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【第7部〜虞美人編〜】
第5話 楚の復興
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更に年が過ぎて翌年、紀元前208年になると、旧楚領を取り戻すべく江南の地を平らげると、北上した。
「さぁ、秦から我らが土地を取り戻す時ぞ!続け!」
「杀!(突撃!)」
「杀!(突っ込め!)」
「杀!(死ね!)」
「杀」は本来、「殺す!」と直訳すべき所だが、軍を率いた時の「突撃」としての意味で使われる事が多い為、ここでは突撃としている。
両軍「杀!」の怒号が入り乱れて敵陣に突っ込んだ。
「うるぁぁぁ!」
黥布が正面から向かって来た敵将校に1番槍を入れ、3合も渡り合わずに斬って捨てた。桓楚も負けじとそれに続いた。
俺は項羽の背に守られながら敵陣に突撃した。項羽の超人的な強さを目の当たりにして、惚れ惚れしながらも、俺だって桓楚や黥布に負けない戦功を立てる自信があるのに、項羽の背に守られていてはそれも出来ない、と不満に思った。
まさに破竹の勢いに乗った項梁軍は、連戦連勝を重ねた。
「報!(報告!)」
「何があった?」
「陳勝と呉広が亡くなりました」
「何ぃ!どう言う事じゃ?何があったのか説明しろ!」
項梁は、呉広の死から報告を受けた。呉広は滎陽(現在の河南省鄭州市)を攻めていたが、秦の宰相だった李斯の長男で李由の防戦の前に苦戦していた。秦の援軍が迫る中、呉広の用兵の下手さに辟易していた部下達は、田臧が中心となって呉広を暗殺し、陳勝にその首を届けた。
陳勝はやむを得ず暗殺を正当化して、田臧を令尹(宰相)に任じた。しかし秦の援軍の将軍・章邯によって討ち取られた。陳勝は、張楚と言う国を立てて王を僭称していたが、章邯はその本拠地である陳に攻め込んで来た。章邯は蔡賜を討ち取り、張賀と交戦し陳勝が自ら援軍に来たが打ち破った。張賀は戦死し、陳勝は汝陰(現在の安徽省北部から河南省南部にまたがる地域に設置されていた郡)へ逃れたが道中、御者の荘賈に殺された。こうして陳勝と呉広の乱は、わずか半年で鎮圧された。
「何と…ワシは、陳勝らと連携して秦を滅ぼす算段じゃったのに…」
「叔父上、そう落胆する事もありますまい。陳勝呉広らは所詮は、たかが農民です。身分不相応で、勢いだけで勝てたのにも限界があり、章邯は秦の将軍である為、用兵の差が出たのです。しかし奴らの起こした火種は、我らが受け継げば良い」
甥の言葉を頼もしく、項梁は聞いていた。項羽は亡き兄の嫡男で、将来は項家を背負う身だ。その成長を楽しみにしていた。
薛(現在の山東省)に入ると、劉邦が兵を率いて傘下に加わり、楚軍は総兵力10万を超えた。
「叔父上様、これからどうなさるおつもりですか?」
虞子期が尋ねると、項羽に女子が口を挟むな、と睨まれた。この頃になると楚軍中では、虞子期と虞美人が同一人物である事は、事実として知られていた。
「そう言うな阿籍よ。お主の嫁御はよくやっているではないか」
「見事な用兵ぶりに、知将と言うに相応しい活躍ですな。先の県を抜いたのは、子期殿の活躍のお陰ですわぃ」
「軍師殿に褒められると、むず痒いですね」
「褒めないでくれ。また無茶をやり兼ねない」
「そう言う嫁御に惚れたんじゃろう?諦めぃ」
あははは、と皆んなで笑った。項梁軍はここまで無敗を誇り、遂に旧楚領を得た。
「軍師よ、これからどうするべきじゃ?」
「楚の人間は、かつての懐王を慕い、秦によって幽閉されたまま食事も与えられず、餓死させられた事を恨んでおりまする。その子孫を探し出して王に立てれば、反秦の勢いは陳勝呉広無くとも、衰える事は無いでしょう」
「流石は軍師じゃ。すぐに懐王の子孫を探し出せ!」
軍師・范増の献策を受けて、羊飼いをしていた懐王の孫である心を懐王に立てて、楚を復興させた。
楚の復興に伴い、続々と名だたる豪傑が参じて来た。後に反目する黥布と互角に渡り合うほどの豪傑の龍且も、この時に傘下に加わった。
盱台を首都とし、陳嬰を楚の上柱国に任じ、項梁は武信君と名乗った。
同年、斉国が秦に攻められ、楚に救援を求めて来た。楚は司馬の龍且を援軍に送った。秦は斉の東阿を攻めていたが、援軍の龍且が打ち破った。項梁は勝利の報告を聞き、斉と共に西に逃げた秦軍を追撃しようと提案したが、田栄が斉王田假を追放して田市を王にした。田假は楚に亡命したが、田栄は田假を殺さなければ出兵はしないと言って来たのだ。
「何と言う恩知らずだ。我が軍は救援してやったではないか!」
俺は頭に血が昇り、龍且に斉を攻めさせ、俺が一隊を率いて挟撃して斉を陥とす、と騒いだが軍師らに止められて反対された。
「項籍、劉邦、前へ」
「はっ!」
「お前達に印綬を授ける。それぞれ兵を率いて西進し、城陽を攻めよ!」
俺も項羽の副将の1人として、随行する事になった。
「何なんだ。恩知らずは犬も喰わぬと言うのに、楚軍だけで秦軍を追うのか?」
「ははは、気が短いな。斉の如き弱国など肉の壁にしかならんわ。我らだけで十分だろう?」
「何なの?大人ぶっちゃって。いつもなら、1番最初にキレてるのは、あなたじゃないの?」
「お前が代わりにキレてくれたから、良いのだ」
虞美人が、ぷりぷり怒っている様を見て、項羽は可愛いな、と思っていた。この頃になると、男性化している時間よりも、女性化している時間の方が長くなり、虞美人の姿で男装して虞子期だと称していた。
「さぁ、秦から我らが土地を取り戻す時ぞ!続け!」
「杀!(突撃!)」
「杀!(突っ込め!)」
「杀!(死ね!)」
「杀」は本来、「殺す!」と直訳すべき所だが、軍を率いた時の「突撃」としての意味で使われる事が多い為、ここでは突撃としている。
両軍「杀!」の怒号が入り乱れて敵陣に突っ込んだ。
「うるぁぁぁ!」
黥布が正面から向かって来た敵将校に1番槍を入れ、3合も渡り合わずに斬って捨てた。桓楚も負けじとそれに続いた。
俺は項羽の背に守られながら敵陣に突撃した。項羽の超人的な強さを目の当たりにして、惚れ惚れしながらも、俺だって桓楚や黥布に負けない戦功を立てる自信があるのに、項羽の背に守られていてはそれも出来ない、と不満に思った。
まさに破竹の勢いに乗った項梁軍は、連戦連勝を重ねた。
「報!(報告!)」
「何があった?」
「陳勝と呉広が亡くなりました」
「何ぃ!どう言う事じゃ?何があったのか説明しろ!」
項梁は、呉広の死から報告を受けた。呉広は滎陽(現在の河南省鄭州市)を攻めていたが、秦の宰相だった李斯の長男で李由の防戦の前に苦戦していた。秦の援軍が迫る中、呉広の用兵の下手さに辟易していた部下達は、田臧が中心となって呉広を暗殺し、陳勝にその首を届けた。
陳勝はやむを得ず暗殺を正当化して、田臧を令尹(宰相)に任じた。しかし秦の援軍の将軍・章邯によって討ち取られた。陳勝は、張楚と言う国を立てて王を僭称していたが、章邯はその本拠地である陳に攻め込んで来た。章邯は蔡賜を討ち取り、張賀と交戦し陳勝が自ら援軍に来たが打ち破った。張賀は戦死し、陳勝は汝陰(現在の安徽省北部から河南省南部にまたがる地域に設置されていた郡)へ逃れたが道中、御者の荘賈に殺された。こうして陳勝と呉広の乱は、わずか半年で鎮圧された。
