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第2章 脱走した植物を追え!
①
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昼休みの後、いつものように同期の戦闘部隊員たちと一緒に戦闘訓練を受けていた。
俺もまだここに入隊して3か月ほどだが、それ以前にも訓練をしていたことがあって、基本はすでに終わっている。
俺は組織に助けられてから将来は戦闘員になることを半ば決定事項にされていた部分がある。それはヴァイルの差し金だと思うが、そういう事情もあって、俺は戦闘員になるための訓練を小さい時から受けさせられていた。
そのせいもあって、学校にはあまり顔を出せていなかった。親代わりのソワンは、それでも何とか時間を作って学校に行かせようとしてくれたが、そのころはまだ俺もアンヴェールを抑えることが困難で、暴れだしたら他の生徒に迷惑がかかってしまう可能性があったため、俺はなかなか行く気になれなかった。
勉強は家でエイドが教えてくれたし、後半はほとんど訓練に明け暮れていたような気もする。
俺が学校に行かないとき、毎回毎回ルーテルが家に来て、配布物を持って来たり、行事の前には誘ってくれた。それでも、アンヴェールが出てきたら学校に俺を止められるやつはいない。特に、行事など大勢が集まるときは以ての外だ。ルーテルには申し訳ないことをしたが、結局行事には一度も参加していない。
事情は何であれ、ここに入隊してからは俺の気持ちもだいぶ楽にはなった。ここになら、俺を止められるやつもいるだろうし、俺は特殊例だとしても、訳ありの隊員もそれなりにいると聞く。
ここは、任務は大変だとしても、俺にとっては自由の利く場所でもあった。
今日の訓練も、もうすぐ終わりという時、急にあたりが騒がしくなった。特に女子が。こういうことは、今回が初めてではない。なんとなく、俺にはもう予想がついていた。
「すみません、教官。まだ訓練中でしたか?」
やっぱり、その騒ぎの原因は、入口から顔を覗かせたエイドだった。邪魔しないようにとこっそり覗いたつもりなのかもしれないが、思いっきりばれている。
本当はもう少しだけ時間があったが、騒ぎは静まらないだろうと教官は訓練を早めに切り上げることにしたようだ。エイドに入ってもいいと合図する。
キャーキャー黄色い声援を受けながら、エイドが俺のところへやってきた。
「エイド、今日は休みなのか?」
「今日の任務は午前中だけだったから、午後は暇なんだ」
そう言うと、エイドは突然クスクスと笑いだした。ただ、どこか悲しげでもあった。
「何だよ?」
「いや……もうしっかり任務には参加してるのに、まだ初期段階の訓練受けてるんだもんなぁ」
一応、俺もまだ新入隊員だからな。
それはいいとして……周りに隊員たちが大勢集まってきているのだが。エイド目当てだというのに、俺までもみくちゃにされるのは勘弁してほしい。
見かねた教官が、早く出ていくように隊員たちを促す。それに文句を言いながらも、仕方なさそうに隊員たちは出ていった。
「エイド、次からは気をつけてくれよ」
教官が訓練よりも疲れた顔でエイドを見る。それに対して、エイドは申し訳なさそうに頭を下げた。教官はため息をつくと、訓練場を出ていった。
あたりが静かになると、エイドは思い出したように俺に尋ねる。
「お前、今日の予定は?」
「この後は回復魔法の講義だから、俺には関係ない」
次の時間は土のコアとか水のコアを持っている新入隊員が対象の講義だ。その後も、今日は俺に該当するものはない。
「じゃあ、少し城下町まで行かないか?」
「何しに行くんだ?」
「お前の武器を見に行こうかと思ってさ」
うわ、まだ覚えてたのかよ。俺は忘れかけてたぞ。
「次は自分で買うって言ったろ。お前が買っても、俺は絶対受け取らないからな。せっかく休みができたんなら、そんな無駄なことに時間使うなよ」
「相変わらず頑固だなー。でも、それを抜きにしても、俺はどうせ自分の用事があるから出かけるんだけどね。どうしても自分で買うって言うんなら、これから行く店が結構いいところなんだ。下見も兼ねて、一緒に来ないか?」
うーん、どうしようか……。まぁ、俺が見ていないところで勝手に買ってこられても困るし、監視のためにもついていくか。どうせ、今日は暇だしな。
「……見るだけだからな」
しぶしぶ俺は承諾した。
◇◇◇◇
エイドに連れてこられたのは、本部から歩いて15分くらいの場所にある、だいぶ古そうな建物だった。
レンガ造りの建物の至る所に、補修工事したであろう跡がうかがえる。店の看板らしきものが正面に取り付けられているが、消えかかっていて読めない。
「ここは、組織運営の店のひとつなんだよ。隊員証を見せれば、割引が効くんだ」
大丈夫なのか、ここ……そう思っていた俺をよそに、エイドは店の扉を開けて中へと入っていく。
ギィィと軋んだ音がして、壊れないかとヒヤヒヤする。建物が崩れなければいいが。
それにしても、こんな危なそうな店で働いているのは、いったいどんなやつなんだろう。
俺たちが店に入ってきたことに気がついたのか、奥の部屋から誰か出てくる。
「いらっしゃーい! 安くても最高の品を。金欠なアブソリュート隊員を応援する、『最後の砦』へようこそー!」
しかし、俺の予想とは裏腹に、奥から出てきたのは身長120cmほどの、小柄な少女だった。
白銀の美しい髪をしていて、さらにそれと同色の猫耳と尻尾が生えている。とすると、ケット・シーと何かのハーフだろう。人間とか、ドワーフあたりかな。
「にゃっ、エイドさんお久しぶりです! 最近ぱったりと姿が見えなくなったので、心配してたんですよー」
少女の反応から、エイドはここの常連客のようだ。
「久しぶり、ルル。ちょっと、最近は忙しくてさ。そっちこそ、変わりはない?」
「にゃあ、お陰様で繁盛してますよー。今日は、何をお探しですか?」
「今回は俺じゃなくて、こいつの武器を見に来たんだ。どうしても自分で買うってきかないから」
エイドは、やれやれと手をあげる。なんとしてでも、エイドが買うのだけは阻止しないとな。
店はあれだけど、置いてある武器は結構よさそうなものが揃っている。おまけに、値段もまったく手が届かないほどのものではない。
「お前に渡したグラディウスも、ここで買ったんだ。安いし、品質もいいよ」
「ありがとうございますー!」
ルルは嬉しそうに笑った。
「それにしても、まだ小さいのに大変だな」
俺がそう言うと、ルルは首を横に振った。
「にゃっ、私そんなに子供じゃないですよー。お客さん、おいくつですか?」
「15歳だけど」
「じゃあ、私の方がひとつ年上ですねー」
「えっ!? ご、ごめん……」
これは本当にびっくりした。見た目は明らかに俺より年下なのに。これで嫌な気分にさせていなければいいのだが……。
「別にいいですよ~、幼く見られるのはいつものことですから」
しかし、ルルは気にする様子もなく、笑顔で対応してくれた。さすが、客相手は慣れているようだ。
「ええと……お客さん、お名前は?」
「ファスだ」
「ファスさんですねー。店の商品は好きに見てもらって構いませんから、どうぞ」
そんなに大きい店ではないが、品ぞろえは豊富だ。狭いながらも、効率よく空間を使って、数多くの武器が並べられている。
売られているのは武器だけではなく、日用品なども置いてあった。他で買うよりも、ここで買った方が安いと思うものも結構ある。あ、これ昨日本部の売店で買ったやつだ……くそ、ここの方が安い。
じゃなかった。今日、俺は武器を見に来たんだ。改めて、武器コーナーへと戻る。
武器を眺めていると、後ろからエイドとルルが話している声が聞こえてきた。
「ついでだけど、この刀のメンテナンスお願いできないかな?」
刀というと、桜と不知火のことだな。
「にゃあ~、もちろんですよー。今はお父さんが留守なので、すぐには無理ですけど……」
「うん、緊急ではないから大丈夫だよ。ただ、しばらく手入れしてなかったから、そろそろ見てもらおうと思ってさ」
「お父さんが帰ってきたら、お知らせしますー」
「ありがとう。それにしても、本当にタダでもらっちゃってよかったのかな? かなりの名刀だよ、これ」
あれ、貰い物だったのか。ここの常連だからもらえたとか?
「いいんですー。私の命を助けてくれたんですから。それに、お父さんは誰にでも武器を渡すわけじゃないんですよ。エイドさんを気に入った証拠ですー」
「それが仕事だからね、気にしなくていいのに」
「でも、任務帰りだったじゃないですか。時間外ですよー」
「まだ報告の前だったから、任務中の出来事だよ」
「にゃあ~、仕事を増やしてしまって、すみませんでした……」
ルルが深く頭を下げた。その様子を見たエイドが慌てて両手を振る。
「いやいや、いいよそんなに謝らなくて!」
ルルを助けたお礼ということか。なるほど、エイドらしいな。それにしても、あの刀、もし自分で買っていたらいくらしたのだろう?
