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2話
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「それで君がいうにはスラム街に騎乗(きじょう)した人が駆け抜けて(かけぬけて)いったというんだな?」
「そうです!あそこは乗馬(じょうば)は禁止なはずです!」
軽装鎧(けいそうよろい)を着ている、疲れ気味そうな中年男性、マルコに私は身を乗り出して話しかけた。
「彼の話は知っている」
身を乗り出す(のりだす)私を押しとどめるように、マルコは手で私を遠ざけた。
「!知っているならなぜ!」
「一昨日の夜中その男性の奥さんが産気(さんけ)づいてをして、その夜のうち無事赤ちゃんが生まれた。だから、旦那さんが飛んで行ったわけだ」
「なら、なんでずっと奥さんの方についていってあげなかったんですか!」
マルコは呆れ気味(あきれきみ)に呟いた(つぶやいた)。
「無茶(むちゃ)言うな。一昨日、旦那さんにとって重大(じゅうだい)な取引(とりひき)があって、隣(となり)の街のアンクールまでいっていたんだぞ?それから産気づいて、という話を聞いて、飛んで病院に行ったわけだ」
「しかし!」
そのマルコの言葉に私は詰め寄ろう(つめよろう)と思ったが、マルコはポーションの蓋を開けて、快楽(かいらく)用の魔力を嗅いだ。
このポーションは飲み物や酒と同じように少しいい気分になる物質だが、酒のようにかなり変性意識(へんせいいしき)までに持っていかれることはない。そして、これには栄養(えいよう)がないため腹が膨れる(ふくれる)と言うものではないが、少しいい気分になれるもので、飲み物を飲むと用を足さないといけないが、これにはただ単に快楽(かいらく)を供給(きょうきゅう)するためのものであって、ちょっとした気分転換(きぶんてんかん)に使われる。常に(つねに)緊急事態(きんきゅうじたい)が起こるかもしれない、特に衛兵(えいへい)にとっては必須(ひっす)のアイテムだ。
ちなみに衛兵(えいへい)というのは民間人を守護(しゅご)する兵士のことだ。ただ、そんなに装備はしっかりとしたものが供給(きょうきゅう)されているわけではない。あくまで街中(まちなか)で現れる犯罪者を取り押さえる(とりおさえる)というのが主な任務(にんむ)だ。
ただ、このフェドラ町は比較的(ひかくてき)治安(ちあん)は良好(りょうこう)だ。強盗犯(ごうとうはん)などの凶悪犯罪者(きょうあくはんざいしゃ)も出ることは出るが頻度(ひんど)はそんなに高くはない。主に青少年(せいしょうねん)の補導(ほどう)やコソ泥(こそどろ)を捕まえたり(つかまえたり)とか、法に違反(いはん)するものを捕まえるのが主な任務(にんむ)だ。
そして、だから、私がここにきたのだが、マルコは少し疲れたような表情をしている。
「アイリス」
「はい」
「お前さんはいい子だね」
「…………」
幼い頃からよくお守り(おもり)されてきたし、一緒に遊んでもらったこともある、マルコにそう言われると返す言葉もない。
マルコは立ち上がって、私に背を向けた。
「なあ、俺がお前ら、子供たちと遊んでいたことを覚えているか?」
「もちろん」
「でも、本来ならあれはやってはいけないことだ。衛兵(えいへい)は犯罪者を取り締まる(とりしまる)のが勤め(つとめ)だからな。本来は子供たちと遊んではいけない」
マルコの言わんとしたことはわかった。
「でも、子供と遊ぶぐらいどうということはないですか!?今回は子供たちが遊んでいるスラム街で馬を走らせることが!」
「しかし、君らと遊んでいる最中(さいちゅう)に凶悪犯罪者(きょうあくはんざいしゃ)が現れるとも限らなかった」
私は言葉が詰まる(つまる)。
「そ、それは」
マルコはこちらに振り返り(ふりかえり)、若かりし頃(わかかりしころ)とは違うが、マルコらしい柔和(にゅうわ)の笑みを見せる。
「今回のことは俺の顔に免じて(めんじて)許してやってくれないか?彼もあそこで馬を走らせたくて走らせたわけではない。すべては奥さんのためを思っての行動だ。そして、俺が君らと遊んだことも、遊んでいることも君らが俺の仲間だと思っているから職務(しょくむ)を一部逸脱(いつだつ)したんだよ。だから俺を許すと思って許してやってくれないか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「どうかな?」
あくまで下手に(したで)出るマルコ兄さん。それに私は。
「マルコ兄さんは」
「うん」
「ずるいですね」
それにマルコは破顔(はがん)した。
「そして、お前は真面目だなアイリス。今も昔も。いい子だよ」
私は肩を落とす。
「いいですよ。今回のことはもう構いません」
「助かる」
年長者なのにマルコは頭を下げた。
「マルコ兄さん」
「うん?」
「私、試験に合格しました」
「おお!」
マルコの顔に喜びが満ちる。
「今晩(こんばん)、酒場でみんなを呼んでくれませんか?仲間たちに報告(ほうこく)したいんです」
マルコは笑顔でウィンクした。
「任せとけ。俺はいけないから、みんなの分の祝福(しゅくふく)を受けてくれ」
私は反転し、顔だけマルコを見た。
「マルコ兄さんもお体気をつけて。私はこれからサラさんのところに行きます」
