モブに転生した原作者は世界を救いたいから恋愛している場合じゃない

霞花怜

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第Ⅰ章 ゲーム本編①

50.イケメンは何を着ても似合う

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 ノエルが治癒魔法室を出たのは、五日後だった。
 まだ八割程度しか魔力が戻っていないので気を付けるように、と釘を打たれての解放だった。
 マリアとアイザックは今だに目覚めない。
 魔力はすでに充分に回復しているらしい。原因がわからず治療院も苦戦している、と教えてくれたのは、ロキだ。
 ロキはあれからも、何事もなかったように毎日、ランチと本を届けてくれた。

(一人で意識しちゃって、なんだか恥ずかしい)

 ロキに会うたびに色々思い出して意識して、考えてしまう。

(これがロキの作戦なのかなぁ。なんて巧みな子。正直、どうしたらいいか、わからない)

 アーロが淹れてくれたコーヒーを、ため息と一緒に飲み込んだ。

「どうした? 元気ないな。まだ体が辛いか? それとも、緊張してんのか?」

 今日、ノエルがユリウスの研究室に来たのは、王城に上がるためだ。
 宰相との秘密裏の会合、と聞いている。
 シエナが言っていた「いずれ王城で話しをしよう」の席なのだろう。
 非公式だから正装する必要はないが、魔術師としての制服のようなものは、着なければならないらしい。

「体調は、自分的にはすっかり良いです。緊張とかも、あまりないですが、話の内容によってはと考えると、ちょっと」

 アーロから大体の話は聞いて知っている。
 ノアも教会もファーバイル家の処遇も、あの事件の事後処理は、大体済んでいる。

(済んでないのは、私の処遇だけだ。どうなるんだろう)

 シエナは禁忌術を解くか試した、といっていた。今日はその答えを聞くことになるのだろう。

(答えによっては軟禁とかされるのかなぁ。その時はウィリアムに助けてもらおう)

 ウィリアムとレイリーはそれぞれ実家に戻っている。
 婚約を解消する話もあったそうだが、ウィリアムが跳ねのけたと聞いた。

(さすがメインヒーロー、決めるとこ、ちゃんとわかってる。あの二人には幸せになってもらいたい)

「城にはユリウスも一緒に行くんだ、心配すんな。気楽に茶でも飲んで来いよ」

 コンビニのコーヒーみたいな気軽な言い方はやめてほしい。

「私、軟禁とかされませんよね。ちゃんと帰ってこれるでしょうか」

 びくびくしながら聞いてみると、アーロが大笑いした。

「そんなこと心配してたのか。考える必要ねぇよ。大丈夫だ。無駄な心配だぜ」

 頭を撫でられて、ちょっとだけ安心した。

(話さなくても、アーロは事情を色々把握しているはずだ。そのアーロが大丈夫って言うんだから、大丈夫なんだろう)

「ノエル、そろそろ時間だから、着替えて。二つ向こうの部屋に、ノエルの制服も用意してあるから」

 研究室に入ってきたユリウスは正装していた。聖魔術師の制服だ。

(うわぁ、格好良い。ユリウスがこの制服着ている全身像は、設定資料集でしか見たことない。さすが、猫又先生は服のデザインも完璧すぎる最高過ぎる)

 見惚れていると、ユリウスが得意げに口端を上げて、ノエルに迫った。

「僕の正装に見惚れたの? もしかして、惚れ直しちゃった?」
「制服のデザインに見惚れました。品があり実用的で素敵なデザインだと思います」

 早口で言って、逃げるように衣裳部屋に向かった。



〇●〇●〇



 ノエルに準備されていた制服はユリウスと同じ、聖魔術師の意匠だった。

「先生、何故、私に用意された制服が先生と同じデザインなのでしょうか」

 頭にもたげる不安を払拭したい。聞かずにはいられない。

「そういうことだから」

 曖昧なのかはっきりしているのかわからない返答をする。
 ユリウスはノエルに見向きもせず、馬車の外を眺めている。

(つまり私は聖魔術師に加えられたってこと? それって絶対、中和術ありきの話だよね……)

