香りの献身 Ωの香水

天埜鳩愛

文字の大きさ
194 / 222
溺愛編

帰省準備3

しおりを挟む
「お前にはずっといつでも、尊敬してもらえる大人でいたかった。でも実際はこんなつまらん男だ。こんな俺でも、お前は愛してくれるんだな?」
「僕がセラを好きだって気持ちはセラよりずーっと大きいんだからね! 誰だって、いろんなことを沢山間違えるでしょう? でもほったらかしにしなければいくらだってやり直せるよね」
「そうだな。お前の言うとおりだ。でも一つだけ間違っているな」
「??」
「俺がヴィオを想う気持ちの方がずっとずっと大きいな。ヤン山脈より高いことは断言できる」

 大陸一の山の名前を口にしてセラフィンは長い脚を組み替えながら、澄まし顔で答えたからヴィオはまた大声で笑った。

 ヴィオはまた抑制しても漏れていく甘い甘いフェロモンで応じながらベンチに膝立ちすると、セラフィンの胸に顔をうずめて満足気な顔で抱き着いた。

「ねえ。いつか叔父さんとセラのお兄さんに会いに行こうね。絶対だよ」
「そうだな。いつかきっとな」

 君とともに、いつか行こう。
 南の地へ。
 二人はそう誓い合って、青い海と空へ思いを馳せたのだった。


 ベンチで話をした日から、ヴィオとセラフィンはドリの里への帰省準備を進めている。

 そしてついに父との再会が間近だと思うと、兄との対面の時よりもさらに気が引き締まる思いだった。
 ヴィオがこの街を訪れたのは一月以上前。中央は盛夏の頃だったが、季節は巡り今は朝晩はすっかり冷え込む。互いに温みを求めるのだろう、朝になるとセラフィンに抱きかかえられるようにして目を覚ます日々だった。

 昨日は病院に二人で顔を出してそれぞれが職場に挨拶と身の処し方の話をしに訪れていた。仕事を放りだしてしまったままのヴィオも、怪我からの休職を余儀なくされていたセラフィンも宙ぶらりんのまま周囲の謝罪も後回しになってしまっていたからだ。

 あの日ヴィオがカイに連れさられた現場を目撃していた、仕事の仲立ちもしてくれた恩ある受付の女性はヴィオのことをとても心配していて、元気な顔を見せると涙ぐんで喜んでくれた。
 ヴィオは益々すまなそうな顔をして頭を下げたが、並んで立っていたセラフィンと繋いだ手と手を離さないのと、顔を見合わせて笑う甘い雰囲気に気が付いて嬉しそうにしていた。

 レストランの人々にもヴィオがセラフィンと番になること、里帰りをしたのちはこちらに戻るのは未定であることを謝罪した。セラフィンも交え店長と面談しヴィオの方は仕事は一度退職することとなった。

「いきなりやってきて右も左も分からなかった僕を快く雇ってくださったのにご迷惑ばかりおかけして申し訳ありませんでした」

 そんな風に平謝りしたが、店長とちらちらと二人の顔を見に入れ代わり立ち代わり事務所に戻ってきて挨拶をしてくれている先輩女給さんたちは、みな笑顔でさよならを言ってくれた。

「そりゃね、ヴィオ君みんなに好かれていたし力仕事もできるし、動きはいいしでこっちは助かってたけどさ。……モルス先生の番になるなら、掴んだ幸せ手放しちゃだめだぞ。ヴィオ君、いつも先生の話ばかりしていただろう? 思いが通じてよかったな」
「はい」

 嬉しさこぼれんばかりの明るい声で呟くヴィオの後ろに立ったセラフィンが肩に手を置き、ヴィオ越しに店長に向かい、『任せて置け』といった感じに大きく頷きあっていたがヴィオはそれを知る由もない。

 そして明日はもう帰省という日を控えた二人は、山深い地域への戻るための秋の装いの準備と、撮影したもののあのままになってしまっていたラズラエル百貨店の写真館へ写真を受け取りに来ていた。

 写真館の前の沢山家族の笑顔が飾れれた一角。そのひと際目立つ場所に。
 セラフィンとヴィオ、二人が手を取り合い向かい合う写真が飾られているのを見つけてヴィオの心は鞠のように弾み踊った。

「先生! 見てください」

 思わず封印していた先生呼びが飛び出すほど、慌ててセラフィンを振り返るヴィオが可笑しくて愛おしい。

「よく映っている。しかもこれは……」

 銀色のベースに金色のツタの植物が巻き付く飾りのついた額縁に納まった写真は、ヴィオとセラフィン、互いの豊かな黒髪、着ていた衣服の色、背景である公園の風景のような木々の絵まで鮮やかに写っている。

「すごいな……。ここだけ時が止まっているみたいだ」
「いやあ。美しいでしょう?」

 店内から出てきた写真館の支配人がまるで我がことのように二人に自慢してくるからなんとなくおかしくてヴィオは吹き出してしまった。

「テグニ国で導入されたばかりの色付き写真ですよ。まだ一般的に受け付けられる段階の手前だったんですが。二人のお写真が評判が良すぎて先の予約が殺到しております。もちろんお二人にはこのほかにも何枚かお持ち帰りしていただきますね」
「すごいね。里のみんなに見せたいな」
「すぐにご用意いたしますね」

 再び店内に引っ込む支配人を目で追った後にヴィオは再び二人の写った写真を見ようと首を巡らした時。

 思いがけぬ人物たちがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

二人のアルファは変異Ωを逃さない!

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26
BL
★お気に入り1200⇧(new❤️)ありがとうございます♡とても励みになります! 表紙絵、イラストレーターかな様にお願いしました♡イメージぴったりでびっくりです♡ 途中変異の男らしいツンデレΩと溺愛アルファたちの因縁めいた恋の物語。 修験道で有名な白路山の麓に住む岳は市内の高校へ通っているβの新高校3年生。優等生でクールな岳の悩みは高校に入ってから周囲と比べて成長が止まった様に感じる事だった。最近は身体までだるく感じて山伏の修行もままならない。 βの自分に執着する友人のアルファの叶斗にも、妙な対応をされる様になって気が重い。本人も知らない秘密を抱えたβの岳と、東京の中高一貫校から転校してきたもう一人の謎めいたアルファの高井も岳と距離を詰めてくる。叶斗も高井も、なぜΩでもない岳から目が離せないのか、自分でも不思議でならない。 そんな岳がΩへの変異を開始して…。岳を取り巻く周囲の騒動は収まるどころか増すばかりで、それでも岳はいつもの様に、冷めた態度でマイペースで生きていく!そんな岳にすっかり振り回されていく2人のアルファの困惑と溺愛♡

【本編完結】あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~

一ノ瀬麻紀
BL
産まれた時から一緒の二人は、距離感バグった幼馴染。 そんな『幼馴染以上恋人未満』の二人が、周りから「え? あれでまだ付き合ってないの?」と言われつつ、見守られているお話。 オメガバースですが、Rなし全年齢BLとなっています。 (ほんのりRの番外編は『麻紀の色々置き場』に載せてあります) 番外編やスピンオフも公開していますので、楽しんでいただけると嬉しいです。 11/15 より、「太陽の話」(スピンオフ2)を公開しました。完結済。 表紙と挿絵は、トリュフさん(@trufflechocolat)

ちゃんちゃら

三旨加泉
BL
軽い気持ちで普段仲の良い大地と関係を持ってしまった海斗。自分はβだと思っていたが、Ωだと発覚して…? 夫夫としてはゼロからのスタートとなった二人。すれ違いまくる中、二人が出した決断はー。 ビター色の強いオメガバースラブロマンス。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

Accarezzevole

秋村
BL
愛しすぎて、壊してしまいそうなほど——。 律界を舞台に織りなす、孤独な王と人間の少年の運命の物語。 孤児として生きてきた奏人(カナト)は、ある日突然、異世界〈律界〉に落ちる。 そこに君臨するのは、美貌と冷徹さを兼ね備えた律王ソロ。 圧倒的な力を持つ男に庇護されながらも、奏人は次第に彼の孤独と優しさを知っていく。 しかし、律界には奏人の命を狙う者たちが潜み、ソロをも巻き込む陰謀が動き始める。 世界を背負う王と、ただの人間——身分も種族も違う二人が選ぶのは、愛か滅びか。 異世界BL/主従関係/溺愛・執着/甘々とシリアスの緩急が織りなす長編ストーリー。

【完結】陰キャなΩは義弟αに嫌われるほど好きになる

grotta
BL
蓉平は父親が金持ちでひきこもりの一見平凡なアラサーオメガ。 幼い頃から特殊なフェロモン体質で、誰彼構わず惹き付けてしまうのが悩みだった。 そんな蓉平の父が突然再婚することになり、大学生の義弟ができた。 それがなんと蓉平が推しているSNSのインフルエンサーAoこと蒼司だった。 【俺様インフルエンサーα×引きこもり無自覚フェロモン垂れ流しΩ】 フェロモンアレルギーの蒼司は蓉平のフェロモンに誘惑されたくない。それであえて「変態」などと言って冷たく接してくるが、フェロモン体質で人に好かれるのに嫌気がさしていた蓉平は逆に「嫌われるのって気楽〜♡」と喜んでしまう。しかも喜べば喜ぶほどフェロモンがダダ漏れになり……? ・なぜか義弟と二人暮らしするはめに ・親の陰謀(?) ・50代男性と付き合おうとしたら怒られました ※オメガバースですが、コメディですので気楽にどうぞ。 ※本編に入らなかったいちゃラブ(?)番外編は全4話。 ※6/20 本作がエブリスタの「正反対の二人のBL」コンテストにて佳作に選んで頂けました!

処理中です...