「おお」
そして、私は衛兵(えいへい)所から出て、天使サラの元へ向かった。
「そうです!あそこは乗馬(じょうば)は禁止なはずです!」
軽装鎧(けいそうよろい)を着ている、疲れ気味そうな中年男性、マルコに私は身を乗り出して話しかけた。
「彼の話は知っている」
身を乗り出す(のりだす)私を押しとどめるように、マルコは手で私を遠ざけた。
「!知っているならなぜ!」
「一昨日の夜中その男性の奥さんが産気(さんけ)づいてをして、その夜のうち無事赤ちゃんが生まれた。だから、旦那さんが飛んで行ったわけだ」
「なら、なんでずっと奥さんの方についていってあげなかったんですか!」
マルコは呆れ気味(あきれきみ)に呟いた(つぶやいた)。
「無茶(むちゃ)言うな。一昨日、旦那さんにとって重大(じゅうだい)な取引(とりひき)があって、隣(となり)の街のアンクールまでいっていたんだぞ?それから産気づいて、という話を聞いて、飛んで病院に行ったわけだ」
「しかし!」
そのマルコの言葉に私は詰め寄ろう(つめよろう)と思ったが、マルコはポーションの蓋を開けて、快楽(かいらく)用の魔力を嗅いだ。
このポーションは飲み物や酒と同じように少しいい気分になる物質だが、酒のようにかなり変性意識(へんせいいしき)までに持っていかれることはない。そして、これには栄養(えいよう)がないため腹が膨れる(ふくれる)と言うものではないが、少しいい気分になれるもので、飲み物を飲むと用を足さないといけないが、これにはただ単に快楽(かいらく)を供給(きょうきゅう)するためのものであって、ちょっとした気分転換(きぶんてんかん)に使われる。常に(つねに)緊急事態(きんきゅうじたい)が起こるかもしれない、特に衛兵(えいへい)にとっては必須(ひっす)のアイテムだ。
ちなみに衛兵(えいへい)というのは民間人を守護(しゅご)する兵士のことだ。ただ、そんなに装備はしっかりとしたものが供給(きょうきゅう)されているわけではない。あくまで街中(まちなか)で現れる犯罪者を取り押さえる(とりおさえる)というのが主な任務(にんむ)だ。
ただ、このフェドラ町は比較的(ひかくてき)治安(ちあん)は良好(りょうこう)だ。強盗犯(ごうとうはん)などの凶悪犯罪者(きょうあくはんざいしゃ)も出ることは出るが頻度(ひんど)はそんなに高くはない。主に青少年(せいしょうねん)の補導(ほどう)やコソ泥(こそどろ)を捕まえたり(つかまえたり)とか、法に違反(いはん)するものを捕まえるのが主な任務(にんむ)だ。
そして、だから、私がここにきたのだが、マルコは少し疲れたような表情をしている。
「アイリス」
「はい」
「お前さんはいい子だね」
「…………」
幼い頃からよくお守り(おもり)されてきたし、一緒に遊んでもらったこともある、マルコにそう言われると返す言葉もない。
マルコは立ち上がって、私に背を向けた。
「なあ、俺がお前ら、子供たちと遊んでいたことを覚えているか?」
「もちろん」
「でも、本来ならあれはやってはいけないことだ。衛兵(えいへい)は犯罪者を取り締まる(とりしまる)のが勤め(つとめ)だからな。本来は子供たちと遊んではいけない」
マルコの言わんとしたことはわかった。
「でも、子供と遊ぶぐらいどうということはないですか!?今回は子供たちが遊んでいるスラム街で馬を走らせることが!」
「しかし、君らと遊んでいる最中(さいちゅう)に凶悪犯罪者(きょうあくはんざいしゃ)が現れるとも限らなかった」
私は言葉が詰まる(つまる)。
「そ、それは」
マルコはこちらに振り返り(ふりかえり)、若かりし頃(わかかりしころ)とは違うが、マルコらしい柔和(にゅうわ)の笑みを見せる。
「今回のことは俺の顔に免じて(めんじて)許してやってくれないか?彼もあそこで馬を走らせたくて走らせたわけではない。すべては奥さんのためを思っての行動だ。そして、俺が君らと遊んだことも、遊んでいることも君らが俺の仲間だと思っているから職務(しょくむ)を一部逸脱(いつだつ)したんだよ。だから俺を許すと思って許してやってくれないか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「どうかな?」
あくまで下手に(したで)出るマルコ兄さん。それに私は。
「マルコ兄さんは」
「うん」
「ずるいですね」
それにマルコは破顔(はがん)した。
「そして、お前は真面目だなアイリス。今も昔も。いい子だよ」
私は肩を落とす。
「いいですよ。今回のことはもう構いません」
「助かる」
年長者なのにマルコは頭を下げた。
「マルコ兄さん」
「うん?」
「私、試験に合格しました」
「おお!」
マルコの顔に喜びが満ちる。
「今晩(こんばん)、酒場でみんなを呼んでくれませんか?仲間たちに報告(ほうこく)したいんです」
マルコは笑顔でウィンクした。
「任せとけ。俺はいけないから、みんなの分の祝福(しゅくふく)を受けてくれ」
私は反転し、顔だけマルコを見た。
「マルコ兄さんもお体気をつけて。私はこれからサラさんのところに行きます」
「おお」
そして、私は衛兵(えいへい)所から出て、天使サラの元へ向かった。
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