RESET:監禁されて溺愛されたら運命の初恋が始まりました

霞花怜

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第80話 解決②

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「これで、いいかな? 葵父さん」

 ステージから降りた倫太郎が、葵の前に立った。

「良いも何も、俺はお前らに、好きにしろって言ったんだ。これが、お前が望んだ結果だろ?」
「倫太郎が望んだ結果は、違った。殺すと約束したんだ。なのに、殺せなかった」

 倫太郎が、ステージ上の使冴を、ちらりと眺めた。

「どうして、殺せなかった?」
「使冴君が言う生き地獄を味わわせてみたくなった。僕は約束を果たさなきゃいけないのに」

 葵に向かって話す倫太郎に、いつもの飄々とした様子はない。
 まるで懺悔する子供のようだ。

「なら、それでいいだろ。倫太郎がしたいようにすればいい」
「倫太郎は、あの男を憎んでいたし、殺しだがっていたよ」
「弟の気持ちじゃない。俺が今、聞いているのは、お前がどうしたいかだよ、倫太郎」
「俺は雀蜂だ。倫太郎は、弟だよ」

 葵の言葉に、倫太郎が唇を噛んだ。

聖己あの人がそうしろと言ったから、倫太郎を真似して生きた。約束のために、倫太郎を演じた。約束が終われば僕はまた、何もない雀蜂だ」

 倫太郎が銃を降ろしたまま項垂れた。
 葵が小さな笑みを零した。

「馬鹿だなぁ。そんな簡単に終われたら、苦労しねぇよ。お前は産まれた時から今も、倫太郎だ。倫太郎で生きるしかねぇんだよ」
「倫太郎で? 次は、何のために倫太郎を演じればいい?」

 上がった倫太郎の目に不安が浮かぶ。

「演じるんじゃなく、自分ていう倫太郎を探せ。外側から注ぎ込むんじゃなく、内側から沸き上がる何かを探せ」
「輪郭の、内側?」

 不安を呈した目に驚きが浮いた。

「俺が見付けられない、湧き上がる何か。今の倫太郎なら、見付けられるだろ」
「僕の中は、空っぽなのに。そんなものが、見つかるかな」

 葵の言葉に、倫太郎の目が泳いだ。

「そのために必要なら、倫太郎や匠との約束を利用しろ。聖己や俺が死ぬまで、根黒組を完全に奪うか壊すまでが、約束だ」
「約束は、守るよ。それが僕の生きる意味だ」

 葵が倫太郎の指を控えめに握った。

「汚ぇ仕事ばっかり背負わせて、守ってもやれなくて、悪かったな。悪いついでに、これからも背負ってくれよ。俺は子供ばっか産み過ぎて、体もボロボロで動けねぇし、寿命も長くはねぇからさ。後は頼むよ、倫太郎」

 倫太郎の目に、うっすらと涙が滲んでいた。
 俯いた倫太郎の肩を伊織が抱いた。

「約束なら、果たしただろ。天久聖己は社会的に死んだ。根黒組はDissolveがバラす。組長である根黒厳随は逮捕だ。倫太郎を縛る約束は、もうない」
「伊織……」

 葵から倫太郎の体を離し、伊織が前に出た。

「良い話風に纏めようとしてるけど、雀蜂を幼少から洗脳的に躾けて駒に仕立てたのは、聖己よりアンタだろう、双葉葵。根黒厳随が神隠しと異名が付くほど正体不明だったのは、聖己と葵の二人で組長の名を使っていたからだ。厳随の名の元、二人で役割を分け合っていた。商品管理が役割だったアンタは随分と倫太郎の扱いに慣れているね」

 伊織が敵意を隠さず葵を睨み据える。

「その通りだから、言い訳はしないよ。けどね、これでも俺なりに倫太郎を可愛いと思って育てていた。施設の子供たちだって、可愛い我が子だったんだ。オークションに出したりなんか、したくなかったさ」

 葵が悲し気に目を伏した。

「産んだ子供は札束と同じに見える、だったか。アンタが側近に零した言葉だ」

 伊純が投げた言葉に、葵がピクリと肩を震わせた。

「オークションの商品は、アンタが厳選してた。NGRの人気調教師はアンタだ。年端もいかないガキを大人の性玩具に育てんのが、楽しくて仕方ねぇ。その過程で死んだガキを、横浜の墓地に埋葬してた。アンタも立派にイカれた変態で、犯罪者だろ」

 伊純の説明にも、葵は俯いたまま動かない。

「双葉葵は根黒組において最も権力を有する組長。地位を維持するため殺しも厭わない。白玉銀次が包み隠さず吐いたよ。今回は随分と長期戦で自分の旦那天久聖己を陥れたものだね」

 伊織の最後の一押しに、葵の肩が小さく震えた。

「あぁ、そっか……。結局、銀次は御影の犬だったか」
「白玉のおじきが最後まで義を持って守ってたのは、根黒組でも御影でもなく、倫太郎と使冴だったよ」

 伊純の言葉が意外で、使冴は問い掛けた。

「俺のことも?」
「マシュマロハウスにいた頃からずっと、白玉のおじきは使冴を見守ってたよ」

 伊純の暴露に使冴は驚いた。だが、腑に落ちた。
 マシュマロハウスにいた頃から、白玉は使冴を傷付けるような仕事のさせ方をしなかった。
 捕縛されても黙秘を続けていたのは、使冴と倫太郎に余計な危険が及ばないよう守るため、だったのかもしれない。

 使冴以上に、只々驚く倫太郎の肩を、伊織が抱いた。

「白玉銀次は倫太郎の付人だったんだろ?」
「僕じゃなくて、弟の倫太郎のね」
「白玉のおじきは、二人とも大事な倫太郎だって、話してくれたよ」
「銀次が……、僕のことも。そうなんだ」

 倫太郎が、ぽそりと零した。
 言葉と一緒に、ポロリと目から雫が零れた。

「これだけ賢い倫太郎が、アンタにだけやけに従順なのは、違和感だ。独自に覚醒剤を製造しているくらいだ。人気の調教師様は薬の扱いにも長けているのかな。ウチにいた二週間で倫太郎からは良い感じに薬物が抜けたはずだ。船に乗ってから、また盛ったのかな?」

 伊織が静かに銃を構えて、葵に向けた。

「返事には気を付けろよ。俺は今、アンタが思っている以上に腹が立ってる。うっかり急所を外して何発も発砲とか、するかもしれないよ」

 伊織の顔は笑っているのに、目が笑っていない。
 背中から立ち昇る雰囲気が完全に怒っている。
 それは、肩を抱かれて隣に立つ倫太郎にも伝わっているようだった。

「躾の過程で薬を与えることはあるよ。けど、成長しちゃうと薬で思考の操作まではできないんだ。倫太郎はただ、俺が好きなだけだろ?」

 葵が倫太郎に笑いかける。
 震える倫太郎を伊織が強く抱き寄せた。

「そう……、だね。葵父さんは好きだよ。聖己父さんは僕を人間扱いしなかったけど、葵父さんは優しかった」
「俺が好きなら、根黒組を大事に思うだろ? 倫太郎は、どうしたい? 壊したい? 奪いたい? 今なら根黒組は、倫太郎のモノになる。今の絶望的な状況からでも、賢い倫太郎なら根黒組を立て直せる」

 倫太郎が戸惑いがちに口を開いた。

「今更、大事って、何? 葵父さんは、僕に根黒組を再興させたいの?」
「倫太郎の好きにしていい。好きなモノを、大事にしていい。倫太郎が好きなのは、弟の倫太郎や匠や、俺だろ?」
「好きにして、いいんだ。僕の、好きに……していいなら……」

 呟いた倫太郎のこめかみに、伊織がキスをした。

「なるほど。って単語か。だったら今の倫ちゃんは、好きなモノが増えたよね。俺なら倫ちゃんの好きなモノを大事にしたまま、人生リセットしてあげられるけど」

 倫太郎が伊織を見上げた。
 その目に作為はなくて、子供のように無垢な視線が、伊織だけを見詰める。

「好きなモノを、大事に、したまま?」
「当然にね」

 倫太郎の問いかけに、伊織が頷いた。

「僕が知らない、人間の色、もっと知りたい。根黒組じゃ、わからなかった、色。伊織とリセットしたら、知れそうな気がする」

 零れた言葉に、伊織が頷いた。

「俺は倫ちゃんが好きだから。倫ちゃんの色を一緒に探してあげる。俺の色も沢山、教えてあげるよ」
「伊織の色には、興味がある。好きにしていいのなら、伊織の側に行くのも、いいね」

