26 / 36
ep25. 神子の守護者 キルリス=ポップティシア
しおりを挟む
精霊の里の中には小さな森が点在している。大木の股や枝の上に家を建てるのが普通らしい。森が開けた丘の上には、一軒の大きな家があった。
家というより、柱を立てた上に屋根を載せただけの簡素なものだ。どちらかというと日本建築風なのが気になった。
(思えば、神様の社も神社風だったし、『儀式』の準備をする村の名前もヒルコ村って名前なんだよな)
日本に異世界転移していた頃、音無家は蛭子神社の氏子だった。その関係で自分は火祭りの神楽で神楽笛を吹いていた。
(日本での俺のプロフィールって、この世界と何か関係あるのかな)
建物を遠くに眺めながら、奥の森に歩を進める。しばらく歩いた先に大樹があった。太い根に守られるように置かれたベッドで、可愛らしい女の子が眠っていた。
一見して女の子にしか見えない男の娘《こ》は、間違いなくキルリスだった。
「やっと会えた」
眠るキルリスに駆け寄る。小さな手を取り、強く握った。
「迎えに来るのが遅くなって、ごめんな。今、起こすからな」
キルリスの手を額に当てて、魔力を籠める。
小さな体を包んでいた薄い膜が、パリンと割れる感触があった。
(あれ? なんだ、この感覚……)
額に触れたキルリスの手から、何かが流れ込んでくる。
頭の中に、過去の景色が浮かんでくる。
王城の薔薇園で、絵画のように美しい男の子に会った。彼に会った瞬間、心臓が痛いくらいに掴まれた気がした。
気が付いたら男の子の姿になっていた。
目が合った時、自分は彼と生涯を共に過ごすのだと思った。
(初めてセスと話した時の記憶。俺、あの時からこんなにセスのこと想ってたんだ)
場面が切り替わる。
本のページを捲るように、次のシーンが頭に浮かぶ。
(これ、スラムで荷運び業者を追いかけていた時の……)
初めてジンジルに会った時の光景だ。あの夜、カナデはあの業者を追っていた。あの荷の中身を、知っていたからだ。
(精霊を狩る人間を、俺は知ってた。でも、誰にも言えなくて、だから一人で)
自分一人ではどうにもできない数の護衛を殺してくれたジンジルが有難かった。同時に殺人に手を染めさせてしまった申し訳なさで、涙が止まらなかった。
(あの時の彼が、ジンジルだったなんて知らなかった。知っていたら学院でお礼、言えたのに)
また場面が切り替わる。
パレス魔術学院で、『儀式』のための訓練受けていた時の光景だ。あの頃から、選定に通ったメンバーとは仲が良かった。
ほとんど毎日、一緒にいた。学院でできた友人たちは、カナデに新しい価値観と絆をくれた。
同時に、セスティやリアナとの絆も、以前より深まったと思う。
(二人のこと、大好きで、想ってくれるのが嬉しいのに応えられなくて、辛くて、でも離れたくなくて、気持ちを隠すのに、必死だった)
またページが捲れる。
過去の様々な光景《シーン》が頭の中を流れて、胸の奥に仕舞い込まれていく。
ジンジルからもらった白黒《モノクロ》の記憶にキルリスが色を付けてくれているような感覚だった。
(ああ、そっか。忘れていた感情が戻ってきてるんだ。過去の記憶と紐付いて、自分のものになってるんだ)
『儀式』の時の、少年の顔が浮かぶ。
あの時感じた、どうしようもない怒りは、自分自身に向かったものでもあった。
(俺は、気付いてたんだ。自分が女じゃないことも、ベータじゃないことも)
カイリが言った通りだ。自分の意志など殺して、我慢して隠して受け入れて、その結果が仲間を巻き込む大惨事になったことが、許せなかった。
自分の意志で生きるべきだったと、後悔した。
キルリスの手を握る手に、涙が零れ落ちる。
「カナ、カナデ!」
セスティが呼ぶ声がする。
止めようと思うのに、涙は一向に止まってくれない。
「セス、セス……」
空いた右手がセスティを求める。セスティがカナデの手を取り、肩を抱いてくれた。隣にいてくれるだけで、安心する。温もりが、後悔や不安を涙ごと吸い取ってくれるようだった。
頭の上に影が落ちた。
見上げると、キルリスが起き上がり、カナデを見降ろしていた。
「キル、起きた……」
「カナ、僕は今まで、自分の人生の半分の記憶がなかったんだ。だから手掛かりが欲しくて、精霊を狩る人間を片端から殺して、仲間を解放していた。あの時、ジルを助けたのがカナだって、知ってたよ」
「え? じゃぁ、あの時の、アレは」
人ではない強大な力を持った何者かが、荷運び業者を襲っていた。恐ろしくて、一瞬、加勢するのを躊躇った。その瞬間に、ジンジルが全て片付けてくれた。
「僕だよ。あの時、初めてカナを見た時、気付いたんだ。僕が尽くすべき主は君で、僕は守護者《ガーディアン》だってね。でも、あの頃の君は色んな皮を被っていたからね。だから一緒に『儀式』に参加しようと思ったんだ」
キルリスがカナデの額に手をあてた。
「君は選び、決断しなければならない。神様に祝福されたオメガには、役割がある。セスと一緒に、自分の前世《ルーツ》を見ておいで」
目の前がぼんやりと霞んでいく。
不安になって彷徨う手をセスティの手が掴んだ。確かな熱を感じて、カナデはゆっくりと目を閉じた。
家というより、柱を立てた上に屋根を載せただけの簡素なものだ。どちらかというと日本建築風なのが気になった。
(思えば、神様の社も神社風だったし、『儀式』の準備をする村の名前もヒルコ村って名前なんだよな)
日本に異世界転移していた頃、音無家は蛭子神社の氏子だった。その関係で自分は火祭りの神楽で神楽笛を吹いていた。
(日本での俺のプロフィールって、この世界と何か関係あるのかな)
建物を遠くに眺めながら、奥の森に歩を進める。しばらく歩いた先に大樹があった。太い根に守られるように置かれたベッドで、可愛らしい女の子が眠っていた。
一見して女の子にしか見えない男の娘《こ》は、間違いなくキルリスだった。
「やっと会えた」
眠るキルリスに駆け寄る。小さな手を取り、強く握った。
「迎えに来るのが遅くなって、ごめんな。今、起こすからな」
キルリスの手を額に当てて、魔力を籠める。
小さな体を包んでいた薄い膜が、パリンと割れる感触があった。
(あれ? なんだ、この感覚……)
額に触れたキルリスの手から、何かが流れ込んでくる。
頭の中に、過去の景色が浮かんでくる。
王城の薔薇園で、絵画のように美しい男の子に会った。彼に会った瞬間、心臓が痛いくらいに掴まれた気がした。
気が付いたら男の子の姿になっていた。
目が合った時、自分は彼と生涯を共に過ごすのだと思った。
(初めてセスと話した時の記憶。俺、あの時からこんなにセスのこと想ってたんだ)
場面が切り替わる。
本のページを捲るように、次のシーンが頭に浮かぶ。
(これ、スラムで荷運び業者を追いかけていた時の……)
初めてジンジルに会った時の光景だ。あの夜、カナデはあの業者を追っていた。あの荷の中身を、知っていたからだ。
(精霊を狩る人間を、俺は知ってた。でも、誰にも言えなくて、だから一人で)
自分一人ではどうにもできない数の護衛を殺してくれたジンジルが有難かった。同時に殺人に手を染めさせてしまった申し訳なさで、涙が止まらなかった。
(あの時の彼が、ジンジルだったなんて知らなかった。知っていたら学院でお礼、言えたのに)
また場面が切り替わる。
パレス魔術学院で、『儀式』のための訓練受けていた時の光景だ。あの頃から、選定に通ったメンバーとは仲が良かった。
ほとんど毎日、一緒にいた。学院でできた友人たちは、カナデに新しい価値観と絆をくれた。
同時に、セスティやリアナとの絆も、以前より深まったと思う。
(二人のこと、大好きで、想ってくれるのが嬉しいのに応えられなくて、辛くて、でも離れたくなくて、気持ちを隠すのに、必死だった)
またページが捲れる。
過去の様々な光景《シーン》が頭の中を流れて、胸の奥に仕舞い込まれていく。
ジンジルからもらった白黒《モノクロ》の記憶にキルリスが色を付けてくれているような感覚だった。
(ああ、そっか。忘れていた感情が戻ってきてるんだ。過去の記憶と紐付いて、自分のものになってるんだ)
『儀式』の時の、少年の顔が浮かぶ。
あの時感じた、どうしようもない怒りは、自分自身に向かったものでもあった。
(俺は、気付いてたんだ。自分が女じゃないことも、ベータじゃないことも)
カイリが言った通りだ。自分の意志など殺して、我慢して隠して受け入れて、その結果が仲間を巻き込む大惨事になったことが、許せなかった。
自分の意志で生きるべきだったと、後悔した。
キルリスの手を握る手に、涙が零れ落ちる。
「カナ、カナデ!」
セスティが呼ぶ声がする。
止めようと思うのに、涙は一向に止まってくれない。
「セス、セス……」
空いた右手がセスティを求める。セスティがカナデの手を取り、肩を抱いてくれた。隣にいてくれるだけで、安心する。温もりが、後悔や不安を涙ごと吸い取ってくれるようだった。
頭の上に影が落ちた。
見上げると、キルリスが起き上がり、カナデを見降ろしていた。
「キル、起きた……」
「カナ、僕は今まで、自分の人生の半分の記憶がなかったんだ。だから手掛かりが欲しくて、精霊を狩る人間を片端から殺して、仲間を解放していた。あの時、ジルを助けたのがカナだって、知ってたよ」
「え? じゃぁ、あの時の、アレは」
人ではない強大な力を持った何者かが、荷運び業者を襲っていた。恐ろしくて、一瞬、加勢するのを躊躇った。その瞬間に、ジンジルが全て片付けてくれた。
「僕だよ。あの時、初めてカナを見た時、気付いたんだ。僕が尽くすべき主は君で、僕は守護者《ガーディアン》だってね。でも、あの頃の君は色んな皮を被っていたからね。だから一緒に『儀式』に参加しようと思ったんだ」
キルリスがカナデの額に手をあてた。
「君は選び、決断しなければならない。神様に祝福されたオメガには、役割がある。セスと一緒に、自分の前世《ルーツ》を見ておいで」
目の前がぼんやりと霞んでいく。
不安になって彷徨う手をセスティの手が掴んだ。確かな熱を感じて、カナデはゆっくりと目を閉じた。
12
あなたにおすすめの小説
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけです!
名前が * ゆるゆ になりました。
これからもどうぞよろしくお願い致します!
表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。
悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!
水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。
それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。
家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。
そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。
ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。
誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。
「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。
これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。
後宮に咲く美しき寵后
不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。
フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。
そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。
縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。
ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。
情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。
狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。
縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。
ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。
新年に余り物でおせちを作ったら、冷酷と噂の騎士団長様に「運命の番」だと求婚されました
水凪しおん
BL
料理人だった俺が転生したのは、男性オメガというだけで家族に虐げられる不遇の青年カイ。
新年くらいはと前世の記憶を頼りに作ったのは、この世界にはない『おせち料理』だった。
それを偶然口にしたのは、氷のように冷酷と噂される最強の騎士団長リアム。
「お前は俺の運命の番だ」
彼の屋敷に保護され、俺の作る料理が彼の心を溶かしていく。
不器用で、だけどまっすぐな愛情を注いでくれる彼と、美味しい料理で紡ぐ、甘くて温かい異世界スローライフ。
悪役令息(Ω)に転生した俺、破滅回避のためΩ隠してαを装ってたら、冷徹α第一王子に婚約者にされて溺愛されてます!?
水凪しおん
BL
前世の記憶を持つ俺、リオネルは、BL小説の悪役令息に転生していた。
断罪される運命を回避するため、本来希少なΩである性を隠し、出来損ないのαとして目立たず生きてきた。
しかし、突然、原作のヒーローである冷徹な第一王子アシュレイの婚約者にされてしまう。
これは破滅フラグに違いないと絶望する俺だが、アシュレイの態度は原作とどこか違っていて……?
追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜
たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる