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溺愛編
帰省準備3
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「お前にはずっといつでも、尊敬してもらえる大人でいたかった。でも実際はこんなつまらん男だ。こんな俺でも、お前は愛してくれるんだな?」
「僕がセラを好きだって気持ちはセラよりずーっと大きいんだからね! 誰だって、いろんなことを沢山間違えるでしょう? でもほったらかしにしなければいくらだってやり直せるよね」
「そうだな。お前の言うとおりだ。でも一つだけ間違っているな」
「??」
「俺がヴィオを想う気持ちの方がずっとずっと大きいな。ヤン山脈より高いことは断言できる」
大陸一の山の名前を口にしてセラフィンは長い脚を組み替えながら、澄まし顔で答えたからヴィオはまた大声で笑った。
ヴィオはまた抑制しても漏れていく甘い甘いフェロモンで応じながらベンチに膝立ちすると、セラフィンの胸に顔をうずめて満足気な顔で抱き着いた。
「ねえ。いつか叔父さんとセラのお兄さんに会いに行こうね。絶対だよ」
「そうだな。いつかきっとな」
君とともに、いつか行こう。
南の地へ。
二人はそう誓い合って、青い海と空へ思いを馳せたのだった。
ベンチで話をした日から、ヴィオとセラフィンはドリの里への帰省準備を進めている。
そしてついに父との再会が間近だと思うと、兄との対面の時よりもさらに気が引き締まる思いだった。
ヴィオがこの街を訪れたのは一月以上前。中央は盛夏の頃だったが、季節は巡り今は朝晩はすっかり冷え込む。互いに温みを求めるのだろう、朝になるとセラフィンに抱きかかえられるようにして目を覚ます日々だった。
昨日は病院に二人で顔を出してそれぞれが職場に挨拶と身の処し方の話をしに訪れていた。仕事を放りだしてしまったままのヴィオも、怪我からの休職を余儀なくされていたセラフィンも宙ぶらりんのまま周囲の謝罪も後回しになってしまっていたからだ。
あの日ヴィオがカイに連れさられた現場を目撃していた、仕事の仲立ちもしてくれた恩ある受付の女性はヴィオのことをとても心配していて、元気な顔を見せると涙ぐんで喜んでくれた。
ヴィオは益々すまなそうな顔をして頭を下げたが、並んで立っていたセラフィンと繋いだ手と手を離さないのと、顔を見合わせて笑う甘い雰囲気に気が付いて嬉しそうにしていた。
レストランの人々にもヴィオがセラフィンと番になること、里帰りをしたのちはこちらに戻るのは未定であることを謝罪した。セラフィンも交え店長と面談しヴィオの方は仕事は一度退職することとなった。
「いきなりやってきて右も左も分からなかった僕を快く雇ってくださったのにご迷惑ばかりおかけして申し訳ありませんでした」
そんな風に平謝りしたが、店長とちらちらと二人の顔を見に入れ代わり立ち代わり事務所に戻ってきて挨拶をしてくれている先輩女給さんたちは、みな笑顔でさよならを言ってくれた。
「そりゃね、ヴィオ君みんなに好かれていたし力仕事もできるし、動きはいいしでこっちは助かってたけどさ。……モルス先生の番になるなら、掴んだ幸せ手放しちゃだめだぞ。ヴィオ君、いつも先生の話ばかりしていただろう? 思いが通じてよかったな」
「はい」
嬉しさこぼれんばかりの明るい声で呟くヴィオの後ろに立ったセラフィンが肩に手を置き、ヴィオ越しに店長に向かい、『任せて置け』といった感じに大きく頷きあっていたがヴィオはそれを知る由もない。
そして明日はもう帰省という日を控えた二人は、山深い地域への戻るための秋の装いの準備と、撮影したもののあのままになってしまっていたラズラエル百貨店の写真館へ写真を受け取りに来ていた。
写真館の前の沢山家族の笑顔が飾れれた一角。そのひと際目立つ場所に。
セラフィンとヴィオ、二人が手を取り合い向かい合う写真が飾られているのを見つけてヴィオの心は鞠のように弾み踊った。
「先生! 見てください」
思わず封印していた先生呼びが飛び出すほど、慌ててセラフィンを振り返るヴィオが可笑しくて愛おしい。
「よく映っている。しかもこれは……」
銀色のベースに金色のツタの植物が巻き付く飾りのついた額縁に納まった写真は、ヴィオとセラフィン、互いの豊かな黒髪、着ていた衣服の色、背景である公園の風景のような木々の絵まで鮮やかに写っている。
「すごいな……。ここだけ時が止まっているみたいだ」
「いやあ。美しいでしょう?」
店内から出てきた写真館の支配人がまるで我がことのように二人に自慢してくるからなんとなくおかしくてヴィオは吹き出してしまった。
「テグニ国で導入されたばかりの色付き写真ですよ。まだ一般的に受け付けられる段階の手前だったんですが。二人のお写真が評判が良すぎて先の予約が殺到しております。もちろんお二人にはこのほかにも何枚かお持ち帰りしていただきますね」
「すごいね。里のみんなに見せたいな」
「すぐにご用意いたしますね」
再び店内に引っ込む支配人を目で追った後にヴィオは再び二人の写った写真を見ようと首を巡らした時。
思いがけぬ人物たちがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
「僕がセラを好きだって気持ちはセラよりずーっと大きいんだからね! 誰だって、いろんなことを沢山間違えるでしょう? でもほったらかしにしなければいくらだってやり直せるよね」
「そうだな。お前の言うとおりだ。でも一つだけ間違っているな」
「??」
「俺がヴィオを想う気持ちの方がずっとずっと大きいな。ヤン山脈より高いことは断言できる」
大陸一の山の名前を口にしてセラフィンは長い脚を組み替えながら、澄まし顔で答えたからヴィオはまた大声で笑った。
ヴィオはまた抑制しても漏れていく甘い甘いフェロモンで応じながらベンチに膝立ちすると、セラフィンの胸に顔をうずめて満足気な顔で抱き着いた。
「ねえ。いつか叔父さんとセラのお兄さんに会いに行こうね。絶対だよ」
「そうだな。いつかきっとな」
君とともに、いつか行こう。
南の地へ。
二人はそう誓い合って、青い海と空へ思いを馳せたのだった。
ベンチで話をした日から、ヴィオとセラフィンはドリの里への帰省準備を進めている。
そしてついに父との再会が間近だと思うと、兄との対面の時よりもさらに気が引き締まる思いだった。
ヴィオがこの街を訪れたのは一月以上前。中央は盛夏の頃だったが、季節は巡り今は朝晩はすっかり冷え込む。互いに温みを求めるのだろう、朝になるとセラフィンに抱きかかえられるようにして目を覚ます日々だった。
昨日は病院に二人で顔を出してそれぞれが職場に挨拶と身の処し方の話をしに訪れていた。仕事を放りだしてしまったままのヴィオも、怪我からの休職を余儀なくされていたセラフィンも宙ぶらりんのまま周囲の謝罪も後回しになってしまっていたからだ。
あの日ヴィオがカイに連れさられた現場を目撃していた、仕事の仲立ちもしてくれた恩ある受付の女性はヴィオのことをとても心配していて、元気な顔を見せると涙ぐんで喜んでくれた。
ヴィオは益々すまなそうな顔をして頭を下げたが、並んで立っていたセラフィンと繋いだ手と手を離さないのと、顔を見合わせて笑う甘い雰囲気に気が付いて嬉しそうにしていた。
レストランの人々にもヴィオがセラフィンと番になること、里帰りをしたのちはこちらに戻るのは未定であることを謝罪した。セラフィンも交え店長と面談しヴィオの方は仕事は一度退職することとなった。
「いきなりやってきて右も左も分からなかった僕を快く雇ってくださったのにご迷惑ばかりおかけして申し訳ありませんでした」
そんな風に平謝りしたが、店長とちらちらと二人の顔を見に入れ代わり立ち代わり事務所に戻ってきて挨拶をしてくれている先輩女給さんたちは、みな笑顔でさよならを言ってくれた。
「そりゃね、ヴィオ君みんなに好かれていたし力仕事もできるし、動きはいいしでこっちは助かってたけどさ。……モルス先生の番になるなら、掴んだ幸せ手放しちゃだめだぞ。ヴィオ君、いつも先生の話ばかりしていただろう? 思いが通じてよかったな」
「はい」
嬉しさこぼれんばかりの明るい声で呟くヴィオの後ろに立ったセラフィンが肩に手を置き、ヴィオ越しに店長に向かい、『任せて置け』といった感じに大きく頷きあっていたがヴィオはそれを知る由もない。
そして明日はもう帰省という日を控えた二人は、山深い地域への戻るための秋の装いの準備と、撮影したもののあのままになってしまっていたラズラエル百貨店の写真館へ写真を受け取りに来ていた。
写真館の前の沢山家族の笑顔が飾れれた一角。そのひと際目立つ場所に。
セラフィンとヴィオ、二人が手を取り合い向かい合う写真が飾られているのを見つけてヴィオの心は鞠のように弾み踊った。
「先生! 見てください」
思わず封印していた先生呼びが飛び出すほど、慌ててセラフィンを振り返るヴィオが可笑しくて愛おしい。
「よく映っている。しかもこれは……」
銀色のベースに金色のツタの植物が巻き付く飾りのついた額縁に納まった写真は、ヴィオとセラフィン、互いの豊かな黒髪、着ていた衣服の色、背景である公園の風景のような木々の絵まで鮮やかに写っている。
「すごいな……。ここだけ時が止まっているみたいだ」
「いやあ。美しいでしょう?」
店内から出てきた写真館の支配人がまるで我がことのように二人に自慢してくるからなんとなくおかしくてヴィオは吹き出してしまった。
「テグニ国で導入されたばかりの色付き写真ですよ。まだ一般的に受け付けられる段階の手前だったんですが。二人のお写真が評判が良すぎて先の予約が殺到しております。もちろんお二人にはこのほかにも何枚かお持ち帰りしていただきますね」
「すごいね。里のみんなに見せたいな」
「すぐにご用意いたしますね」
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思いがけぬ人物たちがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
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