アンドロイドが知りたいこと

ばやし せいず

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31.わからない

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 太陽くんが海でおぼれる少し前のこと。

 瀬戸せとさんは、私の控室ひかえしつから勝手にサシェを持ち出した。
 みんなが磯遊びをしている中、こっそり堤防ていぼうを渡り、小島の上の神社に向かった。瀬戸さんはそこにサシェをかくすつもりだった。

 そうすれば肝試きもだめしのときに誰かが見つけて、先生に届ける。私がサシェの持ち主だということがわかれば、私は先生たちに怒られる。持ってきてはいけないものだからだ。

 そして、私はもう学校にサシェを持ってこなくなる。
 それが瀬戸さんの目的だった。
 でも、計画はくずれた。瀬戸さんが神社に着いたころには風が強まり、波も高くなってきてしまったからだ。
 瀬戸さんは隠し場所を探しているうちに足をすべらせ、サシェを海に落としてしまった。
 たまたま瀬戸さんの姿を見かけ、心配して追いかけてきた太陽くんがサシェを拾おうとして海に入った……。

「ごめんなさい! 海に落とすつもりなんてなかったの! 小暮こぐれさんがちょっと痛い目見ればいいと思って……!」

 瀬戸さんはわんわん泣きながらあやまり続ける。
 太陽くんの説明のおかげで、なにがあったのかは理解できた。

(でも……)

 でも、どうして瀬戸さんがそんなことをしたのか、全く見当がつかない。
 春野先生と太陽くんの顔を交互こうご見比みくらべる。二人とも怒っているような、泣き出しそうな顔でだまっている。

「瀬戸さん、どうして私が痛い目を見るといいの? ……瀬戸さんは、私のことがきらいってことなのかな?」
「ぼくも、きみがこんなことをした理由が知りたい」
「……」

 瀬戸さんはミニタオルで目元をおさえている。

「……だから」
「え?」
「好きだから」
「……わ、私のことが好きってこと? それなのに、どうしてこんな」
「違うっ! 太陽くんのことが好きだから!」

「「…………えっ?」」

 私と太陽くんの声がそろった。

「ずっと太陽くんのことが好きだったの! だから、太陽くんの幼馴染おさななじみの小暮さんがうらやましくて。太陽くんにもらったプレゼントを持ち歩いてることにも嫉妬しっとして……」

(……だ、だから、サシェを持ち出したの?)

「やってはいけないことをしたって、わかったのよね?」

 春野先生が瀬戸さんにく。
 怒っている風ではないけれど、いつものふわふわした雰囲気ふんいきも無い。

「はい。小暮さんにも、太陽くんにも、申し訳ないです」
「今回のことは、お互いのご家族にも事情を説明しなければならないわ。紗理奈さりなちゃんは自分の口でしっかり説明できるようにしてね」
「……はい」

 瀬戸さんがうなずく。

「……瀬戸さん。僕は、きみのことを好きになることは絶対に無いよ」

 太陽くんがはっきり言った。

「……」

 長い沈黙ちんもくの後、瀬戸さんはもう一度、こくんと首を動かした。

「でも、僕が海に飛び込んだのは、自分の意志だ。それに、なんとか無事だった。……それ以上のことはなにも考えたくない」

 太陽くんは淡々と言ってから、私のほうへ向き直る。

月渚るなは? 瀬戸さんになにか言うことは無いの?」
「え? ええと……」

 大事なものを勝手に持ち出されたんだ。
 怒ったほうがいいのかもしれない。

(でも、月渚ならゆるすのかな? ……ううん。結果的に太陽くんが危険な目にったんだよ? やっぱり、怒るかも……)

 自分は一体、何を言うべきなんだろう。
 人工知能で、ぐるぐると考える。

「私は……」

 私はやっと考えをまとめた。

「……わ、わからない」

 こんなことを言ってしまっていいのだろうか。緊張きんちょうで、声が小さくなってしまった。

「わからないって?」

 優しく聞き返してくれたのは太陽くんだった。

「わからないの。ちょっと、びっくりしすぎっていうか。大事なものをられたこともそうだし、悪意は無かったとしても、太陽くんはおぼれてしまったし……。でも」

 月渚だったら、きっと、「怒り」以上に抱く感情があるはず。

「すごく怒りたいけど、瀬戸さんと気まずくなるのもいやなんだ。もっと仲良くなりたいんだ。だって、学校の友だちだから。……だから、わからない。有耶無耶うやむやにしたいわけじゃないんだ。どうすればいいかわからないの。だから、自分の気持ちがかたまるまで。それまでは、何も言わない……」

 私の考えは、上手く伝わっただろうか。

「それが月渚ちゃんの今の気持ちなのね?」

 私は春野先生に頷いた。

「わかった。月渚ちゃんのその気持ちを尊重そんちょうしましょう。紗理奈ちゃん、わかった?」
「……はい。小暮さん、怒りたかったら、いつでも怒りにきていいから……」

 遠くの波の音に負けそうな声で紗理奈ちゃんは言った。




 私たち三人は宿舎しゅくしゃに向かって歩き出す。
 夜空には星がよく見えていた。

(月渚、これでよかった?)

 もちろん、答えは返ってこない。

(月渚だったら、どうしてた?)

 後ろをついてくる瀬戸さんは、ずっとすすり泣いている。

(そういえば、瀬戸さんは失恋をしたんだ)

 月渚だったら、泣いている瀬戸さんをはげましているかもしれない。

 月渚だったら……。
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