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第19章 革命
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報道の後、未だ城の周りでは国民たちの様々な声が飛び交っている。
熱狂的に支持する声、あれはどういうことだと反発する声──ディオスは報道陣を外に追いやると、窓からその様子を眺めて口角を上げた。
その一部始終は、新国王であるディンを含め、城中の者が見ていた。アルベールが口を開く前に、普段は兄や姉の意見を聞いてから動くことの多かったディンが、ディオスに詰め寄った。
「あの報道は、どういうことですか?」
いつもは穏やかで優しい彼の険しい表情に、ディオス、そして兄姉、母も目を丸くした。
「どういうこと、とは?」
ディオスが聞き返す。
「エイドさんや、アルテストさんの件について、報道を見ても、僕は納得できなかった」
「あなたはひとを疑うことを知らないのです。いくら人がよさそうに見えても、本性は違うことも多い」
なだめるようなディオスの言葉に、ディンは首を大きく横に振る。
「さっきの報道もそうです! まるで、全属性使いばかりが特別であると取られかねない表現でした。全属性使いであっても、そうでなくても不当な扱いを受けている者はたくさんいます。それをなくしていこうという働きかけは、僕も必要だと思います」
賛同できる部分もあるとしながら、ディンは、でも、と続ける。
「でも、あれではまるで……全属性使いだけが特別で、他は違うと国民が受け取ってもおかしくはない」
だから、訂正するなら早く──そうディンが言うより前に、ディオスは口を開いた。
「そうですよ、そう言っているのです」
「……は?」
「全属性使いだけが特別で、他は違う──その通りではないですか」
「意味が、分かりません」
「全属性使いについての伝説を、聞いたことがありますか? どうして、全属性使いという存在が生まれたのかを」
ディンの返答を待たずに、ディオスは語り出す。
「この世界、エターノヴァはひとりの創造神から生み出された。エターノヴァというのは、その創造の女神の名前です。その女神は、火・水・土・風・光・闇の力をその身に宿していたといいます」
「つまり、全属性使いは神と同じ力を持つ──そう言いたいのですか?」
「理解が早くて助かります、新王陛下」
にこり、と笑みを浮かべるディオスに、ディンはぞっとした。この男は狂っている。いつからこんなことになっていたのか。それとも、初めからこうだったのか。
気味の悪さを感じながら、ディンはディオスの言葉を否定する。
「しかし、それが仮に本当だとしても、僕らは人間です。たとえ全属性使いだったとしても、人間なんです。神じゃない」
しかし、その言葉にもディオスは淡々と返す。
「世界を創ったのは神です。ならば、新たな世界を作れば、それは神と同じであると言えないでしょうか。生まれもって才ある全属性使いが集まれば、それも容易です」
ディオスは、困惑するディンの瞳を覗いた。
「全属性使いに正当な世界を」
ディオスがそう言葉を紡ぐ。
不穏な空気を察知したアルベールが、すかさずディンの視界からディオスを隠した。
「ディン、やつは何かしてくるつもりだ! 気をつけろ!!」
「兄上、わ、分かりました!!」
ぽかんと兄を見上げていたディンだったが、その声にはっと我に返る。
その様子を忌々しげに見て、ディオスは舌打ちした。
「邪魔な男だ。全属性使いでもないというのに」
そして、あろうことか、ディオスは腰に差していた剣を、アルベールに向けた。
「止めなさい! 何をしているのですか!?」
たまらず声を上げたのは第一王女のマリアムだった。
「お兄様は国王陛下の兄君でもあられます。剣を向けるなど……」
「現国王陛下は、ディン様で間違いない。それが、前王の願いだ。だが、お前たちは現国王陛下の兄でも、姉でもない」
ディオスは、マリアムとアルベールに冷ややかな視線を向ける。
言葉の意図を掴めず、マリアムのみならず、アルベールとディンも訝しげな顔をした。
その中でひとりだけ、満面の笑みを浮かべてディオスの傍に歩み寄る女性の姿があった。
「やっと、この日が来ましたわね。いつ公にできるものかと心待ちにしておりました」
「母上……?」
その隣に立つ艶やかな女性は、ディンの母アデルで間違いなかった。
「僕は、確かに兄上や姉上とは母親が違います。しかし……」
父親は同じであるはず──そう続けるより早く、アデルが口を開く。
「そうね、あなたは間違いなく私の子よ。そして──」
するり、とアデルはディオスの肩に手を回す。
「ここにいる、ディオス様の子でもあるのよ」
その告白に、ディンは言葉を失った。
熱狂的に支持する声、あれはどういうことだと反発する声──ディオスは報道陣を外に追いやると、窓からその様子を眺めて口角を上げた。
その一部始終は、新国王であるディンを含め、城中の者が見ていた。アルベールが口を開く前に、普段は兄や姉の意見を聞いてから動くことの多かったディンが、ディオスに詰め寄った。
「あの報道は、どういうことですか?」
いつもは穏やかで優しい彼の険しい表情に、ディオス、そして兄姉、母も目を丸くした。
「どういうこと、とは?」
ディオスが聞き返す。
「エイドさんや、アルテストさんの件について、報道を見ても、僕は納得できなかった」
「あなたはひとを疑うことを知らないのです。いくら人がよさそうに見えても、本性は違うことも多い」
なだめるようなディオスの言葉に、ディンは首を大きく横に振る。
「さっきの報道もそうです! まるで、全属性使いばかりが特別であると取られかねない表現でした。全属性使いであっても、そうでなくても不当な扱いを受けている者はたくさんいます。それをなくしていこうという働きかけは、僕も必要だと思います」
賛同できる部分もあるとしながら、ディンは、でも、と続ける。
「でも、あれではまるで……全属性使いだけが特別で、他は違うと国民が受け取ってもおかしくはない」
だから、訂正するなら早く──そうディンが言うより前に、ディオスは口を開いた。
「そうですよ、そう言っているのです」
「……は?」
「全属性使いだけが特別で、他は違う──その通りではないですか」
「意味が、分かりません」
「全属性使いについての伝説を、聞いたことがありますか? どうして、全属性使いという存在が生まれたのかを」
ディンの返答を待たずに、ディオスは語り出す。
「この世界、エターノヴァはひとりの創造神から生み出された。エターノヴァというのは、その創造の女神の名前です。その女神は、火・水・土・風・光・闇の力をその身に宿していたといいます」
「つまり、全属性使いは神と同じ力を持つ──そう言いたいのですか?」
「理解が早くて助かります、新王陛下」
にこり、と笑みを浮かべるディオスに、ディンはぞっとした。この男は狂っている。いつからこんなことになっていたのか。それとも、初めからこうだったのか。
気味の悪さを感じながら、ディンはディオスの言葉を否定する。
「しかし、それが仮に本当だとしても、僕らは人間です。たとえ全属性使いだったとしても、人間なんです。神じゃない」
しかし、その言葉にもディオスは淡々と返す。
「世界を創ったのは神です。ならば、新たな世界を作れば、それは神と同じであると言えないでしょうか。生まれもって才ある全属性使いが集まれば、それも容易です」
ディオスは、困惑するディンの瞳を覗いた。
「全属性使いに正当な世界を」
ディオスがそう言葉を紡ぐ。
不穏な空気を察知したアルベールが、すかさずディンの視界からディオスを隠した。
「ディン、やつは何かしてくるつもりだ! 気をつけろ!!」
「兄上、わ、分かりました!!」
ぽかんと兄を見上げていたディンだったが、その声にはっと我に返る。
その様子を忌々しげに見て、ディオスは舌打ちした。
「邪魔な男だ。全属性使いでもないというのに」
そして、あろうことか、ディオスは腰に差していた剣を、アルベールに向けた。
「止めなさい! 何をしているのですか!?」
たまらず声を上げたのは第一王女のマリアムだった。
「お兄様は国王陛下の兄君でもあられます。剣を向けるなど……」
「現国王陛下は、ディン様で間違いない。それが、前王の願いだ。だが、お前たちは現国王陛下の兄でも、姉でもない」
ディオスは、マリアムとアルベールに冷ややかな視線を向ける。
言葉の意図を掴めず、マリアムのみならず、アルベールとディンも訝しげな顔をした。
その中でひとりだけ、満面の笑みを浮かべてディオスの傍に歩み寄る女性の姿があった。
「やっと、この日が来ましたわね。いつ公にできるものかと心待ちにしておりました」
「母上……?」
その隣に立つ艶やかな女性は、ディンの母アデルで間違いなかった。
「僕は、確かに兄上や姉上とは母親が違います。しかし……」
父親は同じであるはず──そう続けるより早く、アデルが口を開く。
「そうね、あなたは間違いなく私の子よ。そして──」
するり、とアデルはディオスの肩に手を回す。
「ここにいる、ディオス様の子でもあるのよ」
その告白に、ディンは言葉を失った。
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