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第1章 タルトゥーガ討伐戦
③
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ウルカグアリは、巨大な山の周りを建物が取り囲む造りになっていた。まるで、その山には何か外に出してはいけないものがあって、閉じ込めているかのように。
メディアスは、タルトゥーガが封印されていた危険生物だと言っていた。だとしたら、あの山の中に封じられていた可能性もある。
徐々にフェニックスの高度が下がる。しかし、その途中で無線が入った。
【こちら、1号機。3号機、聞こえるか?】
「はい、大丈夫です。どうしたんですか?」
どうやら、一番先頭を飛んでいたフェニックスの操縦士から連絡があったようだ。
【このままでは、着陸が困難だ。タルトゥーガが邪魔をしている】
窓から地上の様子を確認する。最初は米粒のようにしか見えなかったタルトゥーガの全貌が、高度が下がるにつれ、はっきりと確認できた。
「おいおい……あれはまずいだろ」
タルトゥーガは、街全体を縦横無尽に駆け回っていた。決して小さくはない街だが、その至る所で姿が確認できる。
思っていたよりも、こいつはデカい。見た目は、茶色の亀だ。しかし、動きは俊敏。大きな甲羅を背負っているにも関わらず、かなりのスピードで走っている。
そして、その破壊力。突進した建物は粉々に粉砕され、見る影もない。あんなのにぶつかられたら、ひとたまりもないだろう。考えただけでもぞっとする。
「このままでは、着陸できません。どうしますか?」
エルフィアが困った顔で尋ねた。状況を把握した戦闘部隊員のひとりが、窓の外を見ながら腰に下げていた剣に手をかける。
「もう少し高度を下げられるか? 戦闘部隊員数人で、まずは着陸場所を確保する」
「じゃあ、私が行きます」
最初のひとりを皮切りに、次々と戦闘部隊員たちが名をあげる。
「俺も行く」
俺もそう言ったが、先輩隊員は首を横に振った。
「お前はまだいい。新米に危険なところを任せるわけにはいかないからな」
結局、男性3名、女性2名、計5名の戦闘部隊員たちで先攻パーティーが組まれた。戦闘態勢に入った彼らに、作戦部隊の青年が声をかける。
「いいか、無理はするなよ。最低限、着陸予定ポイントから引き離すだけでいい。むやみに倒そうとするな」
「了解」
5人は一斉に飛び降りると、着地点で暴れているタルトゥーガたちを挑発する。物理攻撃や魔法攻撃で、タルトゥーガたちの気を引いているようだ。
その攻撃に怒ったのか、タルトゥーガたちの目の色が変わった。タルトゥーガたちは5人に標準を合わせると、そちらをめがけて突進を開始する。
「アブソリュートの隊員をなめるなよっ!」
5人は上手く連携しながらタルトゥーガたちの攻撃をかわし、安全そうな場所へと引き離していく。こうやって実際に任務をこなしている先輩隊員たちの姿を見る機会は今までそうなかったが、こうしてみると、やっぱりすごいなと思う。
「皆さん、着陸します!」
フェニックスは先攻部隊のおかげで何とか着陸することができた。急いで俺たちも外に出る。
着陸したのは、上空からも確認できた巨大な山の前。全体をよく見てみると、透き通っていて、光が差し込むと、その加減によって七色の輝きを放つ。この山全体が、おそらくプリゾナでできているのだろう。とても綺麗だ。こんなにも美しい鉱山があるとは知らなかった。
「これがプリゾナの洞窟なのか?」
その巨大な鉱山に、入口があったような形跡があった。メディアスの言っていた、タルトゥーガが封印されていたという洞窟。この街のどこかにあるという話だったが、これのことだろうか。
しかし、その入口は粉々に砕かれた結晶で塞がれてしまっている。ただ、ほんの少しだけ隙間が空いていて、誰かが通ったような部分があった。
「これは……爆破されたのか?」
砕かれたプリゾナの欠片を見て、メディアスが眉間にしわを寄せる。爆破、言われてみれば確かにそんな感じだ。誰かが通ったような形跡があるなと思っていたが、もしかしたら爆破で中に閉じ込められた誰かを助けようとした跡だったのかもしれない。
破壊された洞窟を眺めていると、突然背後から呼びかけられた。
「アブソリュートの方々ですか!?」
振り返ると、真っ青な顔をした、長い黒髪の若い女性が立っていた。彼女の手や足、顔に至るまで、素肌の部分には黒い模様が描かれている。見方によっては、何かの呪文のようにもとれる。おそらく、メディアスが言っていた、番人なのだろう。
「そうだ。これは、どういうことなんだ?」
メディアスは女性に落ち着くよう促した。女性は深呼吸をすると、これまでのいきさつを話し始める。
「いつものように、数人の仲間たちがこのプリゾナ鉱山の番をしていました。しかし、何者かに襲われて、中に封印されていたタルトゥーガたちが外へ。タルトゥーガだけのせいではなく、その何者かの攻撃……爆発に巻き込まれて、負傷した仲間もいます。彼はかなりの重傷で……早く診てやってください!」
「番をしていた生き残りは何人いるんだ?」
「……1名だけです」
女性はうなだれた。1名だけ……しかも重傷か。メディアスが睨んだとおり、何者かの爆破が原因だ。
爆破というと、引っかかることがある。思い出す、前回の任務を。
「……分かった、案内してくれ。他の救護部隊員は、タルトゥーガによって負傷した者たちの治療を。今回は3機すべてに治癒魔法の特殊効果が付与されている。フェニックスに怪我した者たちを運び込むんだ!」
メディアスは指示を出してから、女性の方に向き直って頷く。その合図を見て、女性は走り出した。
女性の後をついていくと、おそらくタルトゥーガに破壊されたであろう建物の瓦礫に隠れるようにして、男性が地面に敷かれた布の上に横たわっていた。彼が、唯一の生き残りなのだという。
生き残りだという番人の男性は、全身にひどい火傷を負っていた。その顔は、もはや原形を留めていない。
「すぐ治療する」
メディアスは、すかさず治療に入った。しかし、その男性は何かを訴えかけるように、メディアスの腕を掴んで必死に声を絞り出す。
「炎が……封印解け……」
「タルトゥーガは、俺たちが何とかする。心配するな」
メディアスは男にそう言い聞かせた。しかし、男は腕を掴む手に力を込める。
「ぼ、帽子の……男……追って……助け……てく……れ」
男は目を大きく見開き訴えかけると、ふっと力が抜けたように倒れた。メディアスが慌てて男に何度も呼びかける。
「おい、しっかりしろ! ……くっ、だめか」
蘇生を試みたメディアスだったが、男が再び目を開くことはなかった。
「くそっ……」
俺にはどうすることもできない。思わず、左手を握りしめた。だが、俺がそうやっている横で、メディアスの大声が飛ぶ。
「手の空いている者は、急いで怪我している者をフェニックスに運べ!」
先ほどの男性の後のことは案内してくれた女性に任せ、メディアスは立ち上がる。その目には、いつもの鋭さがあった。
「お前は突っ立っていないで、自分の仕事をしろ!」
メディアスが俺に怒鳴った。さっきの出来事で頭の中がいっぱいになっていたが、メディアスの怒号ではっと我に返る。
「あ、ああ!」
ぼさっと突っ立っている場合ではなかった。俺はタルトゥーガを何とかするために、ここにいる。これ以上、被害を広げないためにも戦わなくては。落ち込んでいる場合ではない。メディアスは、もう気持ちを入れ替えたのだろうか。
俺も、見習わなくてはならない。アブソリュートにいる限り、こういうことはこれからも起こるだろう。
だが、俺たちはそれでもやらなきゃいけない。アブソリュート隊員として、誰かを助けるために。
メディアスは、タルトゥーガが封印されていた危険生物だと言っていた。だとしたら、あの山の中に封じられていた可能性もある。
徐々にフェニックスの高度が下がる。しかし、その途中で無線が入った。
【こちら、1号機。3号機、聞こえるか?】
「はい、大丈夫です。どうしたんですか?」
どうやら、一番先頭を飛んでいたフェニックスの操縦士から連絡があったようだ。
【このままでは、着陸が困難だ。タルトゥーガが邪魔をしている】
窓から地上の様子を確認する。最初は米粒のようにしか見えなかったタルトゥーガの全貌が、高度が下がるにつれ、はっきりと確認できた。
「おいおい……あれはまずいだろ」
タルトゥーガは、街全体を縦横無尽に駆け回っていた。決して小さくはない街だが、その至る所で姿が確認できる。
思っていたよりも、こいつはデカい。見た目は、茶色の亀だ。しかし、動きは俊敏。大きな甲羅を背負っているにも関わらず、かなりのスピードで走っている。
そして、その破壊力。突進した建物は粉々に粉砕され、見る影もない。あんなのにぶつかられたら、ひとたまりもないだろう。考えただけでもぞっとする。
「このままでは、着陸できません。どうしますか?」
エルフィアが困った顔で尋ねた。状況を把握した戦闘部隊員のひとりが、窓の外を見ながら腰に下げていた剣に手をかける。
「もう少し高度を下げられるか? 戦闘部隊員数人で、まずは着陸場所を確保する」
「じゃあ、私が行きます」
最初のひとりを皮切りに、次々と戦闘部隊員たちが名をあげる。
「俺も行く」
俺もそう言ったが、先輩隊員は首を横に振った。
「お前はまだいい。新米に危険なところを任せるわけにはいかないからな」
結局、男性3名、女性2名、計5名の戦闘部隊員たちで先攻パーティーが組まれた。戦闘態勢に入った彼らに、作戦部隊の青年が声をかける。
「いいか、無理はするなよ。最低限、着陸予定ポイントから引き離すだけでいい。むやみに倒そうとするな」
「了解」
5人は一斉に飛び降りると、着地点で暴れているタルトゥーガたちを挑発する。物理攻撃や魔法攻撃で、タルトゥーガたちの気を引いているようだ。
その攻撃に怒ったのか、タルトゥーガたちの目の色が変わった。タルトゥーガたちは5人に標準を合わせると、そちらをめがけて突進を開始する。
「アブソリュートの隊員をなめるなよっ!」
5人は上手く連携しながらタルトゥーガたちの攻撃をかわし、安全そうな場所へと引き離していく。こうやって実際に任務をこなしている先輩隊員たちの姿を見る機会は今までそうなかったが、こうしてみると、やっぱりすごいなと思う。
「皆さん、着陸します!」
フェニックスは先攻部隊のおかげで何とか着陸することができた。急いで俺たちも外に出る。
着陸したのは、上空からも確認できた巨大な山の前。全体をよく見てみると、透き通っていて、光が差し込むと、その加減によって七色の輝きを放つ。この山全体が、おそらくプリゾナでできているのだろう。とても綺麗だ。こんなにも美しい鉱山があるとは知らなかった。
「これがプリゾナの洞窟なのか?」
その巨大な鉱山に、入口があったような形跡があった。メディアスの言っていた、タルトゥーガが封印されていたという洞窟。この街のどこかにあるという話だったが、これのことだろうか。
しかし、その入口は粉々に砕かれた結晶で塞がれてしまっている。ただ、ほんの少しだけ隙間が空いていて、誰かが通ったような部分があった。
「これは……爆破されたのか?」
砕かれたプリゾナの欠片を見て、メディアスが眉間にしわを寄せる。爆破、言われてみれば確かにそんな感じだ。誰かが通ったような形跡があるなと思っていたが、もしかしたら爆破で中に閉じ込められた誰かを助けようとした跡だったのかもしれない。
破壊された洞窟を眺めていると、突然背後から呼びかけられた。
「アブソリュートの方々ですか!?」
振り返ると、真っ青な顔をした、長い黒髪の若い女性が立っていた。彼女の手や足、顔に至るまで、素肌の部分には黒い模様が描かれている。見方によっては、何かの呪文のようにもとれる。おそらく、メディアスが言っていた、番人なのだろう。
「そうだ。これは、どういうことなんだ?」
メディアスは女性に落ち着くよう促した。女性は深呼吸をすると、これまでのいきさつを話し始める。
「いつものように、数人の仲間たちがこのプリゾナ鉱山の番をしていました。しかし、何者かに襲われて、中に封印されていたタルトゥーガたちが外へ。タルトゥーガだけのせいではなく、その何者かの攻撃……爆発に巻き込まれて、負傷した仲間もいます。彼はかなりの重傷で……早く診てやってください!」
「番をしていた生き残りは何人いるんだ?」
「……1名だけです」
女性はうなだれた。1名だけ……しかも重傷か。メディアスが睨んだとおり、何者かの爆破が原因だ。
爆破というと、引っかかることがある。思い出す、前回の任務を。
「……分かった、案内してくれ。他の救護部隊員は、タルトゥーガによって負傷した者たちの治療を。今回は3機すべてに治癒魔法の特殊効果が付与されている。フェニックスに怪我した者たちを運び込むんだ!」
メディアスは指示を出してから、女性の方に向き直って頷く。その合図を見て、女性は走り出した。
女性の後をついていくと、おそらくタルトゥーガに破壊されたであろう建物の瓦礫に隠れるようにして、男性が地面に敷かれた布の上に横たわっていた。彼が、唯一の生き残りなのだという。
生き残りだという番人の男性は、全身にひどい火傷を負っていた。その顔は、もはや原形を留めていない。
「すぐ治療する」
メディアスは、すかさず治療に入った。しかし、その男性は何かを訴えかけるように、メディアスの腕を掴んで必死に声を絞り出す。
「炎が……封印解け……」
「タルトゥーガは、俺たちが何とかする。心配するな」
メディアスは男にそう言い聞かせた。しかし、男は腕を掴む手に力を込める。
「ぼ、帽子の……男……追って……助け……てく……れ」
男は目を大きく見開き訴えかけると、ふっと力が抜けたように倒れた。メディアスが慌てて男に何度も呼びかける。
「おい、しっかりしろ! ……くっ、だめか」
蘇生を試みたメディアスだったが、男が再び目を開くことはなかった。
「くそっ……」
俺にはどうすることもできない。思わず、左手を握りしめた。だが、俺がそうやっている横で、メディアスの大声が飛ぶ。
「手の空いている者は、急いで怪我している者をフェニックスに運べ!」
先ほどの男性の後のことは案内してくれた女性に任せ、メディアスは立ち上がる。その目には、いつもの鋭さがあった。
「お前は突っ立っていないで、自分の仕事をしろ!」
メディアスが俺に怒鳴った。さっきの出来事で頭の中がいっぱいになっていたが、メディアスの怒号ではっと我に返る。
「あ、ああ!」
ぼさっと突っ立っている場合ではなかった。俺はタルトゥーガを何とかするために、ここにいる。これ以上、被害を広げないためにも戦わなくては。落ち込んでいる場合ではない。メディアスは、もう気持ちを入れ替えたのだろうか。
俺も、見習わなくてはならない。アブソリュートにいる限り、こういうことはこれからも起こるだろう。
だが、俺たちはそれでもやらなきゃいけない。アブソリュート隊員として、誰かを助けるために。
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