13 / 33
第13話 四凶 饕餮
しおりを挟む
物心ついた時から異性同士の恋愛は違和感だった。
むしろ男同士のほうが普通に思えた。
現世の世間は『セクシャリティは人の数だけある』というけど、まだまだ異性間の恋愛が一般的で、自分は普通とは違うのだろうとぼんやり思っていた。
だからといって悲壮感とかはなく、自分が好きだと思うモノを好きでいればいいと思った。
だから嗜好がBLに流れたのは自然、自分としては普通だったんだと思う。
BLの商業誌も同人誌も腐るほど読んだ。
自分で絵を書くのも漫画を描くのも好きだ。
だけど、壁になりたいとか空気になりたいとか、そういうのとも感覚が違う。
大好きな作家さんの商業誌も同人誌もグッズも宝物で、確実にオタクだけど。
いわゆる世間一般の腐女子腐男子とは、何となく違う気がしていた。
人外ものに異様にテンションが上がるのも、スパダリ好きも、異世界ファンタジー好きも、今なら理解できる。
「全部、俺自身の趣味嗜好だったんだなって」
ベッドの中でぼそりと呟いて、蜜梨は枕に突っ伏した。
物語として好きなのではなく、実際に自分自身の性癖だっただけだ。
「だって、現世に落ちる前の百年くらいは、俺、桃源で暮らしてたんだ。そういうことじゃん」
現世に落ちる前まで、蜜梨は桃源で生まれ、桃源での暮らしが普通だったのだから。
(人外もの異世界ファンタジーBLの世界観は、俺にとっては普通だったんだ。だから好きだったんだ)
今の蜜梨はまだ記憶が曖昧だ。総てを思い出したわけではない。だが、この世界に違和感がない。
むしろ、帰ってきた安心感さえある。桃源の空気も麒麟の邸宅も、懐かしいと感じる。
(現世に落ちる前の俺と秘果さんの関係を、まだよく思い出せないけど。命を懸けてもいいと思うくらい、大切だったんだ)
凶玉を自分に封じて現世に堕ちるのが、どれだけ無謀で命懸けか、今なら理解できる。
あの時の自分は、死ぬ覚悟だったんだろう。
けれど、秘果への自分の感情が愛情だったのか友情だったのか、もっと家族的な愛だったのか。
その辺りの自分の気持ちは、うまく思い出せない。
(でも、秘果さんは確実に俺のこと、好き……、だよな)
現世まで探しに来てくれて、あれだけ必死に助けようとしてくれて、導仙の印もくれた。
「キス、だって、もう、二回も……」
唇に触れたら、顔が熱くなった。
蜜梨はまた、枕に突っ伏した。
(今の俺は秘果さんを、どう思ってんだろ。好き、なのかな。嫌いではない、絶対に。だけど、結婚できるほど好き、なんだろうか)
導仙は竜のパートナー、いずれは番になる立場だと話していた。
現世よりずっと長い時間を番として過ごせるほど、今の自分は秘果を好きなんだろうか。
(せめて記憶が戻ってくれたら。昔の俺がどう思っていたか知れたら、参考にできるのに)
突然、心臓がドクリと大きく揺れた。
胸の奥が握り潰されたように苦しくなる。
「ぅっ……、なんだ、これっ……」
『記憶が戻った程度では、わかるまい。参考にもならんぞ』
胸の奥から声が響く。
「お前、饕餮、か……」
魂に錆のようにこびり付く凶が振動する。
ふわり、と黒い靄が浮かび上がる。人の形になって、蜜梨を見下ろした。
『これでは秘果も浮かばれぬ。三百年もの長きを探し回り、邪魅や凶が蔓延る現世まで迎えに行き、この私を祓ってさえ、己が想いに気付きもせんのではなぁ』
「気付いてないわけじゃない! てか、何で具現化してんだよ。そんな力ないはず……」
饕餮の顔が近付いて、蜜梨の鼻に口付けた。
蜜梨は、その顔をぼんやりと眺めた。
『なんだ? 色男で見惚れたか?』
「うん、ちょい悪な三十代くらいの攻めっぽいなって。色気があるから相手によっては受けもあり」
『お前、何でもBLに変換するのは如何なものかと思うぞ。私はバリタチだ。受けは有り得ん』
「お前も変換してんじゃん。てか、なんで詳しいの? 四凶でしょ?」
『何故って。三百年もお前の中にいたのだぞ。お前と同じ経験をしているに決まっているだろう』
蜜梨はぱちくり、と目を瞬かせた。
「え? なにそれ、え? じゃぁ、俺が神作品引いて悶えてる時とかも」
『一緒に読んでいたな。好みが同じかと問われると、微妙に違うが』
「なんだよ、それぇ! めちゃくちゃ恥ずかしいヤツじゃん! プライベートナシじゃん!」
『出られなかったのだから仕方なかろう。お前が自分を慰めている時も……』