「どうして、こんなことに」

 ノエルは文字通り、頭を抱えた。

「ノエルは聖魔術師になれて、嬉しくないの?」
「嬉しく、ないです」
「何故?」
「だって、私が聖魔術師に選ばれた理由は、中和術が評価されただけですよね。他に特出した魔法はないから。そういう偏った選出は、身を滅ぼします」

 分不相応な立場は、色んな意味でいろんな場所に不和を呼ぶ。

(何より、悪目立ちしたくない。陰からそっと世界の破滅を止められたら、それで良かったのに。本当に何でこうなった)

「ノエルの魔法の価値は中和術だけじゃないけどね。聖魔術師は、魔術師なら誰もが目指す高見だ。もっと喜んだらいいのに」

 ノエルが、ぶんぶんと首を振る。

(そもそもユリウスだって聖魔術師なんて肩書、どうでもいいと思っているくせに)

 元が魔術大好き人間てだけのユリウスだ。研究のために色々融通してもらえるからその立場にいるだけ、という設定にしていた気がする。

「ノエルは自覚がないかもしれないけど、中和術以外にも君の働きは評価されているよ。だから、あまり自分を卑下しないように」

 ユリウスがノエルの頭に手を置く。

「君の最大の武器は、機転と発想だ。ノアの空間魔法を破った時もそう。言霊魔法の発想がなかったら、僕らは今頃、ノアの玩具だった」

 背筋に寒気が走る。
 確かに、そんな未来もあったかもしれない。

「ギリギリで咄嗟に思い付いただけですよ。自分でも、不思議に思うくらいです。もっと早くに何か思いついていたら、ユリウス先生に無理させないで、済んだのに」

 最強チート・ユリウスの設定を守ることも、原作者の務めだ。

(もう二度と、ユリウスに無様な姿を晒させてなるものか。ユリウスは誰よりも強いキャラなんだから)

 頭を撫でていたユリウスの手が、ノエルの肩を抱く。

「それは僕の台詞だ。僕が何とか出来ていれば、君を危険に晒さずに済んだ」

 咄嗟に、あの時の情景を思い出してしまった。
 半裸の状態を男性に見られるなんて、今までの人生にない。

(結構ギリギリな恥ずかしいこともあった。ゲームには確実にない展開だ)

 俯いて黙り込んだノエルの耳元で、ユリウスが囁いた。

「ちゃんと綺麗にやり直して、責任持って忘れさせてあげるからね」

 ユリウスがノエルの首筋を指でなぞる。指が鎖骨から胸をそって背中に流れた。
 顔が、かっと熱くなる。

「何、言ってるんですか……」

 狼狽えすぎて語尾が弱くなった。

「僕だって、蕩けてる君を他の奴に見られるなんて、絶対嫌だ。これでもかなり腹が立っているんだよ」

 ユリウスの舌が耳を舐め挙げる。

「んっ、ちょっ……せんせ、なにして」

 口付けて言葉を塞がれた。
 ユリウスがノエルを抱き寄せる。

「本当は僕も、君の聖魔術師入りは賛成できないんだ。もっと早くに、何とかしておけば、良かったな」

 ノエルの首に唇を押し当てると、ユリウスが顔を離す。

「僕は君を手放したくない。手放すつもりも、ないけどね」

 ノエルを見下ろすユリウスの顔は、とても辛そうだ。
 いつもの妖艶で余裕の笑みとは違う。
 ユリウスの唇が降りてくる。いつもより強く深い口付けに、息をするのを忘れた。
 まるで印でもつけるような、ユリウスのものだと思い知らされるようなキスに、体が痺れる。

(なんだか、いつもと違う。いつもより、強引で切ない)

 ユリウスとは何度もキスしているから、感覚が麻痺している所もある。
 けど、今日のキスは、何かを懇願しているようにも感じた。
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