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26章 クリスマスイブの予約
第98話 いっぱい迷惑かけていない?
しおりを挟む乗船時間になってスタッフさんたちが順番に案内されていく。案内されていくデッキごとに待合室の場所が分けられていたんだね。
私たちもボーイさんに案内されてタラップを上がる。
船内はすっかりクリスマスデコレーションで飾られていて、つい見とれてしまうほど可愛かった。
「松本、こっちだよ」
「え?」
船内で引継がれた船員さんが案内してくれたのは、一番上のデッキにある部屋だった。
「すごい……」
他のお客さんがいない個室。
プライベートデッキもあって、窓からは横浜港の夜景が独り占めできるように見える。
「ここなら何を話しても大丈夫だろう?」
「そうですね」
コートを脱ぎ荷物を片づけてすぐに、ウエルカムドリンクから始まったコースディナー。
窓際で向かい合った席にグラスを運んできてくれる。
「あの……、私まだ二十歳前でお酒飲めませんよ?」
「大丈夫。さすがに飲ませるわけにいかない。ノンアルコールでとお願いしてある」
スパークリングワインのグラスをチンと鳴らした。
「今日はご招待ありがとうございました」
「他の連中には絶対に内緒だぞ?」
「もちろんです。学校で暴動が起きかねません」
「いつになく過激だな」
二人で顔を見合わせてクスっと笑った。
そう、昔と同じ。二人で遊んだとき、いつも私たちはこうして笑っていたのを思い出す。
「あの……」
「3年間も我慢をさせたこと。8か月、苦労をかけたことを謝りたくてな……」
「そんな! 私、あれがあったからここまで来られたんです。先生が謝る必要なんかありません」
中1の春先。泣くのを必死に堪えて見送ったあの日。「迎えに来てくれる」という言葉だけ。それだけを心の中に灯してきた。
メイン料理になっているお魚のムニエルを食べながら、先生は私がこれまでにしてきたことを聞いてくれた。
迎えに来てくれるのだから泣いちゃいけないと決めていたけれど、それでも涙もろい私は笑うことが出来なかったこと。
足を痛めたことで自信をなくしたこと。こんな私じゃお兄ちゃんに嫌われてしまうとずっと悩んでいたこと。
部活を変えて、そんな変化のジレンマに潰されかけて独り泣いてしまったこと。でも話すこともできない理由だったから、気味悪がられて千景ちゃん以外の人たちはみんな離れてしまったこと。
この春からお兄ちゃんが先生になってくれた。必死になって勉強も、泣かないようにも頑張ってきたけれど、なかなか結果が出なくて落ち込んでいたこと。
「あれで満足していないのか!? 試験ではいつも上位五人の中に入ってるじゃないか」
「体育実技の成績が悪いですからね。試験だけで成績は決まりませんから」
「どこまで完璧を目指していたんだよ……。頑張ってたんだな。最初は別人じゃないかと変わりばえに驚いたし、なぜだと勝手に理由を考えて不安にもなった。でも今なら全部理解できてる」
「私……、頑張れましたか……? 学校では迷惑ばっかりかけたと思います。それなのに……」
「松本はよくあの環境で耐えてくれたよ。俺が考えていた以上に……。迷惑をかけたのは俺の方だ」
デザートのシャーベットを終える頃には、クルーズは半分くらいの時間が過ぎていた。
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