あなたのやり方で抱きしめて!

小林汐希

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27章 生きてきた意味と守りたいもの

91話 生きる意味を教えてくれました

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 お家に帰って、用意しておいたケーキをカットしてお料理を温めて、二人だけのクリスマスパーティーをした。

 陽人さんにとっては、実に7年ぶりのことだって。


「結花……、まったくおまえって奴は」

「何でですか? 陽人さんだって、私がここまで来て断ることはないって分かっていたんでしょう?」

 そのために渡米するって、言葉にはしていなくても、最初からお互いに分かっていたことだったよ。

 あの千佳ちゃんですら「プロポーズ受けてくるんだよ」と気づいていたのだから。

「指輪を俺に持たせたとき、まさか返されたかと思ったよ」

「自分でつけるのじゃなくて、つけていただきたかったんです」

「それを先に言えよ」

「言ってしまったら、せっかくの雰囲気ぶち壊しです」


 さっきの反動のように二人で笑う。

 私はまだお酒が飲めないから、飲み物はノンアルコールで用意してくれた陽人さんだけど、お酒は必要ないくらい顔が赤くなっていた。

「これで報告できます。私は陽人さんと婚約しましたって。きっとちぃちゃんが首を長くして待っていますから」

「佐伯にも世話になったな」

「はい」

 交代でシャワーを浴びて、ソファーに二人並んでテレビを見ていたとき、陽人さんの手が私に触れた。

「結花、俺……さ……」

「はい?」

 恥ずかしそうに陽人さんは俯いている。

「どうかしました?」

「俺……、おまえの両親との約束、守れないかも……」

「約束って、のことですか?」

 それは私たちが夫婦として正式に入籍を済ませるまでは、私の純潔を守るというもの。

 それが、この歳で結婚を許して貰うための条件だったって。


「陽人さん、分かってましたよ。私も同じです……。これ、お渡しします」

 持ってきたキャリーケースの一番奥に入れておいた、ドラッグストアの袋で包まれたままの小箱を渡す。

「おまえ、これの意味分かってるよな?」

「はい。出発の前に両親にも話してきました。そしたら、二人に大笑いされてしまいましたけど」

「どうして? 笑われたのか?」

「はい。とっくに『済ませている』と思っていたそうです」

 一応そんな約束はしたけれど、年頃で愛し合う二人が同じ場所で時間を過ごして、何もないわけがないと。

 逆に約束どおり純潔どころかキスと服の上から抱かれるまでに抑えていたことを二人は驚いていた。

『なんだ、出発前にあんなに時間あったのになぁ。陽人君も抑えるの大変だったろうに。きっと拷問に近かったと思うぞ。たいした男だ。結花、誉めてやれよ?』

 それってどういうこと!? あの数日間は「そういうこと」も想定されていたってことなの? 先生が出発する日、客間から起きてきた私を見てお母さんが笑ったのは、きっとその日に私たちは一つに結ばれていたと思っていたからだなんて。
 
「結花、あなたの身体よ。それはあなたにとって一生に1回。どのタイミングで結ばれるかはあなたたち二人が決めていい。私たちは何も言わないから」

 でも、まだ妊娠するには順番が違ってしまうから、誰にも迷惑をかけないように。

 それだけはきちんと守りたかった。

 そうだとは分かっていても、初めて避妊具を買うのにも勇気がいる。

 千佳ちゃんはもう彼氏さんと済ませていたというから、一緒にドラッグストアにも来て貰った。

「結花の初めてを渡す相手、先生だから許すんだからね!」

「ちょっと……ちぃちゃん、声大きいよぉ」



 そんなこともあって、この日を迎えるのは遅すぎるとみんなから言われてしまったくらい。

「まったく、なんて連中だ。結局は俺たち二人が一番奥手だったってことか?」

 顔を赤らめて頷いた。テーブルの上のアイスティーを一口飲んで、もう一度見つめ合う。

「あのね、陽人さん……」

 そう。私は最後にひとつ話しておきたいことがあった。これが理由で断られたとしても私には何も言い返せないことなのだけど。

「どうした?」

「私の身体、綺麗ではないと思います。まだあの傷もありますし……。服も水着もワンピースが多いのは、それが理由です。おへそが出れば見えてしまいますから……」

 パジャマは家の中なので仕方ないと思っていた。

 そのお腹に手を当てながら、陽人さんは少し怒った声を出した。

「そんなこと、今後も誰か言うことあったら、俺が許さない。結花が必死に生きてきてくれた勲章なんだ。俺は結花を誇りに思う」

 パジャマの上着を少し持ち上げて、私の腹部を露わにした。

 おへその右側にある小さな傷口をそっと撫でてくれる。

「結花……、本当に生きてきてくれてありがとう」

「私こそ、生きる意味を教えてくれたのは陽人さんです。ありがとうございました」

 お腹に当てられた温かい手を上から押さえながら、私は涙を止めることができなかった。
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