「言うな! それ以上、言うなぁ! 秘果さん、コイツを今すぐ祓ってぇ」
半泣きになりながら饕餮にクッションを投げつける。
身軽に避けて、饕餮が蜜梨に寄った。
『私を祓えばお前の魂も掻き消える。魂に絡まっているから、こうして姿を現せるが、安心しろ。それ以上の力はない』
蜜梨は、じっとりと饕餮をねめつけた。
『しかし、お前。私の嘘を見抜き凶玉を砕いた時は堂々としていたくせに。部屋が水浸しになった程度で心細くなったり、少し揶揄った程度で涙目になったり。よくわからん質は昔からだな』
饕餮が不思議そうに蜜梨を眺めた。
『妙なところで度胸が良い。凶玉を抱いて現世に落ちた時もそうだが、腹を括ると大胆で厄介だ』
「お前にとっては、だろ。そんなん、ただの性格だよ。思い切りがいいのは癖というか」
現世で育ててくれた施設長にも、似たようなことを良く言われた。
覚悟が決まると冷静になれるが、それまではウダウダモダモダ考え悩むのが、蜜梨の弱い所だ。
饕餮が、ニヤリと口端を上げた。
『悪いとは言っていない。むしろ可愛いと思うぞ。こう見えて、私はお前を気に入っているんだ、蜜梨。仲良くしようじゃないか』
饕餮が腕を伸ばして蜜梨を抱き寄せた。
後ろから羽交い絞めにして抱き付く。
「嫌だよ、早く祓われろ! お前が俺の魂に絡まっているうちは、俺はいつお前に飲まれるか、わからないんだろ?」
『それが、そうでもない』
蜜梨は饕餮を見上げた。
饕餮が、蜜梨の頬をべろりと舐め上げた。全身に怖気が走る。
瞬間、白い神力が飛んできて、饕餮の頭を掠めた。
「蜜梨ちゃんから離れろ。薄汚い手でそれ以上、触れるな」
鋭い目で睨む秘果を、饕餮が愉快そうに顎を上げて眺めた。
むしろ男同士のほうが普通に思えた。
現世の世間は『セクシャリティは人の数だけある』というけど、まだまだ異性間の恋愛が一般的で、自分は普通とは違うのだろうとぼんやり思っていた。
だからといって悲壮感とかはなく、自分が好きだと思うモノを好きでいればいいと思った。
だから嗜好がBLに流れたのは自然、自分としては普通だったんだと思う。
BLの商業誌も同人誌も腐るほど読んだ。
自分で絵を書くのも漫画を描くのも好きだ。
だけど、壁になりたいとか空気になりたいとか、そういうのとも感覚が違う。
大好きな作家さんの商業誌も同人誌もグッズも宝物で、確実にオタクだけど。
いわゆる世間一般の腐女子腐男子とは、何となく違う気がしていた。
人外ものに異様にテンションが上がるのも、スパダリ好きも、異世界ファンタジー好きも、今なら理解できる。
「全部、俺自身の趣味嗜好だったんだなって」
ベッドの中でぼそりと呟いて、蜜梨は枕に突っ伏した。
物語として好きなのではなく、実際に自分自身の性癖だっただけだ。
「だって、現世に落ちる前の百年くらいは、俺、桃源で暮らしてたんだ。そういうことじゃん」
現世に落ちる前まで、蜜梨は桃源で生まれ、桃源での暮らしが普通だったのだから。
(人外もの異世界ファンタジーBLの世界観は、俺にとっては普通だったんだ。だから好きだったんだ)
今の蜜梨はまだ記憶が曖昧だ。総てを思い出したわけではない。だが、この世界に違和感がない。
むしろ、帰ってきた安心感さえある。桃源の空気も麒麟の邸宅も、懐かしいと感じる。
(現世に落ちる前の俺と秘果さんの関係を、まだよく思い出せないけど。命を懸けてもいいと思うくらい、大切だったんだ)
凶玉を自分に封じて現世に堕ちるのが、どれだけ無謀で命懸けか、今なら理解できる。
あの時の自分は、死ぬ覚悟だったんだろう。
けれど、秘果への自分の感情が愛情だったのか友情だったのか、もっと家族的な愛だったのか。
その辺りの自分の気持ちは、うまく思い出せない。
(でも、秘果さんは確実に俺のこと、好き……、だよな)
現世まで探しに来てくれて、あれだけ必死に助けようとしてくれて、導仙の印もくれた。
「キス、だって、もう、二回も……」
唇に触れたら、顔が熱くなった。
蜜梨はまた、枕に突っ伏した。
(今の俺は秘果さんを、どう思ってんだろ。好き、なのかな。嫌いではない、絶対に。だけど、結婚できるほど好き、なんだろうか)
導仙は竜のパートナー、いずれは番になる立場だと話していた。
現世よりずっと長い時間を番として過ごせるほど、今の自分は秘果を好きなんだろうか。
(せめて記憶が戻ってくれたら。昔の俺がどう思っていたか知れたら、参考にできるのに)
