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第37話 久しぶりの外出②
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伊純が連れてきてくれたのは埼玉県新座市にある大型ホームセンターだった。
関東最大規模を誇る広さで、駐車場も充実している。
「人多そうだけど、大丈夫なの?」
「多いつっても、都内の観光スポットに比べたら、たかが知れてるだろ」
「そうだろうけど」
平日の昼間なのを考慮に入れれば、許容範囲なんだろうか。
何にせよ、連れてきてくれるんだから、問題ないんだろう。
「生活用品コーナーと食料品は別フロアか。全部一階だな。どっちから回る?」
「生活用品から! 一通り買い物したら荷物、車に積んで、食料品のフロアに行く!」
一番大きなカートを持って、使冴は早速、店内に入った。
「待て、カートは俺が押すから。使冴は商品、選べ」
「わかった、ありがと!」
一先ずは洗剤コーナーに向かう。
床拭き用と窓拭き用と、水垢掃除用のスポンジが欲しい。
「なんで、洗剤の場所、知ってんの? 来たこと、あんの?」
「こういうホームセンターって、商品の並びが大体、決まってんだよ。それっぽい所に行けば、当たる」
「来慣れてんな」
洗剤の成分表示をじっくり読んで、厳選する。
「マシュマロハウスは、基本の掃除用具は一式、会社用があったんだけどさ。細かいもんは個人で準備しても良くて。仕事で使うなら経費で落としてくれっから。自分で使い勝手がいいの探して使ってたんだ」
「へぇ、マメだな」
気に入った洗剤をカートに入れて、次を探す。
「洗剤や掃除道具だけじゃねぇよ。俺のお客さんは料理目当ての人も多かったから、調味料は持参してた。だから、アレルギーや宗教上使えない食材とかの事前チェックは大事でさー」
洗剤の近くに置かれている、細い歯ブラシのような掃除用具を見付けて立ち止まった。
「うわー、これ懐かしい。よく使ってたなぁ。蛇口周りの汚れとかさ、洗剤で浮かせてから、これで優しく擦ると汚れが綺麗に落ちるんだよ。毛に腰があるのに漆器やステンレスを傷付けないから重宝してさー。今のマンションでも使えるかな」
御影家の洗面台の蛇口を思い出しながら、使えるか考える。
伊純が使冴の頭をポンポンと撫でた。
「ん? 何だよ、急に」
「いや。仕事、好きだったんだなと思って」
伊純が微笑んだりするから、ちょっと照れ臭くて、使冴は目を逸らした。
「まぁ、な」
「使冴が人気だったのって、天使な見た目だけじゃねぇな。仕事内容も、天使すぎる家政夫だったんだろうな」
「は? へ?」
「一緒に住んでれば、よくわかるよ。使冴が作る飯が美味いから、外食も宅配もしたくねぇ。部屋がいつも綺麗で居心地いいから、外に出たくねぇ。布団もフカフカで寝心地いい」
伊純が普段しないような顔で笑う。
そんな風に仕事を褒められると、嬉しくて何も言えなくなる。
「洗剤、もういいのか? 他には何が欲しいんだ?」
「ん、もうちょっと、見たら。窓用も見る」
カートの先を引っ張って、伊純より前を歩いた。
(天使すぎる家政夫って名前が売れた時は、顔で客取ってるとか、叩かれたっけな)
古参の客の多くが、使冴の仕事内容を評価してSNSにアップしてくれたので炎上こそしなかったが。
顔が出回り多少でも名前が売れると、アンチは必ず湧く。
枕営業で客増やしてそう、なんて書き込みをされた時もあった。周囲の通報で、書き込みをしたアカウントが凍結していた。
(あの時はどうでも良くて全部、流してたつもりだったけど。もう、ああいう想いもしなくていいんだ)
ネット上で表立った陰口をいう人間の正体がわからないのは怖いし不安だし、疑心暗鬼になる。
仕事で訪ねる家の客が使冴に対してどんなに親切でも、本音まではわからない。
客から受けるセクハラまがいの誘いや、過剰なスキンシップ、全部纏めて怖かった。
(家事代行の仕事、今でも好きだけど。俺はもう、伊純が住んでるあの家だけで、いいや)
大好きな人が住んでいる家を綺麗にして、美味しい食事を作る。
そういう生活ができればいい。
使冴は、するすると後ろに下がって、伊純に並んだ。
カートの取っ手を握る伊純の手に手を重ねる。
伊純が、使冴の手を握った。
「窓用洗剤のあとは? そう言えば、お前の部屋のラックって足りてる? ついでに見てく?」
「俺のは、足りてる。そもそも荷物ねぇし」
体一つで拉致られたので、服も何もかも、準備されたものを使っている。
「……次、服でも買いに行くか」
