まだ見ぬ未来へ駆け抜けて!

小林汐希

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36章 前代未聞の大勝負

第147話 任されたのなら、やるだけ!

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 そのあとに先生は1年生から3年生の『5組』のリレーメンバーにもう一度招集をかけて、内田くんから順番替えしたメンバーと作戦内容が言い渡された。

 3年生を先に投入して貯金リードを稼ぐ。1年と2年は中盤でそれを守る。最後の二人が千景ちゃんと私。

 追い上げで千景ちゃんは詰められるかもしれないけれど、上位で私に繋げば勝機はあると先生までが言い切った。

「松本さん、カーブで団子になった場合は焦らずに抜かれても構いません。直線なら松本さんの足で挽回できます」


 やはりメンバー交代でアンカーの名前に「松本花菜」の名前が入ったメンバー表が掲示されたときには、あちこちからどよめきが起きた。

 仕方ないよ。ロングヘアで見た目から文芸部の部長を、それも抜かれる前提での第1走者に据えるならともかく、最後の勝負所に持ってくるなんて体育祭の歴史の中ではきっと前代未聞だよね。

 「5組は勝負を放棄した」との声もあったくらいで、それが逆に先生の闘志に火をつけたみたい。

「皆さんが知らないだけです。松本さんの本来の実力は3組の男子よりも瞬発力・スピード共に引けを取りません。ただ昔の怪我でカーブが少し苦手です。ですから、最後のコーナーを抜けての200からでも一気に勝負できます」

 先生、そこまで言っちゃう? 先生に断言させた以上、やるしかないよね……。でもそれってすごく責任重大なんだけど……。

 リレー前の組別得点、トップとは15点のビハインドだったはず。確か順位ごとの加点を計算すると追いつける、いや優勝できる。そんな大一番に私を使うなんて……。本当にいいの?

「大丈夫です。もしこれで負けたら僕が指名責任を取って頭を丸めますよ」

 大切な旦那さまにそんなことはさせない! それは私にとって譲れない一線だ。なら1着で飛び込むしかない。私の中にあった最後のブレーキが音を立てて外れた。

「花菜、本当に大丈夫?」

 臨時のバトンパスの練習をしていた私と千景ちゃん。

「うん、ここまで来たらやるしかないよねぇ」

「終わったらすぐにアイシングしてあげるから、救護テントまで来て」

「うん。ありがと」

 普段よりも固く、大人の男性の力できっちり結ばれた靴ひもに手をやる。

 私を一番近くで見てくれている人たちが大丈夫と言ってくれた。あとはその見立てどおりに私の身体が耐えられるかは、やってみなくちゃ分からない。

 間違いなく最初から容赦なしの全開を求められる。

 でも、期待に応えたい。

 お願い、私の足。この時間だけで構わないから、最後まで頑張らせて……。

 こう祈るしかなかった。

「橘さん、松本さん。僕はゴールで待ってます」

 私たち二人だから、様子を見に来た先生にも遠慮なしだ。

「はい……」

「花菜、1番で行くんだよ」

「それしかないよね……。分かりました。約束します!」

「では、これを渡します。いつもの場所でいいか? それとも重くなるから不要か?」

 先生が巻いていた5組の水色のハチマキを外して、私の後ろ髪の先を手にした。途中で外れないように何カ所かに編み込んでギュッとリボンの形に結んでくれる。

 そう、これが小学校時代の私たちしか知らない毎年のお守りだったんだよ。当時と同じように目元の形が変わったのが自分でも分かる。

「先生……。外さないでください。このまま行きます」

「先生、こんな花菜の顔見たことないです。本当にあの花菜なんですか?」

「小学校のリレー前はいつもこんな感じでしたよ。最下位からひっくり返したことだって何度もあります。じゃっ! 二人とも頑張ってください」

 呼び出しの放送があって、先生は行ってしまった。



「アンカーが松本なら軽いだろ」

「どんだけ差がついてもアンカー勝負だよな」

「最後が松本だから遅れても慌てるな」

 そんな声が周りから聞こえてくる。

「花菜……」

「大丈夫。私より千景ちゃんと勝負するように順番を変えた組もあるからね。千景ちゃんに失礼すぎる。堂々と私と勝負しなさい。間違ってたって思い知らせてやらなきゃ」

「か……、花菜!?」

 好きに言わせておけばいい。最初は驚きもしたけど、だんだん昔の感覚も戻ってきた。

 高校生活も残り5ヶ月だもん。正直ここまで色々ありすぎた。

 先生が言ってくれたとおり、私に失うものなんて……もうなにもない!
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