26 / 42
25.剛磨の苦手意識
しおりを挟む
再び暖炉の前まで戻って、焦げないように鍋の中をかき混ぜると良い匂いがしてきた。
スプーンでひと匙スープを掬って味見してみると、なかなかの出来だと思う。
調味料は無かったけれど、干し肉で塩分は足りたみたいで良かった。
「こんなもんかな~」
「うぉー、良い匂いがする」
「おはよう、ゴウマ」
「腹減った。それ、朝飯?」
いつの間にか起きていた剛磨が僕の背後から鍋を覗き込んで、盛大に腹の虫を鳴らしている。
というか、僕は朝の挨拶をしたのに、返事をしないで朝食の話とはいい根性してるな。
「おはよう、ゴウマ。そうだよ、昨日のビッグボアを使ったスープ」
「へー、普通に美味そう」
また挨拶をスルーされた…。剛磨にだって家族いたよね? 家族と挨拶しなかったの?
「お・は・よ・う、ゴウマ」
「しつこいよ、お前。聞こえてるっつの」
聞こえてたんならどうして返さない? 挨拶を返しなさいよ。
「それなら返事しないのはなぜ?」
「……なんでも良いだろ別に」
「良くないよ。君は道場に通っていたと言っていた。そこで礼儀作法は教わらなかったの? 挨拶は基本だろう?」
「ぐっ…うぅ……。確かにそうだけどよ」
お、一瞬でも怯んだな。この隙に追い討ちをかけるとしますかね。
「君は道場の先生や先輩達に対してもそうやって挨拶をまともにしなかったのかな? だとしたらかなり失礼だよね。そんな人が教え子じゃ、その先生も可哀想だと僕は思う」
「………う…るせぇよ」
「ゴウマ、異世界だからって礼儀を欠いて良い理由にはならないよ」
「…………だろ」
「なに?」
「っ…! 仕方ないだろ! 道場の人やお袋以外とまともに会話したことねぇんだから!」
「……はい?」
まさかのコミュ障ですか? それは予想外というか、予想の斜め上というか、とにかく意外な答えだね。
困ったような恥ずかしそうな、そんな顔で凄まれても全然怖くないよ。
「…なんだよ」
沈黙に我慢の限界がきたのか剛磨が拗ねたような声で尋ねてくるが、僕はそれに答えることができなかった。
なぜなら…―――。
「なに笑ってんだよ、てめぇは!」
「…ふっ……くくっ、ご、ごめっ…。ちょっと待って」
そう、まさかの理由に笑いを堪えるのに必死だったから。
でも結局、肩が震えてしまってバレたけれど。
「いつまで笑ってんだよ! いい加減にしろっての!」
「ははっ。だってまさか人見知りで挨拶返さないなんて思わないもの」
「人見知りじゃねぇわ! 目付き悪いから人が避けるんだよ!」
自覚してて直そうとしなかったってどうなの?
剛磨が真っ赤な顔で掴みかかろうと襲ってくるが、ひらりと避けて暖炉に突っ込まれないように腕を掴んで引き寄せる。
そのままの勢いを利用して腕を引いてパッと離すと、つんのめって倒れた剛磨に睨まれた。
確かに目付きは悪いけど、こっちはそんな人たくさん居るし慣れてるから怖くもなんともない。
「あーもー!! お前ホンットにムカつく!」
「ははっ。ところでゴウマ早いね」
「そうやって普通に話しかけられると調子狂うんだけど」
「じゃあ話しかけないほうが良い?」
「べっ…つに、そうは言ってねぇだろ」
……ツンデレかな? 強面男子のツンデレは需要あるの? 必要かな?
「はいはい。で?」
「あ?」
「あ? じゃないよ。早いねって聞いたんだよ」
「あぁ、いつもの癖で起きただけ」
「なにか習慣でもあったの?」
「柔軟して早朝ランニングが日課だったから」
あぁ、どうりで筋肉も引き締まってると思った。
毎朝ランニングして、道場も通ってれば鍛えられるよね。
健康的な生活してるね、……体は。
「なるほどね。でもこの森でランニングは止めたほうが良いよ」
「さすがにしねーわ。ただ癖で起きちまっただけだし。でも体鈍りそうだし、お前、ちょっと付き合えよ」
「ごめん、僕、同性はちょっと…」
「その付き合えじゃねーっつの! 鍛練に付き合えって言ったんだよ」
「うん、分かってて言った」
「お、ま……!! っざけんなよ!」
顔の紅潮がさっきとは別の意味で最高潮だね~。
また掴みかかろうと襲ってくるけれど、攻撃が単調で読みやすい。
カッとなりやすいタイプなんだな~。
体力も持久力もあるのに精神に不安あり。
もうちょっと冷静に物事を見ることができたら、大きく成長するだろうな。
なんだか楽しみだ。
スプーンでひと匙スープを掬って味見してみると、なかなかの出来だと思う。
調味料は無かったけれど、干し肉で塩分は足りたみたいで良かった。
「こんなもんかな~」
「うぉー、良い匂いがする」
「おはよう、ゴウマ」
「腹減った。それ、朝飯?」
いつの間にか起きていた剛磨が僕の背後から鍋を覗き込んで、盛大に腹の虫を鳴らしている。
というか、僕は朝の挨拶をしたのに、返事をしないで朝食の話とはいい根性してるな。
「おはよう、ゴウマ。そうだよ、昨日のビッグボアを使ったスープ」
「へー、普通に美味そう」
また挨拶をスルーされた…。剛磨にだって家族いたよね? 家族と挨拶しなかったの?
「お・は・よ・う、ゴウマ」
「しつこいよ、お前。聞こえてるっつの」
聞こえてたんならどうして返さない? 挨拶を返しなさいよ。
「それなら返事しないのはなぜ?」
「……なんでも良いだろ別に」
「良くないよ。君は道場に通っていたと言っていた。そこで礼儀作法は教わらなかったの? 挨拶は基本だろう?」
「ぐっ…うぅ……。確かにそうだけどよ」
お、一瞬でも怯んだな。この隙に追い討ちをかけるとしますかね。
「君は道場の先生や先輩達に対してもそうやって挨拶をまともにしなかったのかな? だとしたらかなり失礼だよね。そんな人が教え子じゃ、その先生も可哀想だと僕は思う」
「………う…るせぇよ」
「ゴウマ、異世界だからって礼儀を欠いて良い理由にはならないよ」
「…………だろ」
「なに?」
「っ…! 仕方ないだろ! 道場の人やお袋以外とまともに会話したことねぇんだから!」
「……はい?」
まさかのコミュ障ですか? それは予想外というか、予想の斜め上というか、とにかく意外な答えだね。
困ったような恥ずかしそうな、そんな顔で凄まれても全然怖くないよ。
「…なんだよ」
沈黙に我慢の限界がきたのか剛磨が拗ねたような声で尋ねてくるが、僕はそれに答えることができなかった。
なぜなら…―――。
「なに笑ってんだよ、てめぇは!」
「…ふっ……くくっ、ご、ごめっ…。ちょっと待って」
そう、まさかの理由に笑いを堪えるのに必死だったから。
でも結局、肩が震えてしまってバレたけれど。
「いつまで笑ってんだよ! いい加減にしろっての!」
「ははっ。だってまさか人見知りで挨拶返さないなんて思わないもの」
「人見知りじゃねぇわ! 目付き悪いから人が避けるんだよ!」
自覚してて直そうとしなかったってどうなの?
剛磨が真っ赤な顔で掴みかかろうと襲ってくるが、ひらりと避けて暖炉に突っ込まれないように腕を掴んで引き寄せる。
そのままの勢いを利用して腕を引いてパッと離すと、つんのめって倒れた剛磨に睨まれた。
確かに目付きは悪いけど、こっちはそんな人たくさん居るし慣れてるから怖くもなんともない。
「あーもー!! お前ホンットにムカつく!」
「ははっ。ところでゴウマ早いね」
「そうやって普通に話しかけられると調子狂うんだけど」
「じゃあ話しかけないほうが良い?」
「べっ…つに、そうは言ってねぇだろ」
……ツンデレかな? 強面男子のツンデレは需要あるの? 必要かな?
「はいはい。で?」
「あ?」
「あ? じゃないよ。早いねって聞いたんだよ」
「あぁ、いつもの癖で起きただけ」
「なにか習慣でもあったの?」
「柔軟して早朝ランニングが日課だったから」
あぁ、どうりで筋肉も引き締まってると思った。
毎朝ランニングして、道場も通ってれば鍛えられるよね。
健康的な生活してるね、……体は。
「なるほどね。でもこの森でランニングは止めたほうが良いよ」
「さすがにしねーわ。ただ癖で起きちまっただけだし。でも体鈍りそうだし、お前、ちょっと付き合えよ」
「ごめん、僕、同性はちょっと…」
「その付き合えじゃねーっつの! 鍛練に付き合えって言ったんだよ」
「うん、分