あなたのやり方で抱きしめて!

小林汐希

文字の大きさ
2 / 98
1章 高校を中退した私…

2話 卒業できなかった私…

しおりを挟む



 そう言えば私の自己紹介をしていなかったよね。

 原田はらだ結花ゆか、18歳。本当なら今年の春に高校を卒業……するはずだった……。

 3月25日生まれの私だから教室の中で歳を取るのはいつも最後。そんな16歳も後半になった高校2年の冬、私は入院を余儀なくされた。

 いつも通うクリニックの先生から突然紹介状を渡されて、言われるがまま病院で受けた精密検査で片方の卵巣に初期の病巣が見つかり、摘出手術も受けた。

 怪我をしたわけではないし、自己症状も全然なかった。

 風邪を引いたと思って、いつもどおりの診察を受けたとき、市民病院へと言われて紹介状を持たされたことに面食らってしまったほど。

 まさかと思ったけれど、でも当たっていた。その病名を聞けば、私だけじゃなく周囲も動揺すると思う。

 執刀を担当してくれた市民病院の先生からも、「こんなにごく初期でよく見つけてもらえた」と驚いていたほどだったよ。

 退院後は定期的に検査をすることと、しばらくの間はホルモンバランスの関係で体調管理を最優先にしましょうと最初に言われて、十分に気を付けてはいたのだけれど。



 そう思っていても、予想以上に私の身体は疲弊していたみたい。なかなか体力が戻らず、検査結果も好転しなくて、入院が予定より長引いた。

 最初の頃はクラスの子たちもお見舞いに来てくれた。

 病名と治療期間の見通しが立たないこともあって、長かった髪も思い切って手術前にショートカットまでバッサリ切った。どうせ投薬治療が始まれば抜けてしまうのだからと……。

 ベッドで点滴投薬を受けながら、そんな姿を変えた私を見て、みんな表面上では元気づけてくれたけれど、内心はどうだったのだろう……。


 約2ヶ月の入院が過ぎて、一度は試験登校もした。でも、その間に私を取り巻く環境は大きく変わってしまった。

 ただでさえ噂から話が広まりやすい年頃。そして、「来年は自分たち」という大学受験のことを周りから事あることに言われる中で、必然的に発生するプレッシャーから逃げるための話題も欲しかったのだと思う。

 そんな時期に病院のベッドで安静にしていなければならない私こそ、本当に自分でも歯がゆかったし、どうすればいいのか分からなくなっていたっけ。



 でも周囲からすれば、病名からイメージするような大きい手術跡もない私は休んでいるようにしか見えなかったのだろうね。

 彼らのフラストレーションは私というはけ口に向けられたようだった。

「原田結花と一緒にいると病気が伝染すうつる」

 そんな話がどこからか伝わりだした。

 医学的にも普段の生活くらいでは絶対にそんなことはないのだけれどね……。現実を一時忘れられるようなゴシップのネタにもなる話題はあっという間に学年中、いや校内中に広まっていた。

 高校2年から3年にかけて、クラス替えもあったけれど、すでにその話題は反論しようがないくらいに広まっていて、クラスが変わっても私を見る目は学校のどこに行っても変わらなかった。


 4月。新学期の教室で、通学許可がようやく降りて復学した私はだった。

 それだけじゃない。あからさまに何か汚いものを見ている。早くどこかへ消えることを望む無言の視線を常に感じていたよ。

 そんな精神状態では、元気を取り戻すことに望みは持てなかった。受験だって……、とても乗り越えられると思えなくなっていたんだ……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...