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34章 星屑のリフレイン
第137話 臨時の四者面談
しおりを挟む「なぁ結花……」
花火の音が遠くで響く中、沈黙を破ったのは陽人先生だった。
「はい?」
「これから少しの間だけ、『原田』って呼んでもいいか? 花菜ちゃんと啓太くんにも参考になるか分からないけど、ここは四者面談にしよう」
「小島先生……。いいですよ。お願いします」
原田というのは結花さんの旧姓だからね。
今の私たちと同じように、教室の中では当時の先生は生徒の結花さんを原田さんと呼んでいたはず。
でもね、私もそうなんだけど、なにげない呼びかけにも特別な気持ちが入っていることに気付いてしまう時がある。
「俺は昔、この浜で原田を泣かせてしまった。突然原田を一人残してニューヨークに行くなんて発言して。原田が『大嫌い』と叫んで走っていってしまってから本当に後悔したよ。もっと先に言っておくことがあったって。必ず小島結花にするために迎えに来るからと、先に伝えておくべきだったんだ」
「いいえ……、あれは完全に私の早とちりが悪いんです。先生に責任はありません」
結花さんと陽人先生の交際を周囲が公認にしたのは、形はともかくお二人が学校を去って、表向きは禁断の関係を断ち切っていたことも大きい。
「それを聞いたら、私も先生にたくさん謝らなくちゃなりません。私は先生の人生に何度も介入したし狂わせました……。生徒と教師という掟を破って悩ませたこと。高校教師という職を辞めさせてしまったこと。私がこの浜で『大嫌い』と叫んでしまって傷つけたこと……。あれだけ妊娠を喜んでもらったのに、元気に産んであげられなくて空に帰した赤ちゃん……栞のこと……。いつも泣いてばかりでした。それなのに、先生は必ず私のそばにいてくれました……」
「あまりまえじゃないか。俺は原田を手放すわけにはいかなかったんだ。楓を永遠に失ってから足を踏み出せなかった俺を救ってくれた子を絶対に放すわけにはいかなかった」
陽人先生は大学生時代に、将来を約束までした同級生の恋人を病気で空に見送っていると。その暗闇から自然な形で引き上げてくれたのが原田結花という一人の生徒だったこと。
「でも、悩んだでしょう? 私みたいに年下で、しかも病気の再発リスクがある。それにもともとが先生と生徒だったのだから何を言われるかわからないのに。私は花菜ちゃんと啓太先生の決断に本当に驚いた。それに比べたら、私は逃げてばかりだった……」
そんなことはない。
「私たちは、どちらかと言えばそのあとのお二人の行動力を見習いたいくらいです」
さっきの事件は伏せられたとして、3年生の1学期途中で療養を理由に、誰のことを責めることなく自主退学をした結花さんを追うように陽人先生も高校教師という職を辞めて、同じ学校の「教師と生徒」という足かせも全部取り払うなんて、なかなか出来ることじゃない。
そして『ユーフォリア』で社会復帰のリハビリでアルバイトをしていた結花さんを見つけ出して告白をした。
「もし、あの3月25日の夜に夕飯をここで食べようと思わなかったら、俺は原田のことも永遠に失っていただろう。修正するとしたら、その半年後の今日、この場所からだな」
それこそ、運命の赤い糸は本当に細かったけれど切れていなかったとしか表現できないよ。
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