70 / 98
21章 一生をかけたお願い…
70話 全て私のせいです…
しおりを挟むドアを開けて、お袋の姿が見えたとき、驚いたと同時に正直呆れた。
「お袋……」
話では来るのは夕方だったはずだ。だからそれまでには結花を帰す予定だったのに。
今日ここに来る理由は見当がついていたから。
「部屋の片づけご苦労さんね」
お袋は部屋に上がってくる。そこには結花がいるはずだ。
「あなたが陽人の新しい彼女さん?」
お袋が結花を睨みつける。そんな顔をしては結花は何も言い返せない。
「はい。いつも先生にはお世話になっています」
さすが学級委員まで務め、先日の模擬挙式は完全に結花の度胸の賜物だ。
声は緊張しているが、世間的に失礼な態度にはならない。
いや、いまはそこに感心している場合じゃない。
俺はお袋と結花の間に入った。
「結花、あとは俺がやる。朝からありがとうな」
「陽人、せっかくなので、この方にもきちんと言っておきましょう」
「お袋!」
「はい。お伺いさせてください」
しかし、結花は分かったというように頷いた。
三人で、今朝から片付けた部屋に座る。結花が手伝ってくれなければ絶対に間に合わなかったはずだ。
「陽人、あなたは何をやっているんです? お見合いの話を断ったかと思えば、随分と若い子を連れ込んで。しかも学校教師という仕事まで辞めてしまったと。一体何がどうなっているのかしら?」
俺に向けての言葉なのだが、結花が俯いてしまう。
「私の……せいです」
「結花!」
俺が止めようと思った瞬間、お袋は結花の頬を手のひらで叩いた。
パチーンと乾いた音が部屋に響く。
「お袋!!」
結花は赤くなった頬を抑えて、唇を噛みしめている。
「あなたのせいで、陽人の人生は無茶苦茶になったのよ。せっかく楓さんから吹っ切れてきたというのに。こんな若い子に引っかかって。どうせ、生徒という立場で色仕掛けでもしたんでしょう? なんてはしたない!」
その場では何も言い返さない結花。あいつは経験から分かっているんだ。頭に血が上っている状態の相手に反論したところで無駄だと。
全部吐き出させる。お互いの言い分を聞いた上で結論を出せというのが、教育の場のいざこざでもよく使われる手だ。
「陽人のこの先をどうやって責任取ってくれるのかしら? 聞いたところでは高校も中退したとの話じゃない。陽人の相手にはとても似つかわしくない……」
「いい加減にしろ」
俺はとうとう我慢できなくなってお袋の言葉を遮った。
「お前は黙ってなさい」
「黙ってるのはそっちだ。さっきから結花のことを言いたい放題言いやがって」
いくらなんでも言い過ぎだ。高校中退の理由や経緯も知らないで。
「先生やめて……」
結花が俺を押さえようとする。いつもなら言うとおりにするだろう。
しかし今日の俺は違う。相手が自分の親だとしても、この場は結花を守らなくちゃいけない。
「結花、こういうことはきちんと言わなきゃならないんだ」
それでも、結花の一言のおかげで俺の頭の中に一瞬の時間ができて、次の言葉が変わった。
「そりゃ、学校としては教師を辞めた。だけど、その理由は結花にはない。俺が自分で辞めたんだ。結花を卒業させられなかったのは俺の責任だから。だから結花が中卒なのも俺のせいだ!」
本当はこんなに簡単な話じゃない。でも、いまそれを詳しく話している時間は無い。
「教師と生徒という関係は、こいつはちゃんと分かってた。お袋にも言ったとおり、結花にはその関係が切れた後に俺から交際を申し込んだ。結花には何もやましいところはない。それでも結花と別れさせるなら、俺はもう実家と縁を切る」
「先生……」
今にも泣きそうな顔の結花。もう安心させてやらなくちゃいけない。
「お袋、俺は時期が来たらこの結花と結婚する。それは俺が自分で選んだ事だ」
「それは、この子への償いという意味?」
「違う! 俺は結花に会って、結花を知って、ずっとそばにいたいと俺から思った。そして、こいつは俺を楓との過去から解放してくれた、たった一人の女だからだ。だから他に替えることはできない。今度こそ俺は結花を幸せにする。これが楓にも報告した俺の答えだ」
俺は一気に言い切って息をついた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる
まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」
父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。
清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。
なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。
学校では誰もが憧れる高嶺の花。
家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。
しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。
「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」
秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。
彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。
「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」
これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。
完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。
『著者より』
もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる