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第13章 水面に映る乙女
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「アヴェリア様にも、婚約者の話は出ているのですか?」
きっかけは、その一言だった。
エインズワース侯爵家に招かれ、シエナと談笑していた時のこと。ふと表情を曇らせた彼女のことが気になり理由を尋ねたところ、近頃、婚約者候補の写真をたくさん見せられて疲れているのだとか。
アヴェリアも同じ状況ではないかと気になり、先の言葉が出たのである。
「私は、婚約者を選ぶつもりはありません」
その返答に、シエナは目を瞬かせる。
どんな貴族の令嬢であっても、婚約者をつくらないというのは極めて異例なことだった。いくらアヴェリアのことを家族が溺愛していたとしても、貴族の娘として避けられない運命のはず。
「理由をお伺いしてもよろしいですか?」
聞き流すわけにもいかず、シエナは説明を求めた。
アヴェリアは、至って淡々とした口調で応じる。
「シエナ様は、預言者に与えられる使命のことをご存じですか?」
「はい。代々、預言者となられた方々は、神から使命を授かり、それを果たすために尽力されるのだと」
「では、使命を果たした預言者がどうなるかは?」
「それは……」
シエナは口ごもる。
預言者は、使命を果たせば命を落とす。それは多くの人々が知るところだ。
「その表情を見るに、ご存じのようですね」
一呼吸おいて、アヴェリアは続ける。
「私に与えられた使命は、この国の王太子の運命の相手を見つけること。ですから、自分の婚約者など探すだけ無駄なことなのです」
ひゅっ、とシエナは息を呑む。
使命を果たした預言者の最期は知っていても、それぞれの預言者に与えられた使命が何であるのかは、機密事項に触れることも多く、公にはされないことがほとんどだ。
初めて、アヴェリアに与えられた預言者としての使命を知ったシエナは、頭が混乱して、なかなか言葉を発することができなかった。
「フォリオ殿下も、パトリック殿下も、このことを知って婚約者選びには消極的です。しかし、この国を背負って立つ方が、そんなことではいけません」
「でも……気にするなというのは、難しいことです」
ようやく、シエナは弱々しく口を開いた。
「預言者であることに、私は誇りをもっています。この国の未来を左右する使命を与えられた者として、それを全うすることが私にとって最も重要なこと」
そんなシエナに対して、アヴェリアは凛とした態度で臨む。
「シエナ様も、この国の重要な部分を担うエインズワース侯爵家の人間として、私情に流されず、ファシアス王国繁栄のために力を貸してくださいませ」
大人びたアヴェリアと違い、シエナは貴族といえどまだ子どもだ。アヴェリアの言葉に何も返すことはできなかった。
それでも、この日の出来事が、シエナが成長した時に何らかの影響を与えてくれると願って。
「私たちは、生まれた時から自分の人生は自分だけのものではないのです。運命に真摯に向き合うことも、必要なことなのですよ」
そう語るアヴェリアの黄金の瞳は、あまりに力強く輝いていた。
きっかけは、その一言だった。
エインズワース侯爵家に招かれ、シエナと談笑していた時のこと。ふと表情を曇らせた彼女のことが気になり理由を尋ねたところ、近頃、婚約者候補の写真をたくさん見せられて疲れているのだとか。
アヴェリアも同じ状況ではないかと気になり、先の言葉が出たのである。
「私は、婚約者を選ぶつもりはありません」
その返答に、シエナは目を瞬かせる。
どんな貴族の令嬢であっても、婚約者をつくらないというのは極めて異例なことだった。いくらアヴェリアのことを家族が溺愛していたとしても、貴族の娘として避けられない運命のはず。
「理由をお伺いしてもよろしいですか?」
聞き流すわけにもいかず、シエナは説明を求めた。
アヴェリアは、至って淡々とした口調で応じる。
「シエナ様は、預言者に与えられる使命のことをご存じですか?」
「はい。代々、預言者となられた方々は、神から使命を授かり、それを果たすために尽力されるのだと」
「では、使命を果たした預言者がどうなるかは?」
「それは……」
シエナは口ごもる。
預言者は、使命を果たせば命を落とす。それは多くの人々が知るところだ。
「その表情を見るに、ご存じのようですね」
一呼吸おいて、アヴェリアは続ける。
「私に与えられた使命は、この国の王太子の運命の相手を見つけること。ですから、自分の婚約者など探すだけ無駄なことなのです」
ひゅっ、とシエナは息を呑む。
使命を果たした預言者の最期は知っていても、それぞれの預言者に与えられた使命が何であるのかは、機密事項に触れることも多く、公にはされないことがほとんどだ。
初めて、アヴェリアに与えられた預言者としての使命を知ったシエナは、頭が混乱して、なかなか言葉を発することができなかった。
「フォリオ殿下も、パトリック殿下も、このことを知って婚約者選びには消極的です。しかし、この国を背負って立つ方が、そんなことではいけません」
「でも……気にするなというのは、難しいことです」
ようやく、シエナは弱々しく口を開いた。
「預言者であることに、私は誇りをもっています。この国の未来を左右する使命を与えられた者として、それを全うすることが私にとって最も重要なこと」
そんなシエナに対して、アヴェリアは凛とした態度で臨む。
「シエナ様も、この国の重要な部分を担うエインズワース侯爵家の人間として、私情に流されず、ファシアス王国繁栄のために力を貸してくださいませ」
大人びたアヴェリアと違い、シエナは貴族といえどまだ子どもだ。アヴェリアの言葉に何も返すことはできなかった。
それでも、この日の出来事が、シエナが成長した時に何らかの影響を与えてくれると願って。
「私たちは、生まれた時から自分の人生は自分だけのものではないのです。運命に真摯に向き合うことも、必要なことなのですよ」
そう語るアヴェリアの黄金の瞳は、あまりに力強く輝いていた。
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