その日、女の子になった私。

奈津輝としか

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【第8部〜龍戦争〜】

第37話 大魔王サタンの脅威③

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 夜半、滝川一益は正門より夜襲を掛けて来た。夜襲と言うよりは猛攻である。
「こんな見え見えの声東撃西の計にかかってたまるか」
 私はボヤいた。私は正門の守備に配属されたから、勝手に持ち場を離れられない。北門の主将である上杉謙信に許可を取って、私は両左右の門へ警戒する様に合図を送った。
 私はここでは客将の扱いだ。母側でもなく、成吉思チンギス側でも無い。だが私は母の娘なので、基本的には母側に属していると思われている。
 東門は関羽と韓世忠が、西門は蘭陵王と岳飛が守っている。中央は母と成吉思チンギスと韓信がおり、南門には源義経や楊太眼ヤン・タイイェン花木蘭ファ・ムーランらが守っている。正直言って敵も強敵だが、こちらも決して負けてはいない。
 想像した通り正門の攻撃から2時間後、東門に攻め入られた。旗印は沢瀉紋おもだかもんだから、羽柴秀吉に違いない。信長から五三の桐紋を授けられるまでは、この紋を旗印にしていたはずだ。
 羽柴軍には、関羽と韓世忠が連携を取って上手く対応している。例え相手が秀吉でも、ここを抜くのは容易では無い。
 それから1時間後、今度は西門へ桔梗紋の旗印、つまり明智光秀が攻めて来た。だからと言っても、兵を割く様な余裕は無い。正門にはこれまで以上に、苛烈な攻撃が加えられた。
 謙信の号令で煮えたぎった油を、梯子を登って来る織田の兵にかけると、叫び声を上げて暗闇の底へ落ちて行った。
 織田兵が梯子を登って来るからと言って、身を乗り出す事は出来ない。暗闇の中から的確に銃で射抜いて来る。私も迂闊に前に出て顔の右半分が吹き飛んだ。不死の私は、暫くして回復したけど、おそらく滝川一益に違いない。恐ろしい奴だ。この暗闇でさえ百発百中だ。
「ぶるるるっ」
 戦闘による極度の緊張感で、催して来た。周りは殆どが男の兵士だから、ポロンと出して城壁に向かってシャーとする。しかし私は女だから、そんな訳にはいかない。女性はどうしているのか聞いたら、そのまま垂れ流すそうだ。嘘でしょう?と悲鳴を上げたが、生命のやり取りをしているのだ。トイレに入っている所を襲われて殺されでもしたら、そんな惨めな死に方はしたく無いので、垂れ流すのだそうだ。何やら汚い話しになってしまったが、私はそれでも嫌なので、守備を離れてトイレに向かった。
 「チッ」と将校の舌打ちする音が聞こえた。わざと聞こえる様におこなった所が、性格が悪い。私の方が上官なのに、まだまだ男尊女卑が強いこの陣営では、女の立ち位置は低いみたいだ。
「えっと、トイレ、トイレ」
 焦っている時ほど見つからないものだ。見た事がある様な人影を見た。南門に向かっていたみたいだった。私は急いでいるので、気に留めずトイレに走った。
「ふぅ~。あと少し見つかるのが遅かったら、危なかったかも…」
 この間も皆んな殺し合いをしているかと思うと、申し訳なく感じた。
「そう言えばさっき遠目で見た人影は、斎藤一さんじゃなかったかな?信長の所に局長を含めた他の新撰組がいるから、変な気を起こさなければ良いんだけど…。気になるな」
 私はトイレから出ると南門へと走った。高速移動呪文を唱えた為、文字通り飛ぶ様に走った。
「わぁ!大丈夫ですかって、木蘭ムーランさん!?何があったんですか?」
 花木蘭ファ・ムーランは血塗れになって、地面を這っていた。
上級回復ハイヒール
「南門が…南門が危ない!守って!」
 木蘭ムーランは、上級回復ハイヒールでも回復し切れない程の傷を負っていた。私は緊急事態だと察知して、全力で走った。
 南門に近づくに連れて、鈍い金属音が聞こえて来た。誰かが斬り合っている音だ。まさか本当に斎藤一が裏切ったのか?と最悪の場合を想定した。すると信じたくは無い光景が繰り広げられていた。
「すわっ!」
「ぅらあっ!」
 斎藤一が斬りつけ、突き、薙ぎ払う、それを常人離れした身軽さで源義経は躱わしていた。
「どうして?どうしてなの!斎藤一!」
 まさか本当に裏切るなんて。
「アナト殿!助力をお願いする。斎藤は門を開いて、城外の新撰組と呼応するつもりだ!」
「何ですって、そんな事はさせない!」
 斎藤一の背後に回り込み、源義経と斎藤一を挟撃する形を取った。
「終わりだ、斎藤一!」
「チッ、誠義にあらず、だ!」
 斎藤一が吐き捨てる様に言った言葉に私は動揺した。
 源義経は驚異的な身体能力で間合いを詰め、斎藤一に斬りかかると、私は斎藤一を無視して義経に斬りかかった。
「何をしているんです?相手は斎藤ですよ?」
「違う…まだ信じられないけど、裏切り者はアナタだ。義経!」
「馬鹿な事を…何を言っているんです?そうか、貴女は斎藤と仲が良かった。でも貴女は惑わされているんです、そいつに。さぁ、手遅れになる前に!」
 私は斎藤一と並ぶと、義経を挟撃しようと回り込むが、そうはさせまいと背を向けない事に徹していた。
「斎藤一はね。誠義にあらず、と言ったのよ」
 源義経は、それがどうした?と言う表情をしていた。
「かつて新政府軍と戦っていた会津藩の敗色が濃厚となった時、土方歳三は会津に見切りを付けて転戦して戦い続ける事を選んだ。でも斎藤一は誠義にあらず、と言って会津に残って戦う事を選んだのよ。恩ある会津藩に忠義を尽くす事を選んだの。会津郊外の如来堂で、たった13人で300人の新政府軍と戦って戦死したと記録されたわ。実際には1人で、70人もの新政府軍を斬り殺して包囲網を突破したけど、瀕死の重症を負って姿を消したわ。再び現れた時には、藤田五郎と言う警官になっていたけど。何が言いたいかと言うとね?そんな斎藤一が、恩義を感じるこの陣営を裏切るはずが無いって事よ。彼は誠義にあらずって言ったのよ!」
 斎藤一は私の言葉に、少しだけ笑みを浮かべた。
「忌々しい。邪魔をするな!」
 義経は態度を豹変させ、私に斬りかかった。辛うじて剣帝の剣技で受け流した。
「待って!あなたは何故なの?どうして裏切るの?」
「ははは、裏切るだと?何を言っている。私は日の本の民であり、日の本の武将である。その私が、日の本の軍に力を貸して何が裏切りか?お前達も日の本の民であろう。何故、いつまでも大陸の軍勢になどに属するのだ?」
 そう言うと義経は、突然走り出した。
「しまった!」
 僅かな隙を突いて義経は南門を開いた。それと同時に織田軍が突入して来た。斎藤一は押し戻そうと、斬りかかった。
「久しいな、はじめ!」
「土方さん…」
「剣を置け、さもないと斬る事になる」
「貴方に出来ますか?土方さん」
 斎藤一も土方歳三も剣を構えて、微動だにしなくなった。私は、凄まじい殺気を感じて身構えた。写真で見た事がある。近藤勇だ。彼から発せられる剣気は、尋常では無い強さを感じさせた。何人もの人間を斬り殺した者の剣気だ。気圧けおされて、足がすくむ。それを見逃さず、気合いと共に間合いを詰められると目の前にいた。抜刀された剣が見えず、その剣を首に当てられると、冷や汗が出た。
「女は殺さん!だが向かって来るなら容赦はしない」
 私は腰が抜けて、その場にへたり込んだ。
 
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