あなたのやり方で抱きしめて!

小林汐希

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16章 二人きりの卒業旅行

52話 今日の衣装は決めていたよ

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「お腹すきましたね」

「あれだけ動けばなぁ。でもいいじゃないか。前回は遊んでいる気になんかなれなかっただろう?」

「そうですね。どこに行っても『学級委員』でしたから。自由時間はお部屋の中に閉じこもっていました」

「今回はそんなことは心配不要だからな」

「はい」

 二人で話しながら夕食を食べるため、先生と一緒に中庭に下りたときだった。

「鐘が鳴ってますね。教会ですか?」

「行ってみるか」

 海に下りる道を渡ったところにホテルに併設の教会が建っている。

「うわぁ、結婚式ですね。夕焼けの中で挙式というのも素敵です」

「そうだな。でも二人だけか?」

 勝手なイメージの結婚式というのはたいがい参列者もいて、みんなでフラワーシャワーやブーケトスなどもあったりするけれど、そのお二人の時は他の参列者はいなくて、会場のコーディネーターさんたちが写真を撮ったりしてくれている。

「私、こういうのでいいのかもな……」

「原田……」

 先生に肩を持ってもらってふと現実に戻る。

「こんな私に結婚式ができるかなんて分かりません。でも、それだけじゃなく、これだけみんなに迷惑かけた私です。これ以上は心配させたくないんですよ。それだけです。おめでとうございますっ!」

 新郎新婦と目線があって、私は声をかけた。

 私たちが二人連れだと分かって安心したのか、手を振り返してくれる。

 ここであまり長居して邪魔をしてはいけないと、また食後に寄ることを心に決めてそこを離れた。


 明日の夕食は旅行のプランに組み込んでもらっている洋食のコースだと言うから、今日は別のレストランで和食メニューで済ませる。それでも新鮮なお刺身とかが美味しくてお腹いっぱいに食べてしまった。

「腹ごなしに少し歩くか」

「はい」

 もう一度ビーチに下りて、灯りのついた道を歩く。

「先生、ありがとうございます。私のわがままを叶えてくれて」

 ここにもう一度来たいと言ったのは私。そんな私の願いを叶えてくれた大切な人が手をつないでいてくれる。

「いいんだ。まだ初日なのに原田のいい顔がたくさん見られた。この服も似合ってる。買ってよかったよ」

 そう。今日の私のコーディネートは、先月のデートの時に決まっていたの。

 ネイビーのワンピースにアイボリーのセーラー襟。それも後ろから見ると、襟が四角ではなくて、大きなリボンの形になっていている。

 一目惚れして試着したのを、先生も「似合うなぁ」と買ってくれた。

 靴もそう。黒いクロスストラップのパンプス。高いヒールが苦手な私のために、柔らかく足にフィットして高さも無理が無いものを探してくれた。

 初めてのデートの記念と言ってくれたけど、それなら先生の前で初披露すると決めていたから。

「これって、夢じゃないですよね」

「そうだ。今度はそのほっぺをつねってやろうか?」

「いえ、結構です」

 もう、髪の毛を引っ張ったり、ほっぺだったり……。

 あぁ、でも、手を握ったくらいじゃ私には刺激にならないって、先生も分かっているんだよね……。
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