突然、心臓がドクリと大きく揺れた。
胸の奥が握り潰されたように苦しくなる。
「ぅっ……、なんだ、これっ……」
『記憶が戻った程度では、わかるまい。参考にもならんぞ』
胸の奥から声が響く。
「お前、饕餮、か……」
魂に錆のようにこびり付く凶が振動する。
ふわり、と黒い靄が浮かび上がる。人の形になって、蜜梨を見下ろした。
『これでは秘果も浮かばれぬ。三百年もの長きを探し回り、邪魅や凶が蔓延る現世まで迎えに行き、この私を祓ってさえ、己が想いに気付きもせんのではなぁ』
「気付いてないわけじゃない! てか、何で具現化してんだよ。そんな力ないはず……」
饕餮の顔が近付いて、蜜梨の鼻に口付けた。
蜜梨は、その顔をぼんやりと眺めた。
『なんだ? 色男で見惚れたか?』
「うん、ちょい悪な三十代くらいの攻めっぽいなって。色気があるから相手によっては受けもあり」
『お前、何でもBLに変換するのは如何なものかと思うぞ。私はバリタチだ。受けは有り得ん』
「お前も変換してんじゃん。てか、なんで詳しいの? 四凶でしょ?」
『何故って。三百年もお前の中にいたのだぞ。お前と同じ経験をしているに決まっているだろう』
蜜梨はぱちくり、と目を瞬かせた。
「え? なにそれ、え? じゃぁ、俺が神作品引いて悶えてる時とかも」
『一緒に読んでいたな。好みが同じかと問われると、微妙に違うが』
「なんだよ、それぇ! めちゃくちゃ恥ずかしいヤツじゃん! プライベートナシじゃん!」
『出られなかったのだから仕方なかろう。お前が自分を慰めている時も……』
「言うな! それ以上、言うなぁ! 秘果さん、コイツを今すぐ祓ってぇ」
半泣きになりながら饕餮にクッションを投げつける。
身軽に避けて、饕餮が蜜梨に寄った。
『私を祓えばお前の魂も掻き消える。魂に絡まっているから、こうして姿を現せるが、安心しろ。それ以上の力はない』
蜜梨は、じっとりと饕餮をねめつけた。
『しかし、お前。私の嘘を見抜き凶玉を砕いた時は堂々としていたくせに。部屋が水浸しになった程度で心細くなったり、少し揶揄った程度で涙目になったり。よくわからん質は昔からだな』
饕餮が不思議そうに蜜梨を眺めた。
『妙なところで度胸が良い。凶玉を抱いて現世に落ちた時もそうだが、腹を括ると大胆で厄介だ』
「お前にとっては、だろ。そんなん、ただの性格だよ。思い切りがいいのは癖というか」
現世で育ててくれた施設長にも、似たようなことを良く言われた。
覚悟が決まると冷静になれるが、それまではウダウダモダモダ考え悩むのが、蜜梨の弱い所だ。
饕餮が、ニヤリと口端を上げた。
『悪いとは言っていない。むしろ可愛いと思うぞ。こう見えて、私はお前を気に入っているんだ、蜜梨。仲良くしようじゃないか』
饕餮が腕を伸ばして蜜梨を抱き寄せた。
後ろから羽交い絞めにして抱き付く。
「嫌だよ、早く祓われろ! お前が俺の魂に絡まっているうちは、俺はいつお前に飲まれるか、わからないんだろ?」
『それが、そうでもない』
蜜梨は饕餮を見上げた。
饕餮が、蜜梨の頬をべろりと舐め上げた。全身に怖気が走る。
瞬間、白い神力が飛んできて、饕餮の頭を掠めた。
「蜜梨ちゃんから離れろ。薄汚い手でそれ以上、触れるな」
鋭い目で睨む秘果を、饕餮が愉快そうに顎を上げて眺めた。
0
あなたにおすすめの小説
【第二章開始】死に戻りに疲れた美貌の傾国王子、生存ルートを模索する
とうこ
BL
その美しさで知られた母に似て美貌の第三王子ツェーレンは、王弟に嫁いだ隣国で不貞を疑われ哀れ極刑に……と思ったら逆行!? しかもまだ夫選びの前。訳が分からないが、同じ道は絶対に御免だ。
「隣国以外でお願いします!」
死を回避する為に選んだ先々でもバラエティ豊かにkillされ続け、巻き戻り続けるツェーレン。これが最後と十二回目の夫となったのは、有名特殊な一族の三男、天才魔術師アレスター。
彼は婚姻を拒絶するが、ツェーレンが呪いを受けていると言い解呪を約束する。
いじられ体質の情けない末っ子天才魔術師×素直前向きな呪われ美形王子。
転移日本人を祖に持つグレイシア三兄弟、三男アレスターの物語。
小説家になろう様にも掲載しております。
※本編完結。ぼちぼち番外編を投稿していきます。
神獣様の森にて。
しゅ
BL
どこ、ここ.......?
俺は橋本 俊。
