1 / 8
1
しおりを挟む
セミの鳴き声が聞こえなくなって、長袖が多くなってきたころ。
私の学年に臨時の国語の教師がきた。今、私の学年には国語の教師がいなかった。その理由は私の学年が問題児が多かったからだ。何故か国語教師を毛嫌いし、追い出すのだ。
前の国語教師はあるモンスターペアレントの苦情により辞めさせられ、その前は問題児のせいでうつ病になりいなくなった。まだ学年が変わってから半年ぐらいしかたっていないのに、もう何人もの教師がさっていった。
だが、そんな時今までにない不思議な教師がやってきた。
「はじめまして、2年1組のみなさん。今日から国語科を担当する、大城光です。ひかり、じゃなく、ひかるです。よろしくお願いします」
この先生もどうせ辞めさせられる。今、先生が話したことは教室の半分以上が聞いていない。先生の話し声よりも、はるかに教室の大勢の話し声の方がうるさかった。どうするのだろう。私は心の中でそう思っていた。
「先生大きい声出すの嫌いなんだよな。静かにしてくれますか」
誰も先生の話に耳を傾けずに、先生の声は揉み消されてしまった。
「もう一回言います。静かにしてください」
この先生、声が怒っていない。ただ、呆れているようだ。先生は期待を添えて、待っているかのように少し間を開けた。だが一向に教室が静かになる気配がなく、先生は大きく息を吸い込み、思い切り吐き出した。
「いつまでしゃべってるんですか?!」
教室の中に響き渡る大きな声で、まるで一人で応援団でもしているような。いや、応援とは真反対な違う声で先生は叫んだ。
「大きい声出してすみません。一回で静かになってもらえるとありがたいです」
クラスの一軍たちはみんな驚いた顔をした。さっきの大声を出した本人とは思えない事を言った先生にクラス中の視線が集まった。そして、驚きで静かになった教室で先生は授業を始めた。
授業が終わると、クラスの一軍グループは集まってさっきの先生の話をした。
「ビビったわー。急に大声出すとは思わないし、きも」
クラスの一軍女子は、ふっと鼻を鳴らした。こういった部類の人たちは人を馬鹿にする事で自分を高く見せようとする。そんな自分を馬鹿だと気づいていないところが、余計馬鹿に見えた。
昼休み。
私は、クラスには友達がいないが違うクラスには親友がいて、その親友の美咲が私の教室まで昼食を食べに来る。
「あ、ねぇ。そういえば大城先生知ってる?」
私は昼食の準備を終え、親友の美咲にそう聞いてみた。そしたら、美咲は呆れた顔で口を開いた。
「知らないわけないじゃん。あんたのクラスでのこと噂になってるよ。度胸だけはご立派なやつだろ?」
美咲は中学の頃ヤンチャだったらしく、口が悪い。でも、言葉に怖さがない。だからこんな私でも仲良くなれた。
「そうなの。どうせ辞めさせられるのかな。今の先生、他の先生と違う気がするの。他の先生だったら、言うだけ無駄だからって感じなのに今の先生は誰一人見捨てない感じ」
美咲は私の話に耳を傾けながらも、3大欲求の内の1つの食欲に負けていた。私より、食欲が勝ったようだ。
美咲は食べ物を全て口に放り込んだ。口をモゴモゴさせながら、言葉にならない声を出していた。
「杏奈がそう思うなんて珍しい。誰にも興味ないと思ってた」
からかうように美咲はそう言った。私は美咲の話を遮るように喋り続けた。
「なんか、みんなに頭良くなってほしい!みたいな感じなんだよね。聞いてる人だけでいいとかじゃなくさ」
ふぅん、と鼻を鳴らし興味なさそうに言った。そう言いながら、美咲は私の弁当に梅干しを入れた。
美味しいのに、と私が小言を言うと美咲は幼い子供のようにぷいっと目を逸らした。
「美咲ぃー!」
遠くの方から声が聞こえた。私の席は窓側なので、誰が来たのか確認するため美咲は廊下側に目を向けた。美咲は「ちょっと行くわ」と言い残して弁当を置いたまま席を立った。
梅干し美味しいのに。私は美咲の弁当を見ながらいたずらで一つおかずを盗もうかと考えたが、食欲に全振りしている美咲はきっととても怒るだろうと考え、私は思いとどまった。
昼休みが終わり、いつもどうりのつまらない授業を終え、私は休息として図書室に立ち寄った。
私は本が好きだ。太宰治とか、江戸川乱歩など、昔の作家が大好きだった。だが、周りには昔の作家を知ってる人。いや、本を読む人はいない。だから私は本のことを誰かと語りたくて仕方がなかった。
図書当番はいつものことながら、サボりで図書室は誰もいない私だけの、お宝の部屋になっていた。すると、どこかで物音が聞こえた。なんだろう、近づいてみると、そこには大城光先生がいた。
先生はこちらに気づき、話せる距離まで近づいてきた。そして私も先生の手にある太宰治の未完のままの本に気付いた。
「先生、太宰治先生お好きなんですか?」
先生は自分の手に持った本を見て、そしてまた私の方を見てハッとしたように口を開いた。
「牧岡さん、だよね?牧岡さんも太宰治好きなんですか?」
私は高校生とは思えない幼児のような笑顔で首を縦に振った。
「その歳で太宰治は、なかなか渋いね」
先生は私をからかうようにくすりと笑った。
「その本、未完のままですよね」
沈黙の間、気まずくなるから私はすぐに違う話を言った。
「そうだね。途中で死んでしまったから」
先生は、さっきの笑顔と対照的に、とても暗い顔になった。その顔の意味が私は分からなかったから、先生にそれを聞いてみることにした。
「人は死ぬ瞬間何を考えるんでしょう?」
今度は、暗い顔から途端に明るい顔になった。んー。と鼻を鳴らしながら先生は腕を組んだ。先生の表情はころころと変わる。
「やっぱり、最後には『生きたい』って考えるんじゃないかな。たとえ自殺でも、他殺でも、事故でも。最後の最後に気づくんだろうね。生きていた喜びに、ね」
何故そんなことが先生に分かるのかは私には分からない。生きてきた人生の差?考えても分かりそうになかったから私は考えることをやめた。
「牧岡さんはどう思ってた?」
「好きな人とか、家族とか考えるものだと思ってました。走馬灯的な?」
私が話している間、先生はうんうん、と言いながら首を縦に振った。
「それもあるよね。人によってそれぞれだよ」
「だったら、太宰治先生もそう思ったんでしょうか」
そう聞いた先生は驚いた顔をして目を見開いてこちらを見た。
「彼は少しずれていたからね」
そういうと先生は窓の外を見た。その横顔は少し笑っているように見えた。
私の学年に臨時の国語の教師がきた。今、私の学年には国語の教師がいなかった。その理由は私の学年が問題児が多かったからだ。何故か国語教師を毛嫌いし、追い出すのだ。
前の国語教師はあるモンスターペアレントの苦情により辞めさせられ、その前は問題児のせいでうつ病になりいなくなった。まだ学年が変わってから半年ぐらいしかたっていないのに、もう何人もの教師がさっていった。
だが、そんな時今までにない不思議な教師がやってきた。
「はじめまして、2年1組のみなさん。今日から国語科を担当する、大城光です。ひかり、じゃなく、ひかるです。よろしくお願いします」
この先生もどうせ辞めさせられる。今、先生が話したことは教室の半分以上が聞いていない。先生の話し声よりも、はるかに教室の大勢の話し声の方がうるさかった。どうするのだろう。私は心の中でそう思っていた。
「先生大きい声出すの嫌いなんだよな。静かにしてくれますか」
誰も先生の話に耳を傾けずに、先生の声は揉み消されてしまった。
「もう一回言います。静かにしてください」
この先生、声が怒っていない。ただ、呆れているようだ。先生は期待を添えて、待っているかのように少し間を開けた。だが一向に教室が静かになる気配がなく、先生は大きく息を吸い込み、思い切り吐き出した。
「いつまでしゃべってるんですか?!」
教室の中に響き渡る大きな声で、まるで一人で応援団でもしているような。いや、応援とは真反対な違う声で先生は叫んだ。
「大きい声出してすみません。一回で静かになってもらえるとありがたいです」
クラスの一軍たちはみんな驚いた顔をした。さっきの大声を出した本人とは思えない事を言った先生にクラス中の視線が集まった。そして、驚きで静かになった教室で先生は授業を始めた。
授業が終わると、クラスの一軍グループは集まってさっきの先生の話をした。
「ビビったわー。急に大声出すとは思わないし、きも」
クラスの一軍女子は、ふっと鼻を鳴らした。こういった部類の人たちは人を馬鹿にする事で自分を高く見せようとする。そんな自分を馬鹿だと気づいていないところが、余計馬鹿に見えた。
昼休み。
私は、クラスには友達がいないが違うクラスには親友がいて、その親友の美咲が私の教室まで昼食を食べに来る。
「あ、ねぇ。そういえば大城先生知ってる?」
私は昼食の準備を終え、親友の美咲にそう聞いてみた。そしたら、美咲は呆れた顔で口を開いた。
「知らないわけないじゃん。あんたのクラスでのこと噂になってるよ。度胸だけはご立派なやつだろ?」
美咲は中学の頃ヤンチャだったらしく、口が悪い。でも、言葉に怖さがない。だからこんな私でも仲良くなれた。
「そうなの。どうせ辞めさせられるのかな。今の先生、他の先生と違う気がするの。他の先生だったら、言うだけ無駄だからって感じなのに今の先生は誰一人見捨てない感じ」
美咲は私の話に耳を傾けながらも、3大欲求の内の1つの食欲に負けていた。私より、食欲が勝ったようだ。
美咲は食べ物を全て口に放り込んだ。口をモゴモゴさせながら、言葉にならない声を出していた。
「杏奈がそう思うなんて珍しい。誰にも興味ないと思ってた」
からかうように美咲はそう言った。私は美咲の話を遮るように喋り続けた。
「なんか、みんなに頭良くなってほしい!みたいな感じなんだよね。聞いてる人だけでいいとかじゃなくさ」
ふぅん、と鼻を鳴らし興味なさそうに言った。そう言いながら、美咲は私の弁当に梅干しを入れた。
美味しいのに、と私が小言を言うと美咲は幼い子供のようにぷいっと目を逸らした。
「美咲ぃー!」
遠くの方から声が聞こえた。私の席は窓側なので、誰が来たのか確認するため美咲は廊下側に目を向けた。美咲は「ちょっと行くわ」と言い残して弁当を置いたまま席を立った。
梅干し美味しいのに。私は美咲の弁当を見ながらいたずらで一つおかずを盗もうかと考えたが、食欲に全振りしている美咲はきっととても怒るだろうと考え、私は思いとどまった。
昼休みが終わり、いつもどうりのつまらない授業を終え、私は休息として図書室に立ち寄った。
私は本が好きだ。太宰治とか、江戸川乱歩など、昔の作家が大好きだった。だが、周りには昔の作家を知ってる人。いや、本を読む人はいない。だから私は本のことを誰かと語りたくて仕方がなかった。
図書当番はいつものことながら、サボりで図書室は誰もいない私だけの、お宝の部屋になっていた。すると、どこかで物音が聞こえた。なんだろう、近づいてみると、そこには大城光先生がいた。
先生はこちらに気づき、話せる距離まで近づいてきた。そして私も先生の手にある太宰治の未完のままの本に気付いた。
「先生、太宰治先生お好きなんですか?」
先生は自分の手に持った本を見て、そしてまた私の方を見てハッとしたように口を開いた。
「牧岡さん、だよね?牧岡さんも太宰治好きなんですか?」
私は高校生とは思えない幼児のような笑顔で首を縦に振った。
「その歳で太宰治は、なかなか渋いね」
先生は私をからかうようにくすりと笑った。
「その本、未完のままですよね」
沈黙の間、気まずくなるから私はすぐに違う話を言った。
「そうだね。途中で死んでしまったから」
先生は、さっきの笑顔と対照的に、とても暗い顔になった。その顔の意味が私は分からなかったから、先生にそれを聞いてみることにした。
「人は死ぬ瞬間何を考えるんでしょう?」
今度は、暗い顔から途端に明るい顔になった。んー。と鼻を鳴らしながら先生は腕を組んだ。先生の表情はころころと変わる。
「やっぱり、最後には『生きたい』って考えるんじゃないかな。たとえ自殺でも、他殺でも、事故でも。最後の最後に気づくんだろうね。生きていた喜びに、ね」
何故そんなことが先生に分かるのかは私には分からない。生きてきた人生の差?考えても分かりそうになかったから私は考えることをやめた。
「牧岡さんはどう思ってた?」
「好きな人とか、家族とか考えるものだと思ってました。走馬灯的な?」
私が話している間、先生はうんうん、と言いながら首を縦に振った。
「それもあるよね。人によってそれぞれだよ」
「だったら、太宰治先生もそう思ったんでしょうか」
そう聞いた先生は驚いた顔をして目を見開いてこちらを見た。
「彼は少しずれていたからね」
そういうと先生は窓の外を見た。その横顔は少し笑っているように見えた。
0
あなたにおすすめの小説
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる