49 / 98
16章 二人きりの卒業旅行
49話 「卒業旅行」に行こう!
しおりを挟むあの水族館の約束から1ヶ月後、先生と私は沖縄への飛行機に乗ることになった。
「よくお休み取れましたね。それにお部屋も。高かったんだと思いますけど」
「金額は大したことじゃない。それに、今年は偶然だ。おかげで有給休暇を使う必要がなかったからな」
笑っている先生。でも、独身一人旅ってコースではないし、私には最後まで旅行代を言わなかった。
「ちぃちゃんに聞いたんですけど、卒業旅行は任意ですから、そのときに集金があったはずですよ。さすがに無料ってことはなかったと思います」
「まったく佐伯の奴は……。結花の気持ちはありがたい。その気持ちはありがたいんだが……、今回だけそこは目をつぶっていてくれないか?」
「分かりました。現地でのお食事代とかは私にもちゃんと教えて下さいね」
「分かった。それは頼むこともあるだろう」
早朝の羽田空港でこんなやり取りをしている恋人同士なんてそうそういるものじゃないよね。
私にとって人生が変わったあのデートから1週間。
いつもどおりのお夕食でお店に来てくれた先生は、私に薄い冊子を渡してくれた。
「原田、この日程空けておけよ?」
「はい? もう出来ちゃったんですか?」
手にした冊子には、『卒業旅行のしおり』とタイトル打ちがしてある。
「あの年の表紙原稿だそうだ。中身は全然違うがな」
本当に中身が違うどころじゃなかった。もともと卒業旅行は修学旅行と違って、思い出づくりのレクリエーションの色が濃いから、どうしてもテーマパークや観光地になってしまいがちだけど。
「こんなにスケジュールいっぱいで大変ですよ?」
「よく見て見ろ。時間が書いてないだろ。飛行機以外。それに、予定は未定だ」
見た目はもっともらしくびっしり書いてあるけれど、中身のタイムスケジュールを見ると、先生の言ったとおり、飛行機の時間以外は空白になっている。
つまり、あの修学旅行のコースを時間制限なく好きにチョイスしていいという意味だって。
「もぉ、焦りましたよぉ」
「なぁに? 二人で楽しそうに話しちゃって」
菜都実さんがビールのおかわりを持ってきてくれた。
「菜都実さん、7月の海の日から3日間、原田を借ります。『諸々の事情』で卒業旅行に連れて行けなかったんで」
「そっかぁ。行っておいで。あたしたちもいろいろやったなぁ」
『諸々の事情』ってのに菜都実さんは大笑いして、「もちろん、お店の事なんか気にせずに楽しんでおいで」と即答だった。
7月21日から2泊3日で、私がもう一度行きたいと言った沖縄への旅行。
その話を仕事が終わって両親に話してみると、当然というくらいに、こちらも二つ返事で許しが出た。
いつまでも幼い子供じゃないし、私がいつか羽ばたいて巣立ちをするための練習と思ってくれていると後で教えてくれた。
そのとき「同行者が小島先生という条件だし、二人がお付き合いを始めたというのも当然影響したからね」と、お母さんはウインクして笑っていた。
そして、その地で私たちは当時やり残したことだけでなく、学校の修学旅行では考えることもできない体験をすることになったんだよ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる