その日、女の子になった私。

奈津輝としか

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【第5部〜旧世界の魔神編〜】

第2章 知られた秘密

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 泣きっ面に蜂とは良く言ったもので、悲しんでいると、不幸を呼び込んでまう。

「神崎さん、少し良いかね?」
社長室に呼び出されると、嫌な予感がした。

「神崎さん、貴女が春町の出身だと聞いたのだが、本当かね?」

 その言葉を聞くと、頭の中が真っ白になった。
私は着替えなどは当然、女子更衣室で行っているのだ。
身体は女性でも、元男性と言うのは色々と支障がある。
それに、本来なら入社時に言うべきだったのだ。
それを隠す様にして入社したのだ。
クビにされるかも知れないと、頭によぎった。
やっと、ここでの生活に慣れて来た所なのだ。辞めたくない。

「それで、ものは相談なんだが…貴女が本当に女性なのか確かめたくてね?この事を知っているのは、私だけだ。言いたい事が分かるね?仕事が終わったら、向かいのファミレスで待ってなさい」

 私も大人だ。何を意味しているか直ぐに理解した。
私を都合の良い愛人、もとい、セフレにでもするつもりだ。
セフレなら中身が男性だろうと関係無い。
性的に満足すればそれで良いからだ。

 仕事が手に付かず、ぼーっとしていると、私が社長に呼び出されて怒られたんだろうと思って、皆んな優しく心配して声を掛けてくれた。
その優しさが、返って今は心が痛い。
社長のセフレにされるくらいなら、退社しようと思っていた。
でも、辞めたく無い。
法律に詳しくないので、こんな私でも、セクハラで訴える事が可能なのか分からない。
考え事をしていると、あっという間に17時になった。

「神崎さん、お疲れ様」

「あ、はい。お疲れ様でした」

「大丈夫?今日ずっとそんな感じだよ。熱でもあるんじゃない?」

「大丈夫です。ちょっと、心配事がありまして…」

「そう、良かったら相談に乗るよ?」

「ありがとうございます。また、お願いします」

 相談すれば、私が春町出身だとバレてしまう。
どんなに親切にしてくる人でも、春町出身だと分かると態度が豹変する。
「元男だったんなら、男の気持ちが分かるよな?頼むからヤラしてくれよ」何度、その言葉を言われたか覚えていない。
そう言って来た男には必ず、こう言い返した。
「お前も男なら分かるよな?男とHしたいと思うか?」と。
その後は大体決まって、フラれた腹いせなのか、私がレズだとか、中身が男だと周りに吹聴して、それまで友達だった女性達からも距離を置かれる様になった。

 だから、私が春町出身だと知られていない、西の端の県まで来たのに。
お金もあまり貯まっていないし、再就職をここで探すのは厳しい。
このままでは、春町に帰る事になる。
ファミレスの席に着いて何も頼まずに泣いていると、彼氏と別れ話でもするのかと気を遣われて、店員さんが声を掛けて来なかった。

 暫くすると、社長がファミレスに入って来た。

「泣いていたのか?私が貴女に何かを強要するとでも誤解させたかな?ははは」
社長は、申し訳なさそうに笑った。

「えっ?ホテルに連れ込もうとされてるんじゃ…」

「あははは。そんな卑劣な男に見られるとは、心外だな」

「すみません…」

「良い。貴女の今の心情では、そう思うかも知れない。さて、本題に移るが、このままではいけない。それは思うね?」

「はい」

「女子更衣室だって、他の女性社員と同じだ。万が一、貴女が春町出身だと知られた時、どうなるか想像がつくだろう?そこで、貴女を私の専属秘書にしたい。そうすれば、皆んなとは更衣室も別々だ」

想像していなかった申し出に、感謝して泣いた。

「私は社員を家族の様に思っている。貴女の事も娘の様に思っているんだよ」
そう言って頭を撫でられた。

 社長にお礼をいって、ファミレスを出た。

「良かった、辞めなくて。社長、本当に良い人だったんだ」

 翌る日出勤すると、どことなく皆んなの目が冷たい気がした。
私が挨拶すると、女性社員は露骨に私を避けた。
秘書になる辞令を知られて、嫉妬されているのかと思ったが、そうではなかった。

「ごめん、神崎さん。深刻そうな顔で社長と会っていたから、こっそり話を聞いたんだ」

それを聞くと、青ざめて身体が震えた。
(知られた…皆んなに。もうここにはいられない)

 私はそのまま会社を飛び出した。
何処をどう歩いたのか覚えていない。
いつ電車に乗ったのかも覚えていない。
気が付けば、山口きらら博記念公園にいた。
小高い丘の様になった場所に、1人用のブランコがある。
ゆらゆらと揺られていると、まだ幼稚園に上がれない幼い子供達が、母親に連れられてお散歩しているのが見えた。
長閑で良い町だった。
近くにディスカウントショップが立ち並び、お財布事情の厳しい私には、住みやすくて優しい町だった。
(でも、もうここから離れなくてはならない。何処に行こうかと思案にくれた)

 スマホの着信が鳴り続けるので、電源を切っていたが、気になって電源を入れると、着信履歴が57件も入っていた。
会社からと、私と社長の話を盗み聞きした社員や、事務所の上司からだ。
それと、社長からも入電していた。

「もしもし、社長ですか?私です。ごめんなさい。急に飛び出してしまって。あの時の話を聞かれていたらしいのです」

 社長の話を聞くとそれは誤解で、彼が聞いたのは、私が秘書になる事だけで、他については聞いていなかったと言う事だ。
皆んなから、特に事務所の女性社員から白い目で見られている気がしたのは、私のやましい心がそう感じさせただけで、真実は、私の出世を祝って、私に知られない様に、密かに飲み会の準備を進められていただけだった。

 私は直ぐに会社に戻り、皆んなの前で泣いて謝ると、そんなに俺達から離れたくなかったのか?と笑って迎えられ、拍手で秘書になる事を祝福された。
皆んな良い人達ばかりだ。
秘密を知られていなかった安堵感と、皆んなの優しさが心に染みて、涙が止まらなかった。
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