「ん、行く」
指を絡めて、きゅっと握る。
恋人みたいに繋いだ手が気になって、会話どころじゃなかった。
関東最大規模を誇る広さで、駐車場も充実している。
「人多そうだけど、大丈夫なの?」
「多いつっても、都内の観光スポットに比べたら、たかが知れてるだろ」
「そうだろうけど」
平日の昼間なのを考慮に入れれば、許容範囲なんだろうか。
何にせよ、連れてきてくれるんだから、問題ないんだろう。
「生活用品コーナーと食料品は別フロアか。全部一階だな。どっちから回る?」
「生活用品から! 一通り買い物したら荷物、車に積んで、食料品のフロアに行く!」
一番大きなカートを持って、使冴は早速、店内に入った。
「待て、カートは俺が押すから。使冴は商品、選べ」
「わかった、ありがと!」
一先ずは洗剤コーナーに向かう。
床拭き用と窓拭き用と、水垢掃除用のスポンジが欲しい。
「なんで、洗剤の場所、知ってんの? 来たこと、あんの?」
「こういうホームセンターって、商品の並びが大体、決まってんだよ。それっぽい所に行けば、当たる」
「来慣れてんな」
洗剤の成分表示をじっくり読んで、厳選する。
「マシュマロハウスは、基本の掃除用具は一式、会社用があったんだけどさ。細かいもんは個人で準備しても良くて。仕事で使うなら経費で落としてくれっから。自分で使い勝手がいいの探して使ってたんだ」
「へぇ、マメだな」
気に入った洗剤をカートに入れて、次を探す。
「洗剤や掃除道具だけじゃねぇよ。俺のお客さんは料理目当ての人も多かったから、調味料は持参してた。だから、アレルギーや宗教上使えない食材とかの事前チェックは大事でさー」
洗剤の近くに置かれている、細い歯ブラシのような掃除用具を見付けて立ち止まった。
「うわー、これ懐かしい。よく使ってたなぁ。蛇口周りの汚れとかさ、洗剤で浮かせてから、これで優しく擦ると汚れが綺麗に落ちるんだよ。毛に腰があるのに漆器やステンレスを傷付けないから重宝してさー。今のマンションでも使えるかな」
御影家の洗面台の蛇口を思い出しながら、使えるか考える。
伊純が使冴の頭をポンポンと撫でた。
「ん? 何だよ、急に」
「いや。仕事、好きだったんだなと思って」
伊純が微笑んだりするから、ちょっと照れ臭くて、使冴は目を逸らした。
「まぁ、な」
「使冴が人気だったのって、天使な見た目だけじゃねぇな。仕事内容も、天使すぎる家政夫だったんだろうな」
「は? へ?」
「一緒に住んでれば、よくわかるよ。使冴が作る飯が美味いから、外食も宅配もしたくねぇ。部屋がいつも綺麗で居心地いいから、外に出たくねぇ。布団もフカフカで寝心地いい」
伊純が普段しないような顔で笑う。
そんな風に仕事を褒められると、嬉しくて何も言えなくなる。
「洗剤、もういいのか? 他には何が欲しいんだ?」
「ん、もうちょっと、見たら。窓用も見る」
カートの先を引っ張って、伊純より前を歩いた。
(天使すぎる家政夫って名前が売れた時は、顔で客取ってるとか、叩かれたっけな)
古参の客の多くが、使冴の仕事内容を評価してSNSにアップしてくれたので炎上こそしなかったが。
顔が出回り多少でも名前が売れると、アンチは必ず湧く。
枕営業で客増やしてそう、なんて書き込みをされた時もあった。周囲の通報で、書き込みをしたアカウントが凍結していた。
(あの時はどうでも良くて全部、流してたつもりだったけど。もう、ああいう想いもしなくていいんだ)
ネット上で表立った陰口をいう人間の正体がわからないのは怖いし不安だし、疑心暗鬼になる。
仕事で訪ねる家の客が使冴に対してどんなに親切でも、本音まではわからない。
客から受けるセクハラまがいの誘いや、過剰なスキンシップ、全部纏めて怖かった。
(家事代行の仕事、今でも好きだけど。俺はもう、伊純が住んでるあの家だけで、いいや)
大好きな人が住んでいる家を綺麗にして、美味しい食事を作る。
そういう生活ができればいい。
使冴は、するすると後ろに下がって、伊純に並んだ。
カートの取っ手を握る伊純の手に手を重ねる。
伊純が、使冴の手を握った。
「窓用洗剤のあとは? そう言えば、お前の部屋のラックって足りてる? ついでに見てく?」
「俺のは、足りてる。そもそも荷物ねぇし」
体一つで拉致られたので、服も何もかも、準備されたものを使っている。
「……次、服でも買いに行くか」
「ん、行く」
指を絡めて、きゅっと握る。
恋人みたいに繋いだ手が気になって、会話どころじゃなかった。
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