まだ見ぬ未来へ駆け抜けて!

小林汐希

文字の大きさ
100 / 170
26章 クリスマスイブの予約

第99話 お願い…叶っていたんですよ

しおりを挟む


「外に出てみようか」

「はい」

 寒さは感じるけど、暖房で火照った体に海風はかえって気持ちがいいくらい。

 もう港の中ではなくて、東京湾に出てからの海岸沿いの明かりが並ぶ。それだけでもイルミネーションのように輝いて、いつもの生活とは別の世界にいるように感じる。

「いつも、春先になると思い出していた。あの子のところに帰らなくちゃと……。でも気持ちも確かめずに出ていったのは俺だ。嫌われていても当然だと思っていた」

「ううん……」

「それなのに、あの子……松本は待っていてくれた……。まさかと思うような再会だったけど、俺は……」

「先生? 私ね、もう願いがかなっちゃったんです。もう一度大好きな人に会って、その人のことをもう一度昔と同じように呼びたい。それはもう出来ちゃいました。だから、私は後悔しません。これから進む道がたとえどんなにでこぼこでも、いばらの道だったとしても、私は前を向いて歩いていけます」

「強いな……松本花菜は……」

「いいえ……。長谷川啓太さんがいてくれるから……。私は無茶苦茶な道でも歩けるんです……」

「まったく……。先に言われちゃったな」

「えっ?」

「松本……、手を出してくれないか? 違う、左手だ」

 私に手を出させておいて、先生は片手をポケットの中に入れる。

「目をつぶってくれないか?」

「はい」

 目を閉じた私の左手、薬指にそっと何かがはまった。

「もう開けていいぞ」

 ホワイトゴールドの細いリングの上に透明な石がひとつ取り付けてある。

 まさか4月の誕生石でもあるダイヤモンド? いや、これは無色のクオーツ・クリスタルだ。私の誕生日石だ……。

「あの……、これ……」




 そういうこと……って理解していいんだよね? サイズもぴったり。私のためにこれを作ってくれたってことなんだよ……ね?

「花菜ちゃん、フライングのセリフだけど、時期が来たら結婚しよう。こんなやり方して卑怯かもしれない。ただ、今のうちに伝えておかないと、次こそ手が届かないところに行ってしまいそうで……」

「……ううん……。今のうちでいい。未熟者ですけど、お願いします……。どうか、もう……一人にしないでよ……」

「分かってる。もう絶対に離さない」

 涙で視界がぼやけている。

 でも、今はお願い……。この腕をつかんでいたい。

 ベイブリッジのイルミネーションの真下を通るとき、私は上を向いたまま目をつぶった。

 唇を柔らかく塞がれて、涙が目尻からこぼれ落ちる。でもその涙は今まで感じたことがないほど温かかった。

「言っちゃったな。ショックだったか?」

「いいえ。将来まるごと予約されちゃいました。取り消しは無しですよ?」

「本物のダイヤモンドはまた今度な。まだちょっと早いと思って……」

「ううん、これで十分すぎるよ」

「学校には付けてくるなよ?」

「そんな事したら、私のほうが自滅します。これまで学校では誰からもプレゼントを貰ったことがないのですから。誕生日も春休み中でそんな話題にもなりません」

「それもそうだな」

 少し着ぐずれてしまったコートを直してくれて、先生は私の唇をもう一度そっと温めてから笑ってくれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

紙の上の空

中谷ととこ
ライト文芸
小学六年生の夏、父が突然、兄を連れてきた。 容姿に恵まれて才色兼備、誰もが憧れてしまう女性でありながら、裏表のない竹を割ったような性格の八重嶋碧(31)は、幼い頃からどこにいても注目され、男女問わず人気がある。 欲しいものは何でも手に入りそうな彼女だが、本当に欲しいものは自分のものにはならない。欲しいすら言えない。長い長い片想いは成就する見込みはなく半分腐りかけているのだが、なかなか捨てることができずにいた。 血の繋がりはない、兄の八重嶋公亮(33)は、未婚だがとっくに独立し家を出ている。 公亮の親友で、碧とは幼い頃からの顔見知りでもある、斎木丈太郎(33)は、碧の会社の近くのフレンチ店で料理人をしている。お互いに好き勝手言える気心の知れた仲だが、こちらはこちらで本心は隠したまま碧の動向を見守っていた。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

サクラブストーリー

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の速水大輝には、桜井文香という同い年の幼馴染の女の子がいる。美人でクールなので、高校では人気のある生徒だ。幼稚園のときからよく遊んだり、お互いの家に泊まったりする仲。大輝は小学生のときからずっと文香に好意を抱いている。  しかし、中学2年生のときに友人からかわれた際に放った言葉で文香を傷つけ、彼女とは疎遠になってしまう。高校生になった今、挨拶したり、軽く話したりするようになったが、かつてのような関係には戻れていなかった。  桜も咲く1年生の修了式の日、大輝は文香が親の転勤を理由に、翌日に自分の家に引っ越してくることを知る。そのことに驚く大輝だが、同居をきっかけに文香と仲直りし、恋人として付き合えるように頑張ろうと決意する。大好物を作ってくれたり、バイトから帰るとおかえりと言ってくれたりと、同居生活を送る中で文香との距離を少しずつ縮めていく。甘くて温かな春の同居&学園青春ラブストーリー。  ※特別編8-お泊まり女子会編-が完結しました!(2025.6.17)  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

となりのソータロー

daisysacky
ライト文芸
ある日、転校生が宗太郎のクラスにやって来る。 彼は、子供の頃に遊びに行っていた、お化け屋敷で見かけた… という噂を聞く。 そこは、ある事件のあった廃屋だった~

君の左目

便葉
ライト文芸
それは、きっと、運命の歯車が狂っただけ。 純粋な子供の頃から惹かれ合っていた二人は、残酷な運命の波にのまれて、離れ離れになってしまう。 それもまた運命の悪戯… 二十五歳の春、 平凡な日々を一生懸命過ごしている私の目の前に、彼は現れた。 私の勤める区役所の大きな古時計の前で、彼は私を見つけた…

処理中です...