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6章 誰よりも強い生徒は…

19話 この若さでそんな病に!?

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「入院ですか?」

「はい。先日検査をして、病気が見つかりまして、まだ初期なのですが、放置すれば命に関わってしまうかもしれないとのことでした」

「命にですか……?」

 応接室の中は重苦しい空気で満たされていた。




 12月に入って、期末試験も終わった金曜日の昼休みのことだった。

 原田がホームルームを終えて職員室に戻ろうとした俺を呼び止めて、放課後に母親が話があるというので時間をもらえるかと問いかけてきた。

「分かった。空けておく。職員室にいるから、お母様が見えられたら呼んでくれ」

 そう答えたとき、そういえばこの数日間の彼女の様子が気になった。

 先日風邪だと二日ほど休んで以来、どことなく元気がなかったような気がする。



 授業時間も終わり、30分ほどしたときに原田が約束どおりに俺を呼びに来た。

「お忙しいところ申し訳ありません」

 彼女の母親と会うのは二度目だ。夏休み中に全員の三者面談を行ったとき以来となる。

「ではこちらへ。原田も一緒に入るんだろう?」

「いいですか?」

「もちろんだ。臨時の三者面談という形で行こうか」

「はい」

 予約しておいた応接室に三人で入る。

 そこで出た話題というのは、原田が入院してしばらく学校を休まなければならないということだった。

「命に関わってしまうと……」

「はい……」

「右の卵巣に腫瘍が……見つかったんです。転移して広がる前に切り取らなくちゃならないんです」

 それまで説明をしていた母親に代わり、彼女がすすり上げながらも自分で俺に告げた。

 腫瘍と転移……つまり原田は女性なのだから卵巣がんだ。もちろん放置すれば文字通り大変なことになる。

 彼女はこの瞬間も自分の体の中で病魔と命がけで闘っているのだ。それでは元気が無くて当たり前だ。

 そんなことにも気づけなかったのか俺は……。

「分かりました。いいか原田。ひとつだけ約束してくれないか?」

「はい?」

 俺を見上げた目は真っ赤に充血していた。

「どれだけ時間がかかってもいい。必ず教室に戻ってきてくれよ。何事もなかったようにだ。俺はその日を待っている」

「はい、頑張ります……」

 聞けば、病名と手術を受けることは自分で告げると譲らなかったらしい。高校2年生とはいえまだ16歳だ。この若さでそんな目に遭うとは……。

 しかし一方でクラスの連中にはしかるべきタイミングが来るまで病名は伏せておこうと思った。

「でも、しばらく勉強は遅れてしまいます……」

 入院スケジュールを聞いて頭の中でざっと考え、なんとかなると確信した。

「大丈夫だ。2学期の期末はこの前終わっている。3学期の学年末までに復帰が出来るだろうし。冬休みと春休みの補習は自分がやる。原田は安心して病気を治してこい」

「はい」

 特に塾には通っていないながらも成績はクラス上位にいる。春休み以降も遅れた授業に補習をしてやれば彼女なら取り戻せるだろう。3年の頭までに戻って来られれば受験にも十分間に合う。

 それにもう義務教育の枠ではない。原田家の意向と彼女の意思次第ではあるが、敢えて留年を選択してもう一年やり直すことも可能だ。


 この時の何気ないやり取りが、その後の彼女の気持ちに大きく影響していたのだと俺が知るのは、もっと後の事だった。
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