竜神様の御気に入り

霞花怜

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第10話 戻った神力

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「嘘だよ、秘果」

 声を出したら、ちゃんと自分の言葉で話せた。
 
「凶玉が話している言葉は、最後だけ嘘だ。俺の体は凶に染まっていないし、浄化しても消えない」

 指を動かしてみる。
 指先も手首も、足首も動く。

「え……? 蜜梨、ちゃん?」

 秘果が驚きの目を向けている。

「今、話しているのは、蜜梨ちゃんなの? 思い出したの?」
「全部は思い出してない。俺の中にいる凶玉ってのと、秘果さんが話しているの、聞いてただけ。でも、ずっと夢は見てたから」
「夢……?」

 小さな少年が、自分の名を呼んで泣いている夢。
 あれは夢ではなく、秘果の思念が流れ込んできていたのだと思った。

「秘果さんがずっと俺を探してくれていて、俺を求めてくれてたの、申し訳ないって思う。けど、それ以上に、嬉しいと思った」
「蜜梨ちゃん……」

 秘果の顔にほんの少しだけ安堵が灯って、蜜梨はほっとした。
 蜜梨は両手に力を籠めた。
 腹の下の奥のほうに、忘れていた力の塊を感じる。

「この凶玉ってのが何者か、よくわかんないけど。コイツの考えや感情は気持ち悪い。コイツが笑うと吐きそうになる。俺は嫌いだ。だから、今の俺にできること、やってみようと思う」

 何をどうすればいいかなんて、知らない。
 だから全部、何となくだ。
 下腹の奥に力を籠めて、熱い気を滾らせる。

『お前、なんで今更、神力が使える? そんなもの、忘れているはずだろ!』

 凶玉が胸の中で慌てた声を上げた。

「これ、神力っていうんだ。教えてくれて、ありがと。お前と秘果さんの会話だけで、色々わかって、助かったよ」

 腹で凝集した神力を、体中に満たす。
 こびり付いていた錆のような凶が剥がれ落ちるのを感じた。
 剥がれた凶が黒い塵になって、目の前で霧散する。

「蜜梨ちゃん、本当に、神力が戻ってる」

 秘果が呆然と蜜梨を見上げている。

『お前の力だけでは、凶玉は祓えないぞ! 五色の竜の浄化でなければ! 何故なら私は凶を統べる悪神』
「じゃぁ、何で、さっさと俺を乗っ取って秘果さんを誘惑しなかったの?」

 蜜梨の問いかけに、凶玉が黙った。

「俺の体さえあれば、俺の振りして誘惑できたじゃん。自我を乗っ取らなかったんじゃなくて、出来なかったんだろ」

 腹で練った神力を、蜜梨はゆっくりと胸に押し上げた。

「お前が強いのは本当なんだろ。だから今も、中途半端に生きてる。でも、三百年前とは、もう勝手が違うよね」

 三百年前、蜜梨も秘果も子供だった。
 あの頃とは、状況が変わっているはずだ。

『やめろ! 神力を満たすな! 凶玉が、すり減る。小さくなる!』

 どうやらこの凶玉は、嘘が下手らしい。
 割と素直に何でも話すなと思った。

「俺の力だけじゃ、ダメそうだね。……秘果さん」
「え?」

 蜜梨は秘果に目を向けた。
 蜜梨と凶玉のやり取りを聞きながら、その身体を眺めていた秘果が顔を上げた。

「俺の神力、受け取って。俺はきっと、そういう存在なんだよね? 何ていうか、自分が戦うとかじゃなくて、力を補助するとか、そんなん」

 秘果が話していた導仙は、番以前に竜のパートナーだと言っていた。
 それはきっと、竜の力を補助する役割なのだろう。

「そう……、そうだよ! 導仙は竜の神力を補助する。瑞希は総ての神獣に力を与えて均衡を保つ桃源の要だ!」
「え……、そんな重要ポジなの?」

 さすがに、それはビックリだ。

 秘果が蜜梨に寄った。
 磔になった蜜梨の胸に指を滑らせる。

「蜜梨ちゃんの神力を、俺にちょうだい。俺の中を蜜梨ちゃんで満たして」

 秘果の顔が近付く。
 艶っぽい瞳と、少しだけ上気した頬が、色気を増して見える。

(イケメンの色気がヤバイ。なんか、ドキドキする)

 秘果の唇が近付く。
 唇が重なって、ドキリとした。

(受け取ってとは、言ったけど。神力の受け渡しって、キスなの? 待って、ちょっと……)

 いつの間にか舌が絡まって、唾液が混じる。
 キスが深まるたびに、神力が秘果の中に流れ込んでいく。

(キス……、してるだけ、なのに。神力が流れると、めちゃめちゃ気持ちぃ……)

 腹の奥が疼いて力が入ると、余計に神力が流れる。
 股間が反応しそうで、隠したいのに磔にされているから、動けない。

 くちゅっと水音が響いて唇が離れた。

「気持ちいいの、いっぱい貰ったから、コイツを祓うね」

 目を細めた秘果が妖艶に笑んだ。
 キスする前より色香が増している秘果は、とても満足そうだった。
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