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第14章 学園に咲く乙女
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「名乗りもせずに、突然声をかけてくるなんて失礼ではないかな?」
目の前の少女が誰かはもちろん分かっているが、低い声でパトリックは忠告する。
「ごめんなさぁい。近くを通りかかったら、楽しそうにお話ししてるのが見えてぇ」
謎に身体をくねらせながら、上目遣いでパトリックを見上げる。演技だろうが、若干目に涙を溜めて庇護欲をそそろうとしている。
とんだ大根役者だと呆れてしまうが、悪魔の魅了の力があるなら話は別だ。この場にシエナがいなければ、王子たちはたちまち彼女の毒牙にかかってしまっただろう。
随分と変わってしまったものだ、とアヴェリアは少し驚く。見た目の話ではなく、中身が。
(子どもの頃は、まだ可愛げがありましたのに。今の彼女を前にすると、寒気がしますわ)
見た目こそ変わらず可愛らしいものだが、仕草や話し方などは、貴族令嬢とは思えぬものだった。
「フォリオ様は、当然私のことをご存知ですよねぇ?」
ぱっ、と甘い視線をフォリオに向けるが、彼は首を傾げた後、真面目に答える。
「僕は会ったことがあるけど、この場には君のことを知らない人もいる。名乗らずに勝手に話し続けているのは、どうして?」
フォリオの凄いところは、嫌味で言っているのではなく、純粋に不思議に思って言葉を発するところだ。
今も、別にアリアをきつく注意しているわけではない。ただ、「なぜこんなことをしているんだろう?」と心底不思議そうな顔をしていた。
(フォリオ殿下は純粋すぎて心配になりますわね)
いつまでも居座り続けるアリアに、流石にアヴェリアが口を開いた。
「デイモン男爵令嬢、本日はお引き取りください。あなたの行動は、貴族令嬢として目に余るものです」
「きゃっ、アヴェリア様どうしてそんなに厳しいことを言うんですかぁ? ひどぉい」
ちらっ、と殿方の方を見たアリアだが、この場には天使の祝福を受けたシエナがいる。アリアの力の方が上回れば魅了されることもあるだろうが、現段階ではシエナの方が強い。
白けた顔をしているパトリックたちを見て、アリアが困惑したような表情に変わる。
「デイモン男爵令嬢といったか」
「は、はいっ! アリア・デイモンと申します、ハルサー……」
「名前を呼ぶことは許可していない」
「えっ?」
ハルサーシャのことも当然知っていたのか、声をかけられたアリアは喜んで食いついた。
しかし、彼が声をかけたのは、彼女を憐れんだわけではない。いつもの笑顔はどこかへ消え、低い声で忠告する。
「アヴェリア嬢は当然の注意をしただけだ。それを有り難く受け入れぬばかりか、彼女を非難するとは……心底気分が悪くなった。今なら目をつむろう。すぐに立ち去るがいい」
「えっ、でも、アヴェリア様が私に酷いことを言ったんですよ?」
「当然の忠告だと言ったはずだ。何度も言われなければ分からないのか? もう一度言う。すぐにこの場から立ち去れ」
周りにいた他の生徒たちもざわつき始め、流石にまずいと思ったのかアリアは顔を真っ赤にして早足で去っていった。
「なんで誰も私の味方にならないの?」「全部アヴェリアのせいだわ」などと、喚き散らしながら。
「ありがとうございます、ハル様」
「当然だ。貴女への態度が許せなかったものでな。騒がせて申し訳ない」
普段の朗らかな様子とはかけ離れていたが、その堂々たる姿は流石王族といったものだった。
「僕もあれくらいビシッと言えるようにならないとなぁ……」
同じ王族として、フォリオの目にはハルサーシャの姿が眩しく映った。
目の前の少女が誰かはもちろん分かっているが、低い声でパトリックは忠告する。
「ごめんなさぁい。近くを通りかかったら、楽しそうにお話ししてるのが見えてぇ」
謎に身体をくねらせながら、上目遣いでパトリックを見上げる。演技だろうが、若干目に涙を溜めて庇護欲をそそろうとしている。
とんだ大根役者だと呆れてしまうが、悪魔の魅了の力があるなら話は別だ。この場にシエナがいなければ、王子たちはたちまち彼女の毒牙にかかってしまっただろう。
随分と変わってしまったものだ、とアヴェリアは少し驚く。見た目の話ではなく、中身が。
(子どもの頃は、まだ可愛げがありましたのに。今の彼女を前にすると、寒気がしますわ)
見た目こそ変わらず可愛らしいものだが、仕草や話し方などは、貴族令嬢とは思えぬものだった。
「フォリオ様は、当然私のことをご存知ですよねぇ?」
ぱっ、と甘い視線をフォリオに向けるが、彼は首を傾げた後、真面目に答える。
「僕は会ったことがあるけど、この場には君のことを知らない人もいる。名乗らずに勝手に話し続けているのは、どうして?」
フォリオの凄いところは、嫌味で言っているのではなく、純粋に不思議に思って言葉を発するところだ。
今も、別にアリアをきつく注意しているわけではない。ただ、「なぜこんなことをしているんだろう?」と心底不思議そうな顔をしていた。
(フォリオ殿下は純粋すぎて心配になりますわね)
いつまでも居座り続けるアリアに、流石にアヴェリアが口を開いた。
「デイモン男爵令嬢、本日はお引き取りください。あなたの行動は、貴族令嬢として目に余るものです」
「きゃっ、アヴェリア様どうしてそんなに厳しいことを言うんですかぁ? ひどぉい」
ちらっ、と殿方の方を見たアリアだが、この場には天使の祝福を受けたシエナがいる。アリアの力の方が上回れば魅了されることもあるだろうが、現段階ではシエナの方が強い。
白けた顔をしているパトリックたちを見て、アリアが困惑したような表情に変わる。
「デイモン男爵令嬢といったか」
「は、はいっ! アリア・デイモンと申します、ハルサー……」
「名前を呼ぶことは許可していない」
「えっ?」
ハルサーシャのことも当然知っていたのか、声をかけられたアリアは喜んで食いついた。
しかし、彼が声をかけたのは、彼女を憐れんだわけではない。いつもの笑顔はどこかへ消え、低い声で忠告する。
「アヴェリア嬢は当然の注意をしただけだ。それを有り難く受け入れぬばかりか、彼女を非難するとは……心底気分が悪くなった。今なら目をつむろう。すぐに立ち去るがいい」
「えっ、でも、アヴェリア様が私に酷いことを言ったんですよ?」
「当然の忠告だと言ったはずだ。何度も言われなければ分からないのか? もう一度言う。すぐにこの場から立ち去れ」
周りにいた他の生徒たちもざわつき始め、流石にまずいと思ったのかアリアは顔を真っ赤にして早足で去っていった。
「なんで誰も私の味方にならないの?」「全部アヴェリアのせいだわ」などと、喚き散らしながら。
「ありがとうございます、ハル様」
「当然だ。貴女への態度が許せなかったものでな。騒がせて申し訳ない」
普段の朗らかな様子とはかけ離れていたが、その堂々たる姿は流石王族といったものだった。
「僕もあれくらいビシッと言えるようにならないとなぁ……」
同じ王族として、フォリオの目にはハルサーシャの姿が眩しく映った。
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