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第1章 幼少期編
7 料理人急募3
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では、料理をひとつずつ食べていこう。
まずは、ロベルトさん。私が子どもなのと他に二人分の料理が控えているのを気遣ってか、量は少なめ。だが、なんと、コース料理だった。よくあの時間で作れましたね!? スープからデザートまでついている。メインは肉料理、牛肉のステーキだ。臭みもないし、口に運べば舌の上でほろほろと解けていく。このソースは何を使っているんだろう?
本当は今すぐ食べきってしまいたいが、まだ二人分残っている。そちらも早く食べないといけないし、空腹感の違いで差がついてはいけない。あとで戻ってこよう。
ひと通り堪能してから、リンダさんの料理に移った。
リンダさんが作ってくれたのはデザート。繊細で、可愛らしい装飾の施されたチョコレートケーキだった。この上に乗っているウサギは砂糖菓子なのかな? 動物たちが花畑を走り回っている光景が、小さなホールケーキの上に広がっている。
食べるのが勿体無いなぁ、と思いつつもある程度目で楽しんだら割り切って食べるのが私である。甘い誘惑にいつまでも耐えられるわけがない。
口に入れてすぐは強い甘味を感じるが、しばらくするとほのかな苦味もある。これは大人でもくどくなく食べられるだろう。おっ、中にナッツも隠れていたのか。食感の違いも楽しい仕掛けだ。栄養のことも考えてくれたのかな。
最後はレオさんなのだが、どことなく自信がなさそうな顔をしている。
「他の二人みたいに豪華さや華やかさはないけど、アタシの一番得意な料理だから」
そう言って、目の前に出されたのはオムライスだった。他の二人と比べれば確かにシンプルだが、何か心惹かれるものがある。
スプーンで掬って、口の中に入れた瞬間、衝撃が走った。
「あっ!!」
「大丈夫!? 熱かったかしら?」
「ううん、違うの。そうじゃなくて……」
火傷したのではないかと心配してくれるレオさんに首を振り、私は感動に打ち震えていた。
もう二度と食べられないと思っていた。時間が巻き戻る前の世界でたった一度だけ食べたことがある。今まで食べたどのオムライスよりも私の琴線に触れたそれを、「幻のオムライス」と呼んでいた。
幻の、というのは、次に同じ場所を訪れた時には店が跡形もなくなっており、狐に化かされたような状況だったためだ。
「おいしい! とってもおいしいよ!!」
まさか、こんなところで再び相見えることができるとは思ってもみなかった。
改めてレオさんを見てみれば、なるほど納得がいった。
私の記憶にあるレオさんは髪をセクシーな紫色に染めており、それが強く印象に残っていたのだ。今は落ち着いた暗い茶髪なのでピンとこなかったが、よく見ればあの店の主人だ。ちょっと若いけど、たぶんそうだと思う。
素の口調を聞いた時に知っている気がしたのは、初めて店に行った時のレオさんの口調と一致したためだろう。
あれは学生時代だったから、今より十年ほど後の話になる。レオさん、ヴェルデ領の出身だったんだね。こんなところで出会えるなんて奇跡だよ。
ひと通り堪能し、残していた分もきっちり完食してから、いよいよ審査の時間になった。そんなに食べるの、とびっくりされたけど、まだまだ食べられますからね。
「ルナシア、あなたを納得させた方はどなたですか?」
お養父様が私に尋ねる。
うん、答えは決まった。
「全員です」
私がそう答えると、お養父様以外の三人は驚いた顔をした。
元々、この試験は「私を納得させることができた人」が合格という曖昧な基準だったのだ。
一人に絞れとは言われてないからね。そもそも、うちには料理人がいない状態なのだ。一人雇ったくらいでは到底仕事が回らない。三人でも足りるか分からないけど。
応募はたくさんあったのに、書類選考でここまで絞られたってことは、お養父様の厳しいチェックが既に入っているってことなんだろう。私は本当に最終審査のみ。
「お養父様は、私を納得させた人を合格にするって言いましたよね? それなら、全員です。どの料理もおいしかったし、どれかだけなんて選べません」
「そうですか、では全員合格で。これからよろしくお願いしますね。今、うちには料理人が一人もいませんので、人手は多い方が助かります」
