まだ見ぬ未来へ駆け抜けて!

小林汐希

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23章 特別な『恋愛授業』

第87話 順番は守るから!

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 夕方、お昼寝から醒めてみんなで遊んで満足の彩花ちゃんを含めた小島家の三人にバス停まで見送ってもらった。

「では、長谷川先生はそのまま転居の計画を進めてください。花菜ちゃんの方は私と珠実園で進めさせていただきます」

「お手数おかけします」

「バイバイ、おねえちゃんまた来てね」

 花菜はすっかり彩花ちゃんと仲良くなっていた。お絵かきを教えている姿は、やはり世の中に絵本を送り出せるだけの力量を持った作家でもあるのだと見直したものだ。

 手を振り返しながら「また遊びに来るね」と答えていて、花菜が子ども好きだということを改めて認識した。

「じゃあ花菜ちゃん、また明日ね」

 夕方なので駅までのバス車内は人も少なく、途中の停留所も通過しながら進んでいく。

「なんか、一気に静かになっちゃったな」

「うん、そうだね……」

 花菜も口数が少なくなって、どこか淋しそうに肯いている。

 この後で珠実園に帰れば一人の部屋が待っている。普段は自習だけでなく、落ち着いたり物事にふけるにはいい環境なのだろうけど。さっきまでの暖かい空気を経験してしまうと、やはり結花先生が不在になる時間帯というのは不安になるのかもしれない。

「結花先生が童話の白鳥だったら、私はなんになるのかな……」

「うーん、難しい問題だな。境遇としては『小公女』じゃないか?」

「そっかぁ……」

 そういったものが出てくるのが、文芸部の花菜というところか。小さい頃からよく色々な本を読んでいたのも思い出す。

 あのお話の主人公・セーラも家族を亡くして辛い思いをしながら、それでも自分の中の気高さを失わない。そして最後は彼女の味方と共に安心を取り戻す。

 彼女はまだその途中にいると思えばいい……。

「彩花ちゃん、可愛い子だったな」

 花菜の幼いころを思い出して、ポロっと出てしまった。

「お兄ちゃん?」

「いや、俺たちにも将来ああいう子が来てくれたらいいなと思ってな」

「お兄ちゃん……」

 顔を赤くして……。どういう意味で受け取ったのだろう。

 花菜も彩花ちゃんみたいな子どもが欲しい? それだとあまりにもストレートだから、結婚したいってことか? もっと短絡的に……したいってことなのか?

「バカ、ちゃんと順番は守る。そんなことで花菜を困らせたりはしないから」

 そう言ったものの、この花菜を隣において、なにも感じないかと聞かれれば大間違いだ。

「え? 違う違う。そんなんじゃないよ」

 慌てて返してくるけれど、逆に同じことを考えていたということもバレバレじゃないか。



 夏の旅行から続く時々のマッサージを重ねてきてというもの、理性を必死にガードしていないと堪えきれなくなってしまうことも一度や二度じゃない。

 俺はもう大人であるし、親世代の感覚からすれば結婚していたっておかしくない歳になってきている。

 隣に座る花菜だって、出会った頃の幼い姿ではもうない。少女から女性へと変わりつつある。高校生ともなれば体も成熟してきているから、ある意味一番危うい魅力を放っている年頃だ。

 男性と女性、社会性を考えなければ本当に身体を重ねて新しい命を生むこともできる。小柄な体格ではあるけれど、毎月生理現象はきちんと来ていると話しているから、体調の方に問題は抱えていないのだろう。

 でもまだ法的にも成人と認められていない今、そんなことをすれば自分はともかく、花菜の人生までめちゃくちゃにしてしまう。それだけはしちゃいけない。

 あの陽人さんは奥さまの結花さんの体調を理由に次のお子さんを作らないと決めている。お互いの愛情の深さは今日見聞きしただけでも十分に分かる。あれだけ若くて魅力的なパートナーを前にして欲情しないと言ったら嘘になるだろう。それでも、きちんと将来設計をしたうえで日々を過ごしているのだ。

 周囲からの協力も約束してくれている。花菜を守ると決めた以上、少なくともお互いに一人前と認められるまでは、勇み足は厳禁なんだから。

 俺は彼女の手をそっと握る。

「え……?」

「俺だって、花菜ちゃんの代わりはいないんだ。だから、一歩ずつ。失敗したくない」

「うん」

 そう、陽人さんも言っていた。お互いに特別な存在だと意思疎通ができているなら、焦りが一番禁物なのだと。
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