アンドロイドが知りたいこと

ばやし せいず

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9.春野先生

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「いらっしゃ~い! ってたわよ~」

 四時間目が終わり、給食の時間になった。
 私が教室を抜け出して向かった先は、保健室ほけんしつ出迎でむかえてくれたのは、保健室の先生だ。

「はじめまして。養護ようご春野結はるのゆいです~。よろしくね、!」

 私は春野先生と握手あくしゅわした。
 まだまだ若い先生だ。ふわふわしたかみを二つしばりにしていて、とっても可愛かわいい。

小暮こぐれルナです。よろしくお願いします」
「はあ~、すごいわねえ」

 春野先生は目をキラキラさせ、私のつむじからつま先まで、遠慮えんりょなく観察してくる。

「どこからどう見ても、人間にしか見えないわあ~!」

 ……私がアンドロイドということは、絶対に、絶対に、絶対に秘密ひみつ

 秘密なのだけれど、春野先生だけは、私の正体を知っている。

 先生や友だちには、なんとかかくし通せるかもしれないけれど、春野先生には知っておいてもらったほうが好都合こうつごう

 なぜなら……。

「はい。これ、おあずかりしているルナちゃん用の給食。あと、充電じゅうでんするならコンセントはここね。ベッドの上にすわっていいわよ~」

 私は給食の時間から昼休みが終わるまで、教室ではなく保健室で過ごす必要があるからだ。

 保健室のベッドの上にこしかけて、パーカーを少しだけめくりあげる。
 背中せなかの下のほうには、小さなあなが開いている。そこにプラグを差しこみ、充電を始めた。

 今、私の体にたまっている充電は、三十六パーセント。
 しっかり充電しておかなければ、放課後までもたないかもしれない。

 それから、先生にわたしてもらった私用の給食、白い缶を開けて中身を飲む。朝も飲んだ潤滑油じゅんかつゆだ。

気兼きがねなく保健室で『アン活』してね、ルナちゃん」

 春野先生はにっこり笑う。

「ア、アン活……? アン活とはなんでしょうか?」
「充電したり潤滑油を飲んだりすることよ。『アンドロイド活動』って呼んだらどうかしら~と思ったんだけど、長いから略して『アン活』よ!」
「春野先生が考えたんですか?」
「そうよ~。今朝、通勤つうきんしながら考えたの! 考えながら歩いていたから、転びそうになっちゃったわ~」

(……は、春野先生って、天然てんねんなのかも?)

 天然すぎて、私がアンドロイドであることをうっかり他の人に話さないといいんだけど。

 ピンポンパンポンとチャイムが鳴って、お昼の放送が始まった。

「お昼の放送です。今日の献立こんだては、カレーライス、れんこんサラダ、ヨーグルト、牛乳です。美味しい給食、いただきましょう」

 六年一組のみんなも、今頃みんなで給食を食べているにちがいない。
 月渚るなも早く元気になって、あの教室に戻れたらいいのに。
 保健室で過ごしていることが、アンドロイドなりにも申し訳なくなってくる。
 でも、私はどうしても人間のように食事ができない。ご飯を食べたり水を飲んだりすると、こわれてしまうからだ。

「そういえば、春野先生は給食を食べないのでしょうか?」

 机で書類仕事をしていた春野先生がり返る。

「もう食べ終わったのよ。給食の時間や昼休みにだって保健室に訪れてくる子はいるでしょ? だから毎日、大急ぎで食べているの~」
「大変ですね、先生って」
「もうれちゃったわ。……あら、雨っ?」

 春野先生が、保健室の窓に目をやる。

 朝はぴかぴかの青空だったのに、いつの間にかどんよりと暗い雲が広がっていた。

「やだ~っ。雨が降るなんて聞いてなーい!」

 春野先生は窓の外に向かってぷりぷりと怒り始めた。

「朝の天気予報では、午後から雨になってましたよ」
「本当に~? 先生、雨って嫌いなのよね~。……そういえばルナちゃん、雨の日はどうやって帰るの?」
小暮博士こぐれはかせが……、父が、車でむかえに来てくれます」
「じゃあれずに済むのね。よかったわね~」
「はい」

 春野先生と同じく、私も雨がきらい。
 嫌い、というか、アンドロイド生命に関わるのだ。機械は水に弱いから。

 コンコンコンと保健室のドアがノックされた。私ははっとドアを振り返る。

「春野先生、いる~?」
「こら、すばる。『いる~?』じゃなくて、『いますか?』だろっ」
「太陽は細かいんだよなー」

 男の子二人の声がした。

 この声は、昴くんと太陽くんだ……!
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