「何と…ワシは、陳勝らと連携して秦を滅ぼす算段じゃったのに…」
「叔父上、そう落胆する事もありますまい。陳勝呉広らは所詮は、たかが農民です。身分不相応で、勢いだけで勝てたのにも限界があり、章邯は秦の将軍である為、用兵の差が出たのです。しかし奴らの起こした火種は、我らが受け継げば良い」
甥の言葉を頼もしく、項梁は聞いていた。項羽は亡き兄の嫡男で、将来は項家を背負う身だ。その成長を楽しみにしていた。
薛(現在の山東省)に入ると、劉邦が兵を率いて傘下に加わり、楚軍は総兵力10万を超えた。
「叔父上様、これからどうなさるおつもりですか?」
虞子期が尋ねると、項羽に女子が口を挟むな、と睨まれた。この頃になると楚軍中では、虞子期と虞美人が同一人物である事は、事実として知られていた。
「そう言うな阿籍よ。お主の嫁御はよくやっているではないか」
「見事な用兵ぶりに、知将と言うに相応しい活躍ですな。先の県を抜いたのは、子期殿の活躍のお陰ですわぃ」
「軍師殿に褒められると、むず痒いですね」
「褒めないでくれ。また無茶をやり兼ねない」
「そう言う嫁御に惚れたんじゃろう?諦めぃ」
あははは、と皆んなで笑った。項梁軍はここまで無敗を誇り、遂に旧楚領を得た。
「軍師よ、これからどうするべきじゃ?」
「楚の人間は、かつての懐王を慕い、秦によって幽閉されたまま食事も与えられず、餓死させられた事を恨んでおりまする。その子孫を探し出して王に立てれば、反秦の勢いは陳勝呉広無くとも、衰える事は無いでしょう」
「流石は軍師じゃ。すぐに懐王の子孫を探し出せ!」
軍師・范増の献策を受けて、羊飼いをしていた懐王の孫である心を懐王に立てて、楚を復興させた。
楚の復興に伴い、続々と名だたる豪傑が参じて来た。後に反目する黥布と互角に渡り合うほどの豪傑の龍且も、この時に傘下に加わった。
盱台を首都とし、陳嬰を楚の上柱国に任じ、項梁は武信君と名乗った。
同年、斉国が秦に攻められ、楚に救援を求めて来た。楚は司馬の龍且を援軍に送った。秦は斉の東阿を攻めていたが、援軍の龍且が打ち破った。項梁は勝利の報告を聞き、斉と共に西に逃げた秦軍を追撃しようと提案したが、田栄が斉王田假を追放して田市を王にした。田假は楚に亡命したが、田栄は田假を殺さなければ出兵はしないと言って来たのだ。
「何と言う恩知らずだ。我が軍は救援してやったではないか!」
俺は頭に血が昇り、龍且に斉を攻めさせ、俺が一隊を率いて挟撃して斉を陥とす、と騒いだが軍師らに止められて反対された。
「項籍、劉邦、前へ」
「はっ!」
「お前達に印綬を授ける。それぞれ兵を率いて西進し、城陽を攻めよ!」
俺も項羽の副将の1人として、随行する事になった。
「何なんだ。恩知らずは犬も喰わぬと言うのに、楚軍だけで秦軍を追うのか?」
「ははは、気が短いな。斉の如き弱国など肉の壁にしかならんわ。我らだけで十分だろう?」
「何なの?大人ぶっちゃって。いつもなら、1番最初にキレてるのは、あなたじゃないの?」
「お前が代わりにキレてくれたから、良いのだ」
虞美人が、ぷりぷり怒っている様を見て、項羽は可愛いな、と思っていた。この頃になると、男性化している時間よりも、女性化している時間の方が長くなり、虞美人の姿で男装して虞子期だと称していた。
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