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7.お守り
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「久しぶりだね。太陽くん」
「……え?」
天野太陽くんが訊き返した。
(? また私、なにかおかしいことを言った……?)
「天野くん! 月渚ってば、廊下でいきなり側転したんだよー!」
樹里ちゃんが太陽くんに報告すると、太陽くんが苦笑いした。
「あいかわらずだね、月渚は」
(あ、あいかわらずなんだ……)
月渚は本当に元気いっぱいの女の子だったみたいだ。
「怪我しないようにね」
太陽くんは私の頭にぽんと右手を置いた。
小暮博士の手と比べるとまだまだ小さいけれど、大人っぽい、優しい手だと思った。
「あ、それ」
太陽くんが、私の手元を見下ろした。私の手の中には、紗理奈ちゃんに拾ってもらったサシェがある。
「今も大事にしてくれているんだね」
太陽くんが目を細めてにこっと笑う。笑ってみると、太陽くんの目じりがたれていることがよくわかった。
「小暮さん。それ、天野くんからもらったの?」
訊いてきたのは、紗理奈ちゃ……じゃなかった、瀬戸さんだった。
「え? えっと」
私は首を横に振って、「わからない」と答えた。
この中に何が入っているのかも、誰かにもらったものなのかどうかも、何一つ知らない。
私は正直に、誠実に答えたつもりだった。
それなのに。
「……っ」
太陽くんは、さっきまでは微笑んでいたのに、なぜか突然、泣き出しそうな顔になってしまった。
(あ、あれ? どうしてそんな顔をするの?)
「わからないって、なに?」
戸惑う私の隣で、瀬戸さんが声を荒らげる。
「もらったかどうかすら覚えてないの? 小暮さん、ちょっとひどいんじゃない?」
「た、太陽くんも瀬戸さんも、どうかしたの? 私、なにか変なこと言ったかな?」
「……知らないわよっ」
瀬戸さんは一言だけ言って、一組の教室に入っていった。
(そっか。瀬戸さんも、一組になったんだ)
瀬戸さんは数少ない、元五年三組以外のクラスメイトみたい。
「僕もまた同じクラス。よろしくね。月渚」
太陽くんの表情はまた元通りになっている。
「あ、あの、このサシェって、私が太陽くんからもらったものなのかな?」
「……月渚。久々の学校で困ることもあるだろうけど、なんでも相談してね」
私の質問には答えず、太陽くんも教室に入ってしまった。
「ちょっとちょっと! それって、月渚の『お守り』でしょ? 忘れちゃったの?」
花鈴ちゃんがサシェをのぞきこんでいた。
「花鈴ちゃん、このサシェのこと知ってるの?」
「前に月渚が自分で言ってたんじゃん。『これはお守りなんだ』って。だから毎日大切に持ち歩いてるし、誰にも中身を見せられないんだって」
樹里ちゃんが言って、恵奈ちゃんも頷く。
「中身も、誰にもらったかも、月渚が全然教えてくれなかったから私たちはよく知らないけどねー」
(……)
手のひらのサシェを見下ろした。色が褪せているのはきっと、長い間使っていたからだ。
いつ、誰からからもらったのかも、中になにが入っているかも、私にはわからない。
(でも)
本当に月渚が大事にしていたものなんだ。
それだけはわかった。
私はサシェをポケットには戻さず、ランドセルの内ポケットにしまっておくことにした。
ここに入れておけば、もう落としたりしないよね?
「……え?」
天野太陽くんが訊き返した。
(? また私、なにかおかしいことを言った……?)
「天野くん! 月渚ってば、廊下でいきなり側転したんだよー!」
樹里ちゃんが太陽くんに報告すると、太陽くんが苦笑いした。
「あいかわらずだね、月渚は」
(あ、あいかわらずなんだ……)
月渚は本当に元気いっぱいの女の子だったみたいだ。
「怪我しないようにね」
太陽くんは私の頭にぽんと右手を置いた。
小暮博士の手と比べるとまだまだ小さいけれど、大人っぽい、優しい手だと思った。
「あ、それ」
太陽くんが、私の手元を見下ろした。私の手の中には、紗理奈ちゃんに拾ってもらったサシェがある。
「今も大事にしてくれているんだね」
太陽くんが目を細めてにこっと笑う。笑ってみると、太陽くんの目じりがたれていることがよくわかった。
「小暮さん。それ、天野くんからもらったの?」
訊いてきたのは、紗理奈ちゃ……じゃなかった、瀬戸さんだった。
「え? えっと」
私は首を横に振って、「わからない」と答えた。
この中に何が入っているのかも、誰かにもらったものなのかどうかも、何一つ知らない。
私は正直に、誠実に答えたつもりだった。
それなのに。
「……っ」
太陽くんは、さっきまでは微笑んでいたのに、なぜか突然、泣き出しそうな顔になってしまった。
(あ、あれ? どうしてそんな顔をするの?)
「わからないって、なに?」
戸惑う私の隣で、瀬戸さんが声を荒らげる。
「もらったかどうかすら覚えてないの? 小暮さん、ちょっとひどいんじゃない?」
「た、太陽くんも瀬戸さんも、どうかしたの? 私、なにか変なこと言ったかな?」
「……知らないわよっ」
瀬戸さんは一言だけ言って、一組の教室に入っていった。
(そっか。瀬戸さんも、一組になったんだ)
瀬戸さんは数少ない、元五年三組以外のクラスメイトみたい。
「僕もまた同じクラス。よろしくね。月渚」
太陽くんの表情はまた元通りになっている。
「あ、あの、このサシェって、私が太陽くんからもらったものなのかな?」
「……月渚。久々の学校で困ることもあるだろうけど、なんでも相談してね」
私の質問には答えず、太陽くんも教室に入ってしまった。
「ちょっとちょっと! それって、月渚の『お守り』でしょ? 忘れちゃったの?」
花鈴ちゃんがサシェをのぞきこんでいた。
「花鈴ちゃん、このサシェのこと知ってるの?」
「前に月渚が自分で言ってたんじゃん。『これはお守りなんだ』って。だから毎日大切に持ち歩いてるし、誰にも中身を見せられないんだって」
樹里ちゃんが言って、恵奈ちゃんも頷く。
「中身も、誰にもらったかも、月渚が全然教えてくれなかったから私たちはよく知らないけどねー」
(……)
手のひらのサシェを見下ろした。色が褪せているのはきっと、長い間使っていたからだ。
いつ、誰からからもらったのかも、中になにが入っているかも、私にはわからない。
(でも)
本当に月渚が大事にしていたものなんだ。
それだけはわかった。
私はサシェをポケットには戻さず、ランドセルの内ポケットにしまっておくことにした。
ここに入れておけば、もう落としたりしないよね?
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