合うか、合わないか。それを見たかっただけで、問題ないと判断されれば最初から全員合格にするつもりだったのではないかとすら思う。
「ちょ、ちょっと、待ちなさいよ」
全員採用の流れをレオさんが遮る。
「アタシだって分かるわよ。料理人としての腕が二人に遠く及ばないことくらい。お屋敷の人も投げ飛ばしちゃうし、アタシ自身もこんな感じだし……それなのに、どうしてアタシのことも雇ってくれるの? 人手が足りないから、おまけで合格にしてくれたわけじゃないの?」
「ルナシア、どうしてですか?」
お養父様が私に返答を求める。そんなの決まっているじゃないか。
「オムライスが、とってもおいしかったからです」
「本当に……?」
「はい!」
料理に関して私は妥協しないぞ。作ってもらえればそれはありがたいから食べるけど、ずっと食べ続けるのなら話は別だ。
このオムライスに再び出会えた感動をどうにかして伝えたいのだが、今のレオさんとは初対面だし、時間が戻る前の世界でもう一度会えていたとしても、たった一回だけ訪れた客のことを覚えてもいないだろう。うーん、もどかしい。
「ありがとう。それが聞けてよかったわ」
でも、レオさんが納得した顔をしてくれたので、まぁいいか。
あとの二人も、この決定に異論はないようだった。
「これからよろしくお願いします、リンダさん、レオさん」
「ええ、一緒に頑張っていきましょう」
「えっと……その……」
なかなか輪に入っていけないレオさんに、ロベルトさんとリンダさんが声をかける。
「人一倍情熱があるのは見ていて分かりましたから。これからの成長が楽しみですねぇ。分からないことがあれば何でも聞いてください」
「お嬢様があんなに喜んでるんだから、それが答えよ。あなたは立派な料理人だわ」
「ロベルトさん……リンダさん……。うっ、やめて~アタシこういうのに弱いのよぉ~」
一件落着かな? これでファブラス家の食事問題は解決するだろう。
あの「幻のオムライス」も、頼めばまた作ってもらえるだろうか。もう二度と食べられないと思っていただけに、凄い衝撃を受けた。
大丈夫かな、今生の運をここで使い果たしたりしてないだろうな? まだ魔王討伐という最重要課題が残っているのだ。
心配になりつつも、私の興奮はなかなか冷めなかった。いけない、またお腹が空いてきてしまったな。
まずは、ロベルトさん。私が子どもなのと他に二人分の料理が控えているのを気遣ってか、量は少なめ。だが、なんと、コース料理だった。よくあの時間で作れましたね!? スープからデザートまでついている。メインは肉料理、牛肉のステーキだ。臭みもないし、口に運べば舌の上でほろほろと解けていく。このソースは何を使っているんだろう?
本当は今すぐ食べきってしまいたいが、まだ二人分残っている。そちらも早く食べないといけないし、空腹感の違いで差がついてはいけない。あとで戻ってこよう。
ひと通り堪能してから、リンダさんの料理に移った。
リンダさんが作ってくれたのはデザート。繊細で、可愛らしい装飾の施されたチョコレートケーキだった。この上に乗っているウサギは砂糖菓子なのかな? 動物たちが花畑を走り回っている光景が、小さなホールケーキの上に広がっている。
食べるのが勿体無いなぁ、と思いつつもある程度目で楽しんだら割り切って食べるのが私である。甘い誘惑にいつまでも耐えられるわけがない。
口に入れてすぐは強い甘味を感じるが、しばらくするとほのかな苦味もある。これは大人でもくどくなく食べられるだろう。おっ、中にナッツも隠れていたのか。食感の違いも楽しい仕掛けだ。栄養のことも考えてくれたのかな。
最後はレオさんなのだが、どことなく自信がなさそうな顔をしている。
「他の二人みたいに豪華さや華やかさはないけど、アタシの一番得意な料理だから」
そう言って、目の前に出されたのはオムライスだった。他の二人と比べれば確かにシンプルだが、何か心惹かれるものがある。
スプーンで掬って、口の中に入れた瞬間、衝撃が走った。
「あっ!!」
「大丈夫!? 熱かったかしら?」
「ううん、違うの。そうじゃなくて……」
火傷したのではないかと心配してくれるレオさんに首を振り、私は感動に打ち震えていた。
もう二度と食べられないと思っていた。時間が巻き戻る前の世界でたった一度だけ食べたことがある。今まで食べたどのオムライスよりも私の琴線に触れたそれを、「幻のオムライス」と呼んでいた。
幻の、というのは、次に同じ場所を訪れた時には店が跡形もなくなっており、狐に化かされたような状況だったためだ。
「おいしい! とってもおいしいよ!!」
まさか、こんなところで再び相見えることができるとは思ってもみなかった。
改めてレオさんを見てみれば、なるほど納得がいった。
私の記憶にあるレオさんは髪をセクシーな紫色に染めており、それが強く印象に残っていたのだ。今は落ち着いた暗い茶髪なのでピンとこなかったが、よく見ればあの店の主人だ。ちょっと若いけど、たぶんそうだと思う。
素の口調を聞いた時に知っている気がしたのは、初めて店に行った時のレオさんの口調と一致したためだろう。
あれは学生時代だったから、今より十年ほど後の話になる。レオさん、ヴェルデ領の出身だったんだね。こんなところで出会えるなんて奇跡だよ。
ひと通り堪能し、残していた分もきっちり完食してから、いよいよ審査の時間になった。そんなに食べるの、とびっくりされたけど、まだまだ食べられますからね。
「ルナシア、あなたを納得させた方はどなたですか?」
お養父様が私に尋ねる。
うん、答えは決まった。
「全員です」
私がそう答えると、お養父様以外の三人は驚いた顔をした。
元々、この試験は「私を納得させることができた人」が合格という曖昧な基準だったのだ。
一人に絞れとは言われてないからね。そもそも、うちには料理人がいない状態なのだ。一人雇ったくらいでは到底仕事が回らない。三人でも足りるか分からないけど。
応募はたくさんあったのに、書類選考でここまで絞られたってことは、お養父様の厳しいチェックが既に入っているってことなんだろう。私は本当に最終審査のみ。
「お養父様は、私を納得させた人を合格にするって言いましたよね? それなら、全員です。どの料理もおいしかったし、どれかだけなんて選べません」
「そうですか、では全員合格で。これからよろしくお願いしますね。今、うちには料理人が一人もいませんので、人手は多い方が助かります」
合うか、合わないか。それを見たかっただけで、問題ないと判断されれば最初から全員合格にするつもりだったのではないかとすら思う。
「ちょ、ちょっと、待ちなさいよ」
全員採用の流れをレオさんが遮る。
「アタシだって分かるわよ。料理人としての腕が二人に遠く及ばないことくらい。お屋敷の人も投げ飛ばしちゃうし、アタシ自身もこんな感じだし……それなのに、どうしてアタシのことも雇ってくれるの? 人手が足りないから、おまけで合格にしてくれたわけじゃないの?」
「ルナシア、どうしてですか?」
お養父様が私に返答を求める。そんなの決まっているじゃないか。
「オムライスが、とってもおいしかったからです」
「本当に……?」
「はい!」
料理に関して私は妥協しないぞ。作ってもらえればそれはありがたいから食べるけど、ずっと食べ続けるのなら話は別だ。
このオムライスに再び出会えた感動をどうにかして伝えたいのだが、今のレオさんとは初対面だし、時間が戻る前の世界でもう一度会えていたとしても、たった一回だけ訪れた客のことを覚えてもいないだろう。うーん、もどかしい。
「ありがとう。それが聞けてよかったわ」
でも、レオさんが納得した顔をしてくれたので、まぁいいか。
あとの二人も、この決定に異論はないようだった。
「これからよろしくお願いします、リンダさん、レオさん」
「ええ、一緒に頑張っていきましょう」
「えっと……その……」
なかなか輪に入っていけないレオさんに、ロベルトさんとリンダさんが声をかける。
「人一倍情熱があるのは見ていて分かりましたから。これからの成長が楽しみですねぇ。分からないことがあれば何でも聞いてください」
「お嬢様があんなに喜んでるんだから、それが答えよ。あなたは立派な料理人だわ」
「ロベルトさん……リンダさん……。うっ、やめて~アタシこういうのに弱いのよぉ~」
一件落着かな? これでファブラス家の食事問題は解決するだろう。
あの「幻のオムライス」も、頼めばまた作ってもらえるだろうか。もう二度と食べられないと思っていただけに、凄い衝撃を受けた。
大丈夫かな、今生の運をここで使い果たしたりしてないだろうな? まだ魔王討伐という最重要課題が残っているのだ。
心配になりつつも、私の興奮はなかなか冷めなかった。いけない、またお腹が空いてきてしまったな。
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