122 / 170
31章 新婚夫婦の初デート?
第121話 初めての夫婦写真
しおりを挟む船を降りて、彼女が当初から希望していたテディベアのミュージアムに連れて行く。
「可愛いです……。おとぎ話の世界に入ったみたいで」
「松本さんは、もともとこういう世界が好きなんですか?」
文芸部の数少ない創作チームでもある彼女。こういう感性があの柔らかい文章を生み出しているのか。
「はい、子どもっぽいと笑われても仕方ないですけど、赤ずきんちゃんとか、今日みたいに不思議の国のアリスとか、オズの魔法使いのドロシーとか。なんだか普段をみんな忘れて童心に帰れるというか……」
そうか、作品以外でも別の意味があるとすれば理解できる。本を読んでいた幼い彼女。嫌なことを忘れて物語の主人公になれるのなら、あの当時の光景にも納得がいく。
「小さい頃、あまり多くは買ってもらえなかったものですから、生まれたときにお祝いで頂いたうさぎさんのぬいぐるみがずっと私のお友だちでした。今でも持っているんですよ」
「凄いですね。大切にされているんですね」
昨年の夏、あのアパートに久しぶりに訪れた時も、机の上にはいくつかのぬいぐるみが乗っていた気がする。そんなに大切にされていたのものだったのか。
笑顔が止まらない花菜に、いろいろなベアと一緒にたくさん写真を撮ってあげた。
「先生?」
ふと気づいたように、花菜が俺を見上げた。
「どうかしました?」
「一緒に……、写真撮ってもらいませんか? 私のスマホでなら卒業アルバムになって残ることもありません」
「なるほど」
二人で瞬時に周りを見回す。こんなときは制服でないことが逆に選別を難しくしてしまうが、少なくとも同じクラスや、俺の受け持ちの生徒の顔は見当たらない。
珠実園などへのお土産は買っているのに、自分用は何も手に入れていない……。
「初めての夫婦写真です」
全くそのとおりだ。花菜からスマホを受け取りスタッフの人にお願いすると、快く引き受けてくれた。
「お二人とも笑顔で!」
「いつものあの顔してみろ」
「え、ここでですか?」
そんな会話が瞬時に行われて、シャッター音が何回か聞こえた。
「お二人とも、これで大丈夫ですか?」
「はい、ありがとうございました!」
画像を見て満足そうに答えた花菜。スマホを受け渡した時に何か言葉をかけられていたけれど、恐らくスタッフさんもあの顔になった花菜の表情変化には驚いたのだろう。
「先に進めていいですか?」
「はい」
他にも同じようにお願いをしているゲストが多いから長居は無用だと、再び車椅子のハンドルに力を入れて屋外に出た。
「ありがとうございます。あんな危ない行動をしてしまって」
いつも冷静かつ客観的に計算する彼女の頭の中では、最初から危険な賭けだと理解できていたはずだ。そのリスクを天秤に掛けても欲しかったショットということなのだから。
「夫婦が一緒に写真を撮って何が悪い? 花菜だけのお土産だろ?」
彼女にしか聞こえないように小声で返すと、潤んだ瞳で見上げてうなずいてくれた。
「少し早いですがお昼にしましょうか」
混雑時間に当たってしまうと、車椅子の彼女は好きな席を選べなかったり、待たされてしまう可能性もある。
「あの……、一つだけお願いがあります。このお店に連れて行ってもらえませんか?」
園内マップを指差す松本。
「ここから少し離れていますよ? そのあと他に行きたいところはないですか?」
確認のために聞く。
「もともとこの足です。今日は何とかしてここに行ければいいとだけ思っていました」
「そうですか。僕もご一緒してもいいですか?」
「はい。もちろんです」
彼女にはそれ以上の希望を持っていなさそうだから、望みを叶えることにした。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』
本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」
かつて、私は信じていた。
優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な──
そんな普通のお兄ちゃんを。
でも──
中学卒業の春、
帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、
私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった!
家では「戦利品だー!」と絶叫し、
年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、
さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!?
……ちがう。
こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない!
たとえ、世界中がオタクを称えたって、
私は、絶対に──
お兄ちゃんを“元に戻して”みせる!
これは、
ブラコン妹と
中二病オタク姫が、
一人の「兄」をめぐって
全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──!
そしていつしか、
誰も予想できなかった
本当の「大好き」のカタチを探す、
壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
となりのソータロー
daisysacky
ライト文芸
ある日、転校生が宗太郎のクラスにやって来る。
彼は、子供の頃に遊びに行っていた、お化け屋敷で見かけた…
という噂を聞く。
そこは、ある事件のあった廃屋だった~
紙の上の空
中谷ととこ
ライト文芸
小学六年生の夏、父が突然、兄を連れてきた。
容姿に恵まれて才色兼備、誰もが憧れてしまう女性でありながら、裏表のない竹を割ったような性格の八重嶋碧(31)は、幼い頃からどこにいても注目され、男女問わず人気がある。
欲しいものは何でも手に入りそうな彼女だが、本当に欲しいものは自分のものにはならない。欲しいすら言えない。長い長い片想いは成就する見込みはなく半分腐りかけているのだが、なかなか捨てることができずにいた。
血の繋がりはない、兄の八重嶋公亮(33)は、未婚だがとっくに独立し家を出ている。
公亮の親友で、碧とは幼い頃からの顔見知りでもある、斎木丈太郎(33)は、碧の会社の近くのフレンチ店で料理人をしている。お互いに好き勝手言える気心の知れた仲だが、こちらはこちらで本心は隠したまま碧の動向を見守っていた。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる