完結】あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~
一ノ瀬麻紀
BL
産まれた時から一緒の二人は、距離感バグった幼馴染。
そんな『幼馴染以上恋人未満』の二人が、周りから「え? あれでまだ付き合ってないの?」と言われつつ、見守られているお話。
オメガバースですが、Rなし全年齢BLとなっています。
(ほんのりRの番外編は『麻紀の色々置き場』に載せてあります)
番外編やスピンオフも公開していますので、楽しんでいただけると嬉しいです。
11/15 より、「太陽の話」(スピンオフ2)を公開しました。完結済。
表紙と挿絵は、トリュフさん(@trufflechocolat)
ちゃんちゃら
三旨加泉
BL
軽い気持ちで普段仲の良い大地と関係を持ってしまった海斗。自分はβだと思っていたが、Ωだと発覚して…?
夫夫としてはゼロからのスタートとなった二人。すれ違いまくる中、二人が出した決断はー。
ビター色の強いオメガバースラブロマンス。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
Accarezzevole
秋村
BL
愛しすぎて、壊してしまいそうなほど——。
律界を舞台に織りなす、孤独な王と人間の少年の運命の物語。
孤児として生きてきた奏人(カナト)は、ある日突然、異世界〈律界〉に落ちる。
そこに君臨するのは、美貌と冷徹さを兼ね備えた律王ソロ。
圧倒的な力を持つ男に庇護されながらも、奏人は次第に彼の孤独と優しさを知っていく。
しかし、律界には奏人の命を狙う者たちが潜み、ソロをも巻き込む陰謀が動き始める。
世界を背負う王と、ただの人間——身分も種族も違う二人が選ぶのは、愛か滅びか。
異世界BL/主従関係/溺愛・執着/甘々とシリアスの緩急が織りなす長編ストーリー。
【完結】陰キャなΩは義弟αに嫌われるほど好きになる
grotta
BL
蓉平は父親が金持ちでひきこもりの一見平凡なアラサーオメガ。
幼い頃から特殊なフェロモン体質で、誰彼構わず惹き付けてしまうのが悩みだった。
そんな蓉平の父が突然再婚することになり、大学生の義弟ができた。
それがなんと蓉平が推しているSNSのインフルエンサーAoこと蒼司だった。
【俺様インフルエンサーα×引きこもり無自覚フェロモン垂れ流しΩ】
フェロモンアレルギーの蒼司は蓉平のフェロモンに誘惑されたくない。それであえて「変態」などと言って冷たく接してくるが、フェロモン体質で人に好かれるのに嫌気がさしていた蓉平は逆に「嫌われるのって気楽〜♡」と喜んでしまう。しかも喜べば喜ぶほどフェロモンがダダ漏れになり……?
・なぜか義弟と二人暮らしするはめに
・親の陰謀(?)
・50代男性と付き合おうとしたら怒られました
※オメガバースですが、コメディですので気楽にどうぞ。
※本編に入らなかったいちゃラブ(?)番外編は全4話。
※6/20 本作がエブリスタの「正反対の二人のBL」コンテストにて佳作に選んで頂けました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる