76 / 198
episode 3
乱される心
しおりを挟む
二人で向かった先は有名チェーン店のコーヒーショップだった。
レジで注文を済ませてカウンターで受け取ると、そのまま席に向かい向い合せで座る。
本当なら少し離れて座りたかったのだけど、藤瀬くんが二人掛けのテーブル席を選んでしまったのだから仕方がない。
なるべく目を合わせないようにして、カップのブラックコーヒーをすすった。
「コーヒー、飲めるようになったんだな」
藤瀬くんは私の口元を目を細めて見つめながらそんなことを言う。
「昔はさ、コーヒーなんて苦いものは飲めないって言って、いっつも甘いミルクティーだったよな」
そうだった。
デートの時も学校帰りの時も、藤瀬くんはいつも私にミルクティーを手渡してくれていた。
それがとても嬉しくて、コーヒーが飲めるようになったのも内緒にして、いつも藤瀬くんの優しさを受け取っていたんだ。
「そんなこと……よく覚えてますね」
「そりゃ覚えてるよ。あの頃のことは」
「……」
藤瀬くんにとって、あの頃のことは思い出したくもない思い出なんじゃないか。
勝手にそう思い込んでいた私は、その言葉に驚きを隠せなかった。
「あの頃の茉莉香は笑顔がとっても可愛かったな。そういえば俺、再会してから茉莉香に笑いかけてもらってない気がするんだよね」
「そうでしたっけ」
「今の茉莉香の笑顔、見せてよ。ついでに敬語もやめてくれると嬉しいんだけど」
「それは無理ですね」
私が即答すると、藤瀬くんは少し切なげに「そっか。無理言ってごめんね、橘さん」と笑った。
私が藤瀬くんに笑顔を見せていたのは、彼と私の気持ちは繋がってると思い込んでいたからだ。
純粋に、素直に、なんの疑いもなく。
藤瀬くんの気持ちを信じていたからなんだ。
だからこそ、今の私は藤瀬くんにあの頃と同じ笑顔を見せることなんてできない。
レジで注文を済ませてカウンターで受け取ると、そのまま席に向かい向い合せで座る。
本当なら少し離れて座りたかったのだけど、藤瀬くんが二人掛けのテーブル席を選んでしまったのだから仕方がない。
なるべく目を合わせないようにして、カップのブラックコーヒーをすすった。
「コーヒー、飲めるようになったんだな」
藤瀬くんは私の口元を目を細めて見つめながらそんなことを言う。
「昔はさ、コーヒーなんて苦いものは飲めないって言って、いっつも甘いミルクティーだったよな」
そうだった。
デートの時も学校帰りの時も、藤瀬くんはいつも私にミルクティーを手渡してくれていた。
それがとても嬉しくて、コーヒーが飲めるようになったのも内緒にして、いつも藤瀬くんの優しさを受け取っていたんだ。
「そんなこと……よく覚えてますね」
「そりゃ覚えてるよ。あの頃のことは」
「……」
藤瀬くんにとって、あの頃のことは思い出したくもない思い出なんじゃないか。
勝手にそう思い込んでいた私は、その言葉に驚きを隠せなかった。
「あの頃の茉莉香は笑顔がとっても可愛かったな。そういえば俺、再会してから茉莉香に笑いかけてもらってない気がするんだよね」
「そうでしたっけ」
「今の茉莉香の笑顔、見せてよ。ついでに敬語もやめてくれると嬉しいんだけど」
「それは無理ですね」
私が即答すると、藤瀬くんは少し切なげに「そっか。無理言ってごめんね、橘さん」と笑った。
私が藤瀬くんに笑顔を見せていたのは、彼と私の気持ちは繋がってると思い込んでいたからだ。
純粋に、素直に、なんの疑いもなく。
藤瀬くんの気持ちを信じていたからなんだ。
だからこそ、今の私は藤瀬くんにあの頃と同じ笑顔を見せることなんてできない。
0
あなたにおすすめの小説
君の声を、もう一度
たまごころ
恋愛
東京で働く高瀬悠真は、ある春の日、出張先の海辺の町でかつての恋人・宮川結衣と再会する。
だが結衣は、悠真のことを覚えていなかった。
五年前の事故で過去の記憶を失った彼女と、再び「初めまして」から始まる関係。
忘れられた恋を、もう一度育てていく――そんな男女の再生の物語。
静かでまっすぐな愛が胸を打つ、記憶と時間の恋愛ドラマ。
距離感ゼロ〜副社長と私の恋の攻防戦〜
葉月 まい
恋愛
「どうするつもりだ?」
そう言ってグッと肩を抱いてくる
「人肌が心地良くてよく眠れた」
いやいや、私は抱き枕ですか!?
近い、とにかく近いんですって!
グイグイ迫ってくる副社長と
仕事一筋の秘書の
恋の攻防戦、スタート!
✼••┈•• ♡ 登場人物 ♡••┈••✼
里見 芹奈(27歳) …神蔵不動産 社長秘書
神蔵 翔(32歳) …神蔵不動産 副社長
社長秘書の芹奈は、パーティーで社長をかばい
ドレスにワインをかけられる。
それに気づいた副社長の翔は
芹奈の肩を抱き寄せてホテルの部屋へ。
海外から帰国したばかりの翔は
何をするにもとにかく近い!
仕事一筋の芹奈は
そんな翔に戸惑うばかりで……
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
先生
藤谷 郁
恋愛
薫は28歳の会社員。
町の絵画教室で、穏やかで優しい先生と出会い、恋をした。
ひとまわりも年上の島先生。独身で、恋人もいないと噂されている。
だけど薫は恋愛初心者。
どうすればいいのかわからなくて……
※他サイトに掲載した過去作品を転載(全年齢向けに改稿)
シンデレラは王子様と離婚することになりました。
及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・
なりませんでした!!
【現代版 シンデレラストーリー】
貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。
はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。
しかしながら、その実態は?
離婚前提の結婚生活。
果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。
社内恋愛の絶対条件!"溺愛は退勤時間が過ぎてから"
桜井 響華
恋愛
派遣受付嬢をしている胡桃沢 和奏は、副社長専属秘書である相良 大貴に一目惚れをして勢い余って告白してしまうが、冷たくあしらわれる。諦めモードで日々過ごしていたが、チャンス到来───!?
課長と私のほのぼの婚
藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。
舘林陽一35歳。
仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。
ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。
※他サイトにも投稿。
※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる