アンドロイドが知りたいこと

ばやし せいず

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24.成長していくのよ

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「あらぁ、さらに人間らしいお顔になってるわね~」
「うぎゃあっ!」

 控室ひかえしつたたみの上でぼーっとしていたら、いつの間にか目の前に春野先生の顔があった。
 悲鳴ひめいを上げた私に、春野先生はくすくすと笑い出す。

「悲鳴まで人間らしいわ~。グッドグッド!」

 春野先生はござや救急セットを片付かたづけている。

「どうしたの? 先生が入ってきたことに気付かないほど充電じゅうでんが無かったの?」
「いえ。周りの音が聞こえないようにしていたので……」

 耳のノイズカット機能きのうをオフにするのを忘れていた。だから春野先生が控室に入ってきたことがわからなかったんだ。
 私はあわてて耳の設定を元に戻す。

「周囲の音を消して、一人でこっそり悩んでいたの?」

 春野先生はにこにこしている。

「人が落ち込んでるときに、うれしそうにしないでくださいよ……」
「やっぱり落ち込んでいるのね! どうかしたの? 先生に話してごらんなさい」

 先生は片付けを終えると、私の前に正座した。

「……月渚るならしくできないんです」
「どうして?」

 先生は不思議そうに首をかしげる。

 私はまず、昨日のカラオケ大会のできごとを話した。月渚が音痴おんちだということを知らずに、上手く歌ってしまった。
 それから、今日の恵奈えなちゃんの怪我けがの手当て。多分、月渚なら目をおおって、応急処置おうきゅうしょちの手伝いなんてできなかった。

「……なるほど」

 私の話を聞いた先生は、うんうんとうなずく。

 ――それは確かに、月渚ちゃんらしくないわね~!

 絶対にそう言われると思った。

「先生は、『人間の月渚ちゃんだったら、カラオケ大会のためにたくさん練習して上手くなっていた』、って思うけどな~」
「え?」

 春野先生の答えは、私の予想とは全く別のものだった。

「それから、人間の月渚ちゃんだって、『大切なお友達のために手当てしていたんじゃないかな~』って思うけど?」
「でも」
「もし、人間の月渚ちゃんが目覚めていたとするでしょ? カラオケ大会で上手に歌えなかったって言い切れる? 恵奈ちゃんのために応急処置をしなかったって、言い切れるかしら?」
「……」

 私は少し考えてから、首を横に振った。

「……言い切れません」
「そうでしょう。言い切れないわ。……人間ってね、変化していくものなの。成長していくのよ。とくにあなたたちみたいな、若い子たちはね。だから、上手く歌うことも、手当てをすることも、『月渚ちゃんらしくない』とは言い切れないと思うな」
「……でもっ!」

 ――本物じゃないみたいだから。

 ――いつ、前みたいな月渚に戻るの? 冗談言ったりふざけていたりした月渚は、どこに行ったの?

 太陽くんの言葉とさみしそうな顔を思い出すと、胸のあたりがずしんと重くなる。
 体の機能が上手く動いていない感じがする。

「私は、月渚の偽物にせものだから。月渚の偽物が成長したって、そんなの意味が無いんです。私は本物の月渚のようにならなくちゃいけないのに……」
「ルナちゃん。あまり、苦しまないで」

 いつになく真剣しんけんな顔になり、腕を伸ばすと私の機械の体を抱きしめた。

「先生?」
「あなたの役割は、『みんなに月渚ちゃんを忘れないようにしてもらうこと』よ。ただそれだけなのよ。完ぺきに別の誰かになりきるなんて、無理なのよ」
「……よく、わかりません」

 私は正直に答えた。

 体の真ん中のあたりのパーツがぎしぎしときしんでいる。私は「苦しい」のかな。それすらも、よくわからない。

「今はわからなくても、覚えていて。いつかわかるときがくるかもしれない。あなただって、……アンドロイドだって、成長していくんだから」

 私の頭を、春野先生がでてくれた。
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