あなたのやり方で抱きしめて!

小林汐希

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26章 私の志望先は…

88話 ふたりはあったかいよ

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 ニューヨークと言っても、先生が住まいに選んだ場所は、中心街から1時間ほど離れた小さな町にあった。

「結花と一緒に住むなら、繁華街よりこっちの方がいいと思ってな」

 高層ビルはなく、戸建てのお家がたくさん並んでいる。

 ニューヨークやニュージャージー方面へのベッドタウンなんだそうだ。

 だから日常生活に困ることもなく、お買い物のスーパーや、病院も近くにあるという。

 先生はこの町の病院で、私のことを診てくれるお医者さんを既に見つけてくれていた。それも、もともと産婦人科を主に扱っていた日本人女性のお医者さんだという。

 やはりこの町は同じような駐在する日本人も多いようで、そんな環境も先生がこの町に家を探した理由だと教えてくれた。

「よし結花、夕飯はこれに挑戦してみろ」

 大通りに面しているステーキハウスに先生は私を連れてきてくれた。

「サラダもデザートも自分で取ってきて全部食べていいぞ。その代わり胃袋の大きさは自分で管理しろよ?」

「先生、私を太らせて帰すんですかぁ?」

 運ばれてきたお肉の大きさを見て、思わず苦笑する。もちろん一人分なんだけど、それが先生と同じ大きさ。日本で「大きい」と言われているお肉の更に3割は大きいんだもの。

「当たり前だ。ひもじい思いをさせたなんて思われたら、結花の両親に結婚の了解を取り消されちまう」

「手加減なしですね」

「ユーフォリアでの食事はいつも大盛りだと菜都実さんから聞いていたからな」

 私も女の子ながら決して小食ではないと自負はしているけど、それでもこれは強敵に見えた。

 けれどナイフを入れてみると、見た目とは違ってとても柔らかくて美味しくて自然と食が進む。

 自由に取ってこられるサラダやスープを組み合わせているのに、ぺろりと完食してしまった。

 お店の人も顔なじみみたい。突然連れてきた私みたいな身なりの日本人女子が男性顔負けの食欲を発揮するとは思っていなかったらしくて、笑いながら先生の肩を叩いて"Good Job!"ですって。

「その食いっぷり、気に入ったってさ。きっとすぐ有名になるぞ?」

「さすがにお腹いっぱいです!」

「国際線の長時間のフライト直後にそれだけ食えるなら、ここでの食事には困らないな」

 先生は私の肩を抱えながら、嬉しそうに笑ってくれた。




 レストランから10分ほど走ったところにある平屋の建物が先生が借りているお家だった。

 日本風に言えば4LDKの間取りというところ。でも凄く広くて、一人で住むにはもったいない。

「来年の春からここは一人暮らしじゃなくなる。最初からファミリー向けで頼んだんだ」

 ガレージから上がる階段のところで靴を脱いで貰うように言われた。

 そうか。普通にこちらの生活なら、靴のままで上がってくるんだよね。

 お家を借りた最初の頃、先生はお休みのたびに全部の部屋のカーペットの掃除をしたそう。

「スリッパを履かなくてもよくなったのは先月くらいからだ」

「私がやりますよ。お疲れのところ大変だったでしょう?」

「最初から結花の靴下を汚したくなかった。まぁ、そんな理由だ」

 オンラインで事前に話し合って、私たちは日本にいるときと同じように家の中は靴を脱ぐ生活にすると決めてあったから。そこだけは徹底的にやったって。

「こっちに来る前に気に入った靴たくさん買ってこような。この辺じゃ手軽に手に入るのはスニーカーばかりだ。こっちにいる間にサイズだけは見ておくか」

 私が今回履いてきたのは、もちろん夏に先生が買ってくれた一足。

 着てきたワンピースだって、9月の最後に二人でデートしたときに何着か買ってもらった物だから。

「結花、早速なんだがこれ手伝ってくれないか? ツリーの飾り付けが終わってないんだ。オーナメントもう少し欲しいだろう」

 リビングには私の背の高さほどあるクリスマスツリー。

 電飾や飾りを買ってきて一緒に飾り付けをして欲しいとのこと。

「私で役に立つなら、もちろんやります!」

「よし、明日は買い物からスタートだな」

「はいっ!」



 その夜から、私は先生と一緒のベッドで寝た。

 いわゆるキングサイズというもので、ふたりで一緒に寝られる。

 それでも、先生はソファで寝ると言ってくれたんだけど、さすがにそれは申し訳ないし、3か月ぶりにお互いの体温を感じて眠りたかった。

「先生、私がなんのためにここまで来たか分かってますよね?」

「一応な……? まだ建前上さ……」

「大丈夫です。甘えさせてください……」

「まぁな。今さらか」

 私も旅の疲れと、先生にも安堵感があったと思うよ。

 お風呂を終えてパジャマになった私たちは、どちらからともなく抱き合うと、いつの間にか目を閉じていた。
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