令和に活きる就活終活のヒント

令和宗活(のりかつのりかつ)

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《3》COM

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 翌日は、告別式に直行して、日本玩具さんに寄って、夕方、スーパーエージェンシー株式会社第35営業局第3営業部に出社した。掛け時計の真下の出先表には、一番上に「牟礼部長」の新しいプレートが貼られていて、祝いの花々も、やや整理して置かれていた。新川さんが1人でやってくれたんだろう。その新川さんは、座席横の広いテーブルに、今日の夕刊を数紙広げて、確認していた。朝日にも、毎日にも、讀賣にも、それから、日経新聞にまで、コム(COM)のカラー広告が載ってる。で、さらに、明日発売の女性ファッション誌には、見開き2ページのカラー広告、それが3面、6ページも続いてるよ。最初のページのモデルは、キャリアウーマン風の金髪の白人女性で、暗い赤のベルベットのスーツを着てる。このカラー広告は、ファッション誌だけじゃなくて、1ページ集約バージョンで、映画や宝塚歌劇のグラビア誌にまで掲載されるらしい。
「部長昇進のお祝いに、出稿(広告を出すこと)してもらったって話になってるみたいですよ、関西支社では。アピールするよな、帰国子女は」
 関西支社にも新川さんの同期が何人かいるから、これも事実だろう。これだけの広告を出すとなると、ウン千万、もしかしたらウン億円ぐらい掛かるらしいから、それがそのまま、牟礼歌音女史が所属する営業部の売上になってくれる。広告代理店に勤めてる人間が「ウン千万、もしかしたらウン億円ぐらい掛かるらしい」なんて非常にアバウトなことを言うようだけど、俺は、媒体(TV・ラジオ・新聞・雑誌・インターネット)というより、広告には一切、関わらないっていうか、関われないから。そういう仕事なんだ、長期失業中だった折り返し目前の俺が有り付けた、広告代理店の仕事って。
「COM(コム)って、どういう意味なんですかね」関係ないと思いつつ、博学の23歳に聞いてみた。
「(Cを指して)シネマ、(Oを指して)オペラ、(Mを指して)ミュージカル。このブランド着る女は皆、人生を華麗に演じる、主演女優なんですって」
「詳しいですね、新川さん」
「どーう見ても女優になんか見えない女が、このブランドの服着て佇んでたりするんですよお。映画とかドラマのロケ地なんかで」
 この高飛車に女を選別する言い方、モテモテ男の台詞だよな。新川さんは、そうは見えない。ゆるゆるに査定してもイケメンとは言えないし、小柄だし、スポーツカーっていっても、軽のコペンだもんな。スーパーエージェンシーのブランド力なんだろうか。きっと、口説くのが上手いんだろうな、頭いいから。ステディーはいるのかな。まあ、39歳で×ゼロ○ゼロの俺が心配してやることじゃねえんだけど。結婚とか、なしかな、俺の人生。どうでもいいんだけど。それ以前に、嫌だろうなあ、39の男と貧乏デートなんて。車売っちゃったしな。仕方ない。
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