 伊織の口付けを倫太郎が、くすぐったそうに受け入れた。
 その様子をうかがっていた葵が俄かに慌てだした。

「待って、倫太郎。好き、だよ? は、倫太郎にとって特別だろ? 昨日今日会ったばかりの警察組織なんて信用できない。父さんの言葉を軽んじるのか?」
「やっぱり、好きと約束って言葉がトリガーで、心を縛るためのキーなんだね。幼少期、クスリと一緒に刷り込んだ、思考を奪う心理操作かな。流石、人気の調教師様は心理術にも長けているね。倫太郎にはもう、効果がなさそうだけど」

 伊織が確信的に笑む。
 葵が悔しそうに舌打ちした。
 
「ふざけるなよ、若造が。手塩にかけて育てた傀儡を簡単に奪われてたまるか。倫太郎、その男を殺せるね? 大好きな父さんを脅かす異分子は排除だ。できるだろ? 邪魔な聖己をやっと追い出せたんだ。これは倫太郎の功績だよ。沢山、褒めてあげよう。だから今度は、Dissolveを排除しろ!」

 小刻みに震える倫太郎の耳を塞いで、伊織が華奢な身体を縛るように抱いた。

「伊純、もういいか?」
「言質とれたから、いいぜ。使冴が怪我しねぇ程度にな。あと一応、双葉が死なねぇ程度にしとけ」
「ムカついてっから加減できねぇけど、死にはしねぇと思う」

 伊純の許可を得て、使冴は飛び跳ねながら自分の足を整えた。
 強く踏ん張って、バネを使って一気に跳び出す。

「はっ……? なっ!」

 驚く葵の目の前で飛び上がる。こめかみを目掛けて、力を籠めたつま先で思いっきり蹴り飛ばした。
 華奢な身体が大袈裟なくらい浮き上がって吹っ飛んだ。

「倫太郎さんは手前ぇに都合良く使われる、からくり人形じゃねぇんだよ。施設にいる子供らも俺も、アンタの商品や道具じゃねぇ。勘違いしてんな、クズ」

 落ちた先で転がる葵は、白目をむいて気を失っていた。

「派手に飛んだなぁ」

 伊純が歩み寄り、葵の生存確認をしている。
 体がビクビク痙攣しているし、生きはしているようだから問題ないだろう。

「葵さん、オメガだからさ。俺の針、アルファにしか効果ねぇだろ。蹴るのが早いかなって」
「そうだった。使冴君て、喧嘩が強いオメガらしくないオメガだったね」

 伊織がやけに楽しそうに笑っている。
 倫太郎は伊織に抱かれたまま、転がる葵をぼんやり眺めていた。

「あんな風に倫太郎さんを縛るやり方、俺は許せねぇから。蹴り飛ばす程度、悪いとも思ってねぇけど。あんなんでも倫太郎さんの父親だから、謝っとく。蹴って、ごめん」

 とりあえず倫太郎に謝った。
 倫太郎が葵と使冴を見比べて、吹き出した。

「構わないよ。ただ、何というか。こんなに何も感じないものなんだと思って、自分に驚いてる」
「倫ちゃんの素直な気持ちなら、それでいいんだよ」

 倫太郎が伊織を見上げた。

「今の僕はどうやら、伊織に倫ちゃんと呼ばれるほうが大事みたいだ。好まないけど、くすぐったい」
「なら、今後も倫ちゃんだね」
「呼ばれるたびに胸に湧き上がってくるこの色は、何かな。知りたいから伊織にだけ、倫ちゃんて呼ぶのを許してあげるよ」

 倫太郎が、くすぐったそうに笑った。
 その笑顔は子供のようで、嬉しそうで、切なくもあって。沢山の人間の色を含んで見えた。
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