転生したら、どうやら水滸伝の世界に迷い込んだみたいです

奈津輝としか

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第1章

第27話 北と東と

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「はぁ、はぁ、はぁ…。これが、本物の戦争…」

 俺は完全に、いくさの空気に飲まれていた。周囲にただよう炎と血の臭いが鼻を突き、怒号が飛びい胸を突き刺す様な殺意を感じて、恐怖におびえていた。
 ゲームや映画では無い本物の戦争。目の前で繰り広げられる殺し合いに震えて、一歩も動けないでいた。

 この世界に来た頃は、止むを得ず数人ほど斬った。あの時の人の肉を斬った感触が、血の臭いが鮮明に戻り、殺人をしてしまった事を思い出して、恐怖で手足の震えが止まらなかった。

「でも…」

 太陽星と太陰星がちた。ここから先の話の流れは覚えている。梁山泊軍が怒涛の如く本陣へと突き進み、相克そうこくにさせまいと兀顔光ウーイェン・グゥァンが指揮して陣を変化させるが、凌振が24輛の雷車を引き大砲を撃ち込んで陣の変化を止め、遂に相克そうこくとなる。ここからは梁山泊の一方的なターンとなり、遼が誇る大将達が次々と討ち取られて行くのだ。

(ここまで来れば、もう自分が殺し合いに参加する必要も無いだろう)

 自分だけが安全圏にいて、申し訳ない気持ちだったが、かと言って人殺しが出来る訳でも無く、1人その場を離れた。

「水…」

 戦場にいて緊張ストレスがMAXで、口の中が渇いて仕方が無かった。水を飲んで、顔を洗って落ち着きたい。そう思い、水場を探した。

「何っ!?この嫌なオーラは…」

 凄まじい殺気にも似た圧力プレッシャーを感じて、その方向を向いた。一斉に数百羽もの鳥達が、羽ばたいて逃げ去った。

「来る…。何か…途轍とてつも無い、何かが…」

 剣のつかに手をかけ、薬丸自顕流の構えを取って敵の襲撃に備えた。冷や汗が止まらない。この世界に来て、これ程まで強大なオーラを感じた事は無い。

 ずっと、目をらしていたはずだった。いつからそこに居たのか?いつの間にかに、黒装束で深くフードをかぶった男が立っているのが遠目に見えた。全身の毛が逆立ち、鳥肌が立っている事に気付いた。まばたきをすると、手が届く位置にまで近付かれていた。

「誰なの?」

「へぇ、その姿…もしかして日本人?」

「そ、そうだけど…」

 貴方は?と聞き返そうとする前に、フードを被った男がわざとらしく大袈裟に大笑いをした。

「あははは。凄い、凄いよ。僕以外の転生者に初めて出会った。それも日本人だ」

 転生者?日本人?この世界、この時代のの人間なら日本を倭国と呼ぶ。つまり俺を倭人と呼ぶ彼らが、俺を日本人とは呼ばない。日本を知っているこの男も、おそらく転生者?とか言う者なのだろう。

「貴方も?」

「その腰にげているものは、飾りじゃないんだろう?」

「ちょっと、質問に答えなさいよ」

「ふふふ、僕に勝てたら教えてあげるよ」

 そう言うとフードの男は、ふところから車輪にナイフが6枚付いてる様な武器を取り出して構えた。

 俺は後ろに飛び退いて、間合いを取った。

“魔法耐性を取得されますか?”

「ひゃあ!!急に声かけられたから驚いたわ。随分と久しぶりね」

“ご無沙汰しておりますマスター

マスターって…。それより魔法って何?」

“彼はマスターと同じく転生者です。私とは別の相談者ガイドが付いています。マスターのジョブは『サムライ』ですが、彼は『暗殺者アサシン』です。闇魔法のスキルを持っていますので、気を付けて下さい”

「気を付けろって言われても、どうして良いのか分からない」

マスターのジョブはサムライです。剣のスキルを信じて倒すのです”

「信じて倒せって、それだけ?無茶苦茶だなおぃ。闇魔法耐性はどうなった?」

“攻撃が来ます!回避出来ません。受けて下さい!”

「無視かよ!?」

 本当にまばたきをする刹那、目の前に現れて見た事もない武器が車輪の様に回転し、わしたつもりが右肩から腕にかけて着物を引きかれた。

「ひゅ~う」

 かれた着物から白い肌が露出し、彼はイヤらしい目でジロジロと視姦して来た。

「ヤベェ、って来た」

「ふざけんな!」

 居合いで抜刀したが、ヒラリとわされた。

「くっ」

「なかなか素早いね?さすがサムライってところかな。僕も忍者とかが良かったんだけどね。どこで間違ったのか暗殺者アサシンになっちゃったよ」

 そう言えば俺の時は、通り魔に刺されて意識が遠退きながら、頭の中でガイドの声が響いてたな。宮本武蔵みたいな二刀流だったら、あの通り魔にも勝てたのにって思ったんだった。
 そりゃ宮本武蔵になりたいとか思えば、ジョブはサムライしかないよね。彼も忍者になりたかったのであれば、服部半蔵か風魔小太郎みたいになりたいと思い浮かべるべきだった。

「『神眼』発動!」

 即身仏ミイラとなっていた、東の大宗師から受け継いだスキルの1つだ。『天眼』のスキルの上位互換で、相手の攻撃を全て予測出来る上に、気配察知不可侵ステルス鑑定不可侵アンチステイタスの類いでも看破可能で防ぐ事が出来ない。
 しかし相手の攻撃を予測出来るからと言って、その動きをとらえられるとは限らない。動きを予測出来ると言う事は、ある意味少し先の未来が見えている様なものだ。
 未来が見えると言う事は、攻撃して来る先に刃を置いておくだけで、勝手に当たって斬れるはずである。しかしフードの男は当たる直前に肉眼で見て、そこからの回避行動でわして見せたのだ。
 スピードは暗殺者アサシンのジョブの方が遥か上であり、神眼が無ければとっくに殺されていたであろう。逆に言えば神眼のお陰で、かろうじて互角に戦えていた。

「へぇ、あれをしのぐ相手に初めて会ったよ。少しだけ…僕の本気を見せてあげるよ」

 そう言うとフードの男は、ぶつぶつと呪文を唱え始めた。

「闇より暗き漆黒の世界より来れり暗黒のいかずちよ、我は命ずる、闇の門を開き召喚せよ…」

「何だ?厨二病か、こいつ…」

“闇耐性スキルの獲得に成功しました”

「今かよ!」

“不要でしたか?”

「いや、ナイスだ」

 俺は刀のつかに手をかけて、居合いの構えを取った。

(長船兼光の刀に雷神を2度も斬り、「雷切」と呼ばれた刀がある。俺の刀も長船シリーズで、しかも最上大業物だ。「雷切」に出来て「元重」と「秀光」に出来ないはずがない)

 花娘子ファ・ニャンヅゥが言う雷切は、立花道雪が「千鳥」で雷を斬って左足が麻痺し、「千鳥」を「雷切丸」と改名した「雷切」の話では無く、長船兼光作の2度も雷神を斬ったと名高い「雷切」が上杉謙信に献上され、謙信がその切れ味を試す為に一両筒の火縄銃を真っ二つにし、「一両筒」と呼ばれた方の「雷切」の事を言っている。

 花娘子ファ・ニャンヅゥは目を閉じて集中し、ゆっくりと目を開けた。青白く光った目に、黄金の光がともる。

『神眼』『身体強化10倍』『自動回復オートリジェネ

「喰らえ!『暗黒之雷撃ダーク・エレクトロニック・サンダー!』」

 フードの男が手をこちらにかざすよりも速く、地面を蹴ってふところに飛び込んだ。

「ぐえっ!」

 初めて使った身体強化10倍は制御不能で、剣のつかを握ったまま勢い余って、フードの男の腹に頭突きをかましたのだ。雷の呪文は、その衝撃であらぬ方向に炸裂し、大木をいて燃え上がった。花娘子ファ・ニャンヅゥも頭突きの衝撃で脳震盪のうしんとうを起こし、気を失った。

「う、う~ん…」

 フードの男が先に目を覚ますと、顔に当たる柔らかい膨らみを感じて飛び起きた。それが花娘子ファ・ニャンヅゥの胸だと理解すると、周囲を見渡して誰も見ていない事を確認して、震える手で胸の膨らみを感じた。

「柔らかい…」

 俺はどのくらい、気を失っていたのか分からない。胸をまさぐられている感触を受けて、意識を取り戻した。

「う…頭…痛ぁ。胸、触った?」

「さ、触って無い!」

「嘘よ、だって起きてたもの」

「ご、ごめんなさい」

 意外にも素直に謝られたので面食らった。

「ねぇ?同じ日本人だし、仲良くしましょうよ」

「どうしてもって言うなら、仲良くしてやらん事も無い」

「ツンデレか!!」

 厨二病的な呪文と言い、中身はきっと子供かも知れないと思いたずねた。

「ねぇ、元いた世界だと何歳だったの?」

「僕?中学2年生の14歳だよ、です。お姉さんは?」

「私?私は…」

(厨二病だと思ったら、本当に中2だったとは。思春期真っ只中で、女性に興味がく時期だな。俺の中身が37歳のおっさんだと知ったら落胆するに違いない。ここは1つ、彼の夢を壊さないであげよう…)

「私は高校1年生の16歳だから、あなたよりも2つ歳上ね」

「でもこっちでは僕の方が歳上だよ」

(負けん気が強いな?何の勝負だよ、子供だな)

 そう思いながら、笑って誤魔化した。

「ふふふ、そうね。今は貴方の方が歳上ね」

 そう言うと、彼の機嫌は少し良くなった様に見えた。

「ねぇ?ずっと1人だったの?」

「仕方ないだろ。何言ってるか分からないんだから、会話のしようが無い。僕だってこっちの世界に来たばかりの頃は、右も左も分から無いし、お腹だってく。食料を買おうとしたけど、こっちのお金は無い。お金を得る方法を聞こうとしても言葉が分からない。だから木の実を採ったり魚を釣ったり、獣を狩って飢えをしのいだよ。食べ物を求めて山の奥へ奥へと進むうちに、どんどん人里から離れて行ったんだ。僕だって言葉さえ分かれば、山奥になんて住まないよ」

「…壮絶な話ね。私は、翻訳のスキルがあるから助かったけど、無かったとしたらゾッとするわね」

 彼はうらやましそうな顔をして俺を見た。

「ねぇ、もし良かったら私と一緒に来ない?今、梁山泊にいるのよ。水滸伝って知ってる?」

「水滸伝?名前だけは聞いた事があるけど、歴史にあまり興味が無くて知らない」

「そう?だったら私が教えてあげる。通訳もしてあげるわ」

「…どうしても来てくれって言うなら、行ってやらん事も無い」

 俺はもう彼のツンデレにハマって、笑いが止まらなかった。彼は強いし、今は遼国と戦争中だが、そろそろ決着がつく頃だ。
 梁山泊はこれから更に激戦が続く。田虎、王慶、方臘の乱の平定を命じられる。最後の方臘戦では、連戦の疲れがたたって108人の頭領達のうち、生き残るのはわずか36人だ。その後生き残った梁山泊の頭領達は、もはや用済みだとばかりに官職を与えられてバラバラにされた所を、1人ずつ狙い撃ちされて殺されていくのだ。
 





 
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