残業終わり、会社のエレベーターに乗ったはずだった。
そう。そのはずである。
いつもの日常から、急に非日常になり、日常に変わる、そんなお話。
7話完結。完結後、別のペアの話を更新致します。
異世界転移をした俺は文通相手の家にお世話になることになりました
陽花紫
BL
異世界転移をしたハルトには、週に一度の楽しみがあった。
それは、文通であった。ハルトの身を受け入れてくれた老人ハンスが、文字の練習のためにと勧めたのだ。
文通相手は、年上のセラ。
手紙の上では”ハル”と名乗り、多くのやりとりを重ねていた。
ある日、ハンスが亡くなってしまう。見知らぬ世界で一人となったハルトの唯一の心の支えは、セラだけであった。
シリアスほのぼの、最終的にはハッピーエンドになる予定です。
ハルトとセラ、視点が交互に変わって話が進んでいきます。
小説家になろうにも掲載中です。
囚われた元王は逃げ出せない
スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた
そうあの日までは
忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに
なんで俺にこんな事を
「国王でないならもう俺のものだ」
「僕をあなたの側にずっといさせて」
「君のいない人生は生きられない」
「私の国の王妃にならないか」
いやいや、みんな何いってんの?
記憶を無くしたら家族に愛されました
レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない…
家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…
【8話完結】いじめられっ子だった僕が、覚醒したら騎士団長に求愛されました
キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。
けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。
そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。
なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」
それが、すべての始まりだった。
あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。
僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。
だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。
過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。
これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。
全8話。
拾った異世界の子どもがどタイプ男子に育つなんて聞いてない。
おまめ
BL
召喚に巻き込まれ異世界から来た少年、ハルを成り行きで引き取ることになった男、ソラ。立派に親代わりを務めようとしていたのに、一緒に暮らしていくうちに少年がどタイプ男子になっちゃって困ってます。
✻✻✻
2026/01/10 『1.出会い』を分割し、後半部分を『2.引き取ります。』として公開しました。
転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。
星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。
前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。
だが図書室の記録が冤罪を覆す。
そしてレイは知る。
聖女ディーンの本当の名はアキラ。
同じ日本から来た存在だった。
帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。
秘密を共有した二人は、友達になる。
人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる