その日、女の子になった私。

奈津輝としか

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【第8部〜龍戦争〜】

第39話 大魔王サタンの脅威⑤

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 木蘭ムーラン楊太眼ヤン・タイイェンの遺体を回収して城内に戻って来た。
「ごめんなさい…直ぐには、生き返らせられない」
「どうしてなの?」
 花木蘭ファ・ムーランは、怪訝けげんな表情でたずねた。
「もう魔力が底を尽きかけているの。彼を生き返らせたら魔力が尽きるわ。そうなると、他に助かりそうな大勢の兵士を救えなくなる」
 木蘭ムーランは推し黙った。言いたい事は分かる。木蘭ムーランは優しいので、次の言葉を言わないだけだ。将軍と兵士とでは生命の重さが違うと。しかも、楊太眼ヤン・タイイェンは、中国歴代武将の中では2番目に強いとされる。彼がいるだけで、どれほど頼もしく感じる事か。軍事的にだけでなく、精神的にもこの陣営にとって大切な人である事を。
 しかし、生命の重みは皆平等だ。彼1人を生き返らせる為に、大勢の人を失う事になる。今、目の前で苦しんでいる大勢の兵士を見捨てて、既に亡くなっている者を生き返らせる事なんて私には出来ない。
「生き返らせるのよ」
 母が私にキツい口調で言い付けた。
ヤン将軍が、どれほど必要とされているのか分かっているでしょう?彼1人の生命は、兵士1万人の生命に匹敵する。やらないなら、超強力催眠ヒュブノで貴女を操って無理矢理にでも行うわよ?」
 私は反論しようとしたが、隣にいた来夢が首を振って、従った方が良いと合図したので渋々従う事にした。
死者蘇生リアニメーション
 私は魔力が枯渇して、激しい立ちくらみと、吐き気を催して意識を失った。
 目が覚めると、心配そうな表情で覗き込む来夢の顔が見えた。魔力を全く感じない。魔力が無ければ、ただの人間とほとんど変わらない無力な私だ。この陣営には神格を得た元人間しかいない。神格を得ているから、人間などよりも遥かに強靭な肉体を持っているが、魔力は無い。それは織田信長側も同じだ。つまり、魔力吸収マジックドレインで魔力を補う事が出来ないのだ。
 魔法箱マジックボックスの中にも魔石は残っていないし、魔力が無いから魔法箱マジックボックスを唱えて出す事も出来なくなった。勿論、時間さえ経てば魔力は回復して行く。
 まだ信長自身が兵を率いて来てはいない。信長は自ら戦場に立つタイプだ。何を仕掛けて来る事か。
 他にも心配事がある。信長は所詮しょせん、大魔王サタンの手先の1つに過ぎない。私達は大魔王サタンに辿り着く為に信長と戦っているのだ。サタンも冥界の制圧を目的にしている、それならば何をする自分なら?信長をこちらに送っているのは、他に目を向けさせない為に違いない。となると、全力で戦う必要のある相手に注力したいはずだ。そう予測するなら、冥界の王ハーデスと戦うつもりか、既に戦闘中に違いない。ハーデスを倒せば、残る敵は冥界の支配者・閻魔王(閻魔大王)だけとなる。
「時間稼ぎが目的か…」
 信長の目的は、我々をこの城に釘付けにする事にあるのだろう。良策とは、敵の嫌がる事を行う所にある。
 私はルシフェルに、信長の居城を突かせる事にした。秀吉らが退いてくれれば、追撃してダメージを与えられるし、神魔軍と挟撃して殲滅する作戦も立てられる。
ポー(報告)!」
 早馬が駆けて報せた。織田軍が慌てて撤退していると。
「この機会チャンスを逃したら、2度は無い!」
 成吉思汗チンギス・ハーンの号令の下、韓信を軍師に据えて追撃した。壮麗な騎馬隊は、まるで餌に群がる蟻の様に、この地を埋め尽くした。
 成吉思チンギスが誇る飛射隊が織田軍の背後に追い付くと、怒涛の勢いで騎射を連射した。一兵卒ですら弓の腕は百発百中だ。無抵抗な背中に容赦なく矢を撃ち込み、射殺して行く。織田軍は悲痛な悲鳴を上げ、混乱し、阿鼻叫喚とはこの事であった。
「いたぞ!敵将首だ!」
 手柄を立てる為に成吉思チンギスの騎馬隊は、その将を追う。羽柴秀吉であった。秀吉を守る配下は、また1人、また1人と矢を射られて討たれて行く。馬が石に足を取られてバランスを崩すと、頭上を矢がすり抜けて行った。よろめいていなければ、直撃を受けて死んでいただろう。
シャア(死ね)!」
 成吉思汗チンギス・ハーンが馬を狙って射ると見事命中し、秀吉は投げ出されて転げ落ちた。
とどめ!」
 まさに矢を射ってとどめを刺す瞬間だった。成吉思チンギスの騎馬隊は目を疑った。風上から鉄砲水が瀧の様に襲い掛かったのだ。濁流の渦に飲み込まれて、騎馬隊のほとんどが押し流されて沈んだ。
 成吉思汗チンギス・ハーンが乗る名馬は、生命の危機を感じて本能的に秀吉が転がった高州に登った。
「信じられぬ…まさか、ここまで読んでいたと言うのか?」
「はい、見事に掛かってくれました。お陰様で、ようやく貴方様を討てまする」
 秀吉が起き上がり、身体の砂埃を払いながら言うと、銃声が鳴り響いた。秀吉は成吉思チンギス軍を誘き寄せる為に自ら殿しんがりとなり、ギリギリ追いつける絶妙なペースで逃げた。そしてあの場所まで引き寄せると、堰き止めていた上流の堰を切ったのだ。自らは安全地帯に転がって、成吉思汗チンギス・ハーンを油断させたのである。そして万が一、自分の元に辿り着いた時、伏せていた滝川一益が成吉思汗チンギス・ハーンを討ち取ると言う手筈であり、それは全て秀吉が描いた策通りに動いた。
「ははは、これで城主のいない城だけぞ!皆の者、早い者勝ちぞ!金銀財宝、美女も好きなだけ抱いて良い!全て自分の物にしろ!」
 秀吉は気前の良さでは戦国随一だ。金に目が眩んで秀吉に忠誠を誓っていた者もいるが、配下に1度も裏切られた事が無い戦国武将は、羽柴秀吉ただ1人である。
 欲に目が眩んだ織田軍の士気は、疲れを吹き飛ばして一気に跳ね上がり、守るべき君主のいない城へ蟻の如く群がったのである。
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