まぁ、それはいいか。俺は自分のを探そう。何度も買い換えられないから、よく見ておかないとな。
戦いからも離れ、少し穏やかな時間が訪れたかと思ったのもつかの間、それは勢いよく開いたせいで壊れてしまった店の扉の音で引き裂かれた。
俺もまだここに入隊して3か月ほどだが、それ以前にも訓練をしていたことがあって、基本はすでに終わっている。
俺は組織に助けられてから将来は戦闘員になることを半ば決定事項にされていた部分がある。それはヴァイルの差し金だと思うが、そういう事情もあって、俺は戦闘員になるための訓練を小さい時から受けさせられていた。
そのせいもあって、学校にはあまり顔を出せていなかった。親代わりのソワンは、それでも何とか時間を作って学校に行かせようとしてくれたが、そのころはまだ俺もアンヴェールを抑えることが困難で、暴れだしたら他の生徒に迷惑がかかってしまう可能性があったため、俺はなかなか行く気になれなかった。
勉強は家でエイドが教えてくれたし、後半はほとんど訓練に明け暮れていたような気もする。
俺が学校に行かないとき、毎回毎回ルーテルが家に来て、配布物を持って来たり、行事の前には誘ってくれた。それでも、アンヴェールが出てきたら学校に俺を止められるやつはいない。特に、行事など大勢が集まるときは以ての外だ。ルーテルには申し訳ないことをしたが、結局行事には一度も参加していない。
事情は何であれ、ここに入隊してからは俺の気持ちもだいぶ楽にはなった。ここになら、俺を止められるやつもいるだろうし、俺は特殊例だとしても、訳ありの隊員もそれなりにいると聞く。
ここは、任務は大変だとしても、俺にとっては自由の利く場所でもあった。
今日の訓練も、もうすぐ終わりという時、急にあたりが騒がしくなった。特に女子が。こういうことは、今回が初めてではない。なんとなく、俺にはもう予想がついていた。
「すみません、教官。まだ訓練中でしたか?」
やっぱり、その騒ぎの原因は、入口から顔を覗かせたエイドだった。邪魔しないようにとこっそり覗いたつもりなのかもしれないが、思いっきりばれている。
本当はもう少しだけ時間があったが、騒ぎは静まらないだろうと教官は訓練を早めに切り上げることにしたようだ。エイドに入ってもいいと合図する。
キャーキャー黄色い声援を受けながら、エイドが俺のところへやってきた。
「エイド、今日は休みなのか?」
「今日の任務は午前中だけだったから、午後は暇なんだ」
そう言うと、エイドは突然クスクスと笑いだした。ただ、どこか悲しげでもあった。
「何だよ?」
「いや……もうしっかり任務には参加してるのに、まだ初期段階の訓練受けてるんだもんなぁ」
一応、俺もまだ新入隊員だからな。
それはいいとして……周りに隊員たちが大勢集まってきているのだが。エイド目当てだというのに、俺までもみくちゃにされるのは勘弁してほしい。
見かねた教官が、早く出ていくように隊員たちを促す。それに文句を言いながらも、仕方なさそうに隊員たちは出ていった。
「エイド、次からは気をつけてくれよ」
教官が訓練よりも疲れた顔でエイドを見る。それに対して、エイドは申し訳なさそうに頭を下げた。教官はため息をつくと、訓練場を出ていった。
あたりが静かになると、エイドは思い出したように俺に尋ねる。
「お前、今日の予定は?」
「この後は回復魔法の講義だから、俺には関係ない」
次の時間は土のコアとか水のコアを持っている新入隊員が対象の講義だ。その後も、今日は俺に該当するものはない。
「じゃあ、少し城下町まで行かないか?」
「何しに行くんだ?」
「お前の武器を見に行こうかと思ってさ」
うわ、まだ覚えてたのかよ。俺は忘れかけてたぞ。
「次は自分で買うって言ったろ。お前が買っても、俺は絶対受け取らないからな。せっかく休みができたんなら、そんな無駄なことに時間使うなよ」
「相変わらず頑固だなー。でも、それを抜きにしても、俺はどうせ自分の用事があるから出かけるんだけどね。どうしても自分で買うって言うんなら、これから行く店が結構いいところなんだ。下見も兼ねて、一緒に来ないか?」
うーん、どうしようか……。まぁ、俺が見ていないところで勝手に買ってこられても困るし、監視のためにもついていくか。どうせ、今日は暇だしな。
「……見るだけだからな」
しぶしぶ俺は承諾した。
◇◇◇◇
エイドに連れてこられたのは、本部から歩いて15分くらいの場所にある、だいぶ古そうな建物だった。
レンガ造りの建物の至る所に、補修工事したであろう跡がうかがえる。店の看板らしきものが正面に取り付けられているが、消えかかっていて読めない。
「ここは、組織運営の店のひとつなんだよ。隊員証を見せれば、割引が効くんだ」
大丈夫なのか、ここ……そう思っていた俺をよそに、エイドは店の扉を開けて中へと入っていく。
ギィィと軋んだ音がして、壊れないかとヒヤヒヤする。建物が崩れなければいいが。
それにしても、こんな危なそうな店で働いているのは、いったいどんなやつなんだろう。
俺たちが店に入ってきたことに気がついたのか、奥の部屋から誰か出てくる。
「いらっしゃーい! 安くても最高の品を。金欠なアブソリュート隊員を応援する、『最後の砦』へようこそー!」
しかし、俺の予想とは裏腹に、奥から出てきたのは身長120cmほどの、小柄な少女だった。
白銀の美しい髪をしていて、さらにそれと同色の猫耳と尻尾が生えている。とすると、ケット・シーと何かのハーフだろう。人間とか、ドワーフあたりかな。
「にゃっ、エイドさんお久しぶりです! 最近ぱったりと姿が見えなくなったので、心配してたんですよー」
少女の反応から、エイドはここの常連客のようだ。
「久しぶり、ルル。ちょっと、最近は忙しくてさ。そっちこそ、変わりはない?」
「にゃあ、お陰様で繁盛してますよー。今日は、何をお探しですか?」
「今回は俺じゃなくて、こいつの武器を見に来たんだ。どうしても自分で買うってきかないから」
エイドは、やれやれと手をあげる。なんとしてでも、エイドが買うのだけは阻止しないとな。
店はあれだけど、置いてある武器は結構よさそうなものが揃っている。おまけに、値段もまったく手が届かないほどのものではない。
「お前に渡したグラディウスも、ここで買ったんだ。安いし、品質もいいよ」
「ありがとうございますー!」
ルルは嬉しそうに笑った。
「それにしても、まだ小さいのに大変だな」
俺がそう言うと、ルルは首を横に振った。
「にゃっ、私そんなに子供じゃないですよー。お客さん、おいくつですか?」
「15歳だけど」
「じゃあ、私の方がひとつ年上ですねー」
「えっ!? ご、ごめん……」
これは本当にびっくりした。見た目は明らかに俺より年下なのに。これで嫌な気分にさせていなければいいのだが……。
「別にいいですよ~、幼く見られるのはいつものことですから」
しかし、ルルは気にする様子もなく、笑顔で対応してくれた。さすが、客相手は慣れているようだ。
「ええと……お客さん、お名前は?」
「ファスだ」
「ファスさんですねー。店の商品は好きに見てもらって構いませんから、どうぞ」
そんなに大きい店ではないが、品ぞろえは豊富だ。狭いながらも、効率よく空間を使って、数多くの武器が並べられている。
売られているのは武器だけではなく、日用品なども置いてあった。他で買うよりも、ここで買った方が安いと思うものも結構ある。あ、これ昨日本部の売店で買ったやつだ……くそ、ここの方が安い。
じゃなかった。今日、俺は武器を見に来たんだ。改めて、武器コーナーへと戻る。
武器を眺めていると、後ろからエイドとルルが話している声が聞こえてきた。
「ついでだけど、この刀のメンテナンスお願いできないかな?」
刀というと、桜と不知火のことだな。
「にゃあ~、もちろんですよー。今はお父さんが留守なので、すぐには無理ですけど……」
「うん、緊急ではないから大丈夫だよ。ただ、しばらく手入れしてなかったから、そろそろ見てもらおうと思ってさ」
「お父さんが帰ってきたら、お知らせしますー」
「ありがとう。それにしても、本当にタダでもらっちゃってよかったのかな? かなりの名刀だよ、これ」
あれ、貰い物だったのか。ここの常連だからもらえたとか?
「いいんですー。私の命を助けてくれたんですから。それに、お父さんは誰にでも武器を渡すわけじゃないんですよ。エイドさんを気に入った証拠ですー」
「それが仕事だからね、気にしなくていいのに」
「でも、任務帰りだったじゃないですか。時間外ですよー」
「まだ報告の前だったから、任務中の出来事だよ」
「にゃあ~、仕事を増やしてしまって、すみませんでした……」
ルルが深く頭を下げた。その様子を見たエイドが慌てて両手を振る。
「いやいや、いいよそんなに謝らなくて!」
ルルを助けたお礼ということか。なるほど、エイドらしいな。それにしても、あの刀、もし自分で買っていたらいくらしたのだろう?
まぁ、それはいいか。俺は自分のを探そう。何度も買い換えられないから、よく見ておかないとな。
戦いからも離れ、少し穏やかな時間が訪れたかと思ったのもつかの間、それは勢いよく開いたせいで壊れてしまった店の扉の音で引き裂かれた。
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