その日、女の子になった私。

奈津輝としか

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【第10部〜最終章〜】

第14話 彭城、奪還

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「う、…ん!?」
 不覚にも、酒に酔って眠ってしまっていた。身体状態異常無効は、三大欲求(食欲・性欲・睡眠欲)を無効に出来ない。
 気がつくと、私は柱にくくり付けられていた。まだ少し酔いの残っている頭で、ぼーっとしながら目線を上げると、ベッドの上で劉邦リゥ・バンまたがって、激しく腰を動かしながら喘いでる女性がいた。
「ああー、良い。良いわぁ」
 その女性は私の意識が戻ったのに気が付いて振り向くと、私の顔を見てニヤリと笑った。
 その凍り付く様な笑みは、生涯忘れられ無いトラウマとなった。彼女に底知れない恐怖を本能的に感じた。
(間違い無い…呂后リュ・ホゥだ)
 彼女は嫉妬深い上に執念深く、夫と関係した女は側室であっても容赦などしない事で有名だ。初めて彼女を見たが、全て理解した。何故、劉邦リゥ・バンが彼女の尻に敷かれていたのかを。
「桁が違う…」
 赤龍王である劉邦リゥ・バンよりも、遥かに禍々しく強いオーラを放っていた。
 私は劉邦リゥ・バンにも、まるで歯が立たなかった。呂后リュ・ホゥが相手なら、瞬殺されるだろう。
 呂后リュ・ホゥは、劉邦リゥ・バンが自分の膣内なかに精を放つと満足したのか離れて私の方に来た。
「見なさい。劉邦あのひとの子種よ」
 私の顔にまたがって、性器から精子が顔に垂れた。私は顔をそむけると、顎を掴んで睨んだ。
「美しい娘だわ。項王シィァン・ワンが貴女に夢中になる訳ね?でも劉邦あのひとをたぶらかしたら、タダじゃ置かないわよ?」
 感情が希薄した様な表情に、底冷えする恐怖を感じた。私は蛇に睨まれた蛙の様に、頷いて従う事しか出来なかった。私が虞美人ユー・メイレンで無ければ殺されていたに違いない。項羽シィァン・ユーの人質として、私にはまだ利用価値があるからだ。
 呂后リュ・ホゥが去ると、ようやく呼吸が出来た気がして大きく息を吸い込んだ。劉邦リゥ・バンは物も言わずに服を着ると、私の拘束を解いた。
「くそっ、お前とりたかったわい」
 そう言うと、部屋から出て行った。私は自分の性器に触れて確かめた。
「良かった…犯されてない…」
 何はともあれ結果的に、呂后リュ・ホゥのお陰で犯されずに済んだ。范薇ファンウェイも生きている。
「歴史が…歴史が変わったんだわ」
 立ち上がって目を閉じ、感慨にふけた。すると、城内が慌ただしくなって来た。耳を傾けて様子を伺うと、どうやら黥布チン・ブーが救援に来たみたいだった。
「本当に歴史が変わったわ。黥布チン・ブーは、病と称して救援に来ず、項羽シィァン・ユーと険悪になって劉邦リゥ・バンに寝返るのよね」
 これで黥布チン・ブーが味方のままでいる事によって、楚軍はそう簡単にはやられないだろう。
 私は1通の書簡で、歴史を変えた事に感動して涙を流していた。

 漢・諸侯連合軍は彭城を陥としたが、城門を閉じていなかった。何せ56万の大軍の上に、この彭城は楚国の首都なのだ。それを陥落させたと言う事は、天下は漢の物になった…と浮かれての大宴会だ。諸侯連合軍は此処にいるので、何処の誰が攻めて来ると言うんだ?と油断していた。
 そこへ黥布チン・ブー率いる九江軍が突入した。56万の軍勢相手に攻めて来る馬鹿はいないと、酔っ払った兵が相手だ。しかも深夜であった為に灯りも乏しく、敵の姿がはっきりと見えない。欲を出した諸侯の誰かが裏切ったか?と考えた。これで誰が敵で誰が味方か分からなくなり、同士討ちが始まった。
 黥布チン・ブーが単身で寝殿に乗り込み、漢兵を斬って血路を開いた。
虞姫ユー・ヂェン虞姫ユー・ヂェン!」
「ここよ!英大人イン・ダーレン(英殿)!」
虞姫ユー・ヂェン、ご無事で…遅くなり申し訳御座いません」
 黥布チン・ブーは、私を見つけるなり抱き締めた。文通作戦は、想像以上に効果を発揮したみたいだ。
 私が彼の事を好きだと思っていると誤解しており、スキンシップが激しく人前でもベタベタと触れて来た。
 この時代も、この先の時代の男達も聖人君子を気取って慎み深く、簡単には女性に指一本触れようとしないのだが、相思相愛だと思っている時は話しは別だ。
 漢軍を蹴散らして救い出してくれた事には感謝するが、こんな所を項羽シィァン・ユーにでも見られたら最悪だ。
 私は隠し扉を開いて、范薇ファンウェイの無事を確認した。
小姐シャオジェ(お嬢様)」
 2人とも抱き合って泣いた。
「良かった、本当に良かった…」
 前世では、ここで范薇ファンウェイは私を逃す為に身代わりとなり、漢兵達に犯されて自害してしまう。ただ生きていてくれただけで、これほど嬉しい事は無い。
 勝利の宴を開いて、イン将軍らのこうねぎらった。私は黥布チン・ブーの隣りでお酌をしてご機嫌を取り、黥布チン・ブーは私を自分の妻であるかの様に振る舞った。
 その様子を見て、范薇ファンウェイは眉をひそめたが、私は首を振って「今は耐えましょう」と目で話した。
 范薇ファンウェイは黙って頷くと、自ら黥布チン・ブーにお酌をした。私にお酌などさせられない、と言う無言のアピールは私には通じ、黥布チン・ブーは気にも留めていなかった。
 一瞬、黥布チン・ブーの侍衛と目が合い、侍衛には范薇ファンウェイの意図を察している様子だった。
 あと2日もすれば功労シィァン・ユーはやって来るだろう。それまで芝居を続ける事になる。

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