令和に活きる就活終活のヒント

《１》大手広告代理店

　総選挙の結果、麻生内閣が総辞職して、民主党党首の鳩山由紀夫が内閣総理大臣に指名された。別に、政治の話をするつもりはないけど、一切。でも、選挙ではたんまり儲けたんだろうな、俺が再就職できた会社は。俺には全く、関係ないことなんだけどさ。

　『祝　部長御就任』、だってよ。
　ピンクのバラ、ピンクのガーベラ、名前を知らないピンクの花、胡蝶蘭までピンクだし、観葉植物のベンジャミナにも、幅広のピンクのリボンが結ばれてる。そんなピンク系のフラワーアレンジメントや鉢植えで、部長の机の上、それから、第３５営業局第３営業部の床が埋まってしまった。さらに、両隣の営業部の床、通路まで、浸食しちまってるよ。新しい部長が赴任して来るんだ。俺よりずっと年下の部長。関西支社から、明後日、来るらしんだけど、もう今朝から、続々と豪勢な祝いの花々が届いてた。全て、雑誌社の女性ファッション誌の編集部からだ。ああ、広告代理店では、出版社と言わずに雑誌社と言うらしい。それにしても、こんなにあるんだね、女性ファッション誌って。「なにわ出版ウルトラゴージャス編集部」からは、開店祝に使う花輪が届いた。
「牟礼さんて、関西支社でコム担当してましたから。コム・ジャパンの宣伝部が移って来るんですよ。神戸から東京に」
　坊主頭で小柄な新川さんが教えてくれた。立場上、新川さん、て呼んでるけど、俺よりひと回り以上年下の、今年の新入社員だ。
「コム？」
「ドイツのファッションブランドです。雑誌の売上だと、そうですねえ、ウチのトップ、フォーティーぐらいには入ってるんじゃないですか。それにしてもデリカシーがないな、どこの雑誌社も。今日は御通夜だべ。しかも名前間違えてるし」
　ウルトラゴージャス編集部からの花輪が、「牟礼観音様」になってる。新しい部長は、牟礼歌音（むれ・かのん）さんだ。
　新川さんの軽のスポーツカー、黄色のダイハツ・コペンに乗せてもらって、斎場に向かう。前の部長が、死んでくれたんだ。死んでくれたのは先週だったんだけど、ある事情で、葬儀が延びていた。やっぱし、気になるな、この金髪。ヘアマニキュアかなんかで一時的に黒髪にしてもよかったんだけど、なんか、髪にさらに負荷を掛けてしまいそうで。中年太りとは逆に、脚と髪は痩せてきた。中年なんて……、でもそうなんだよな、人生の折り返し地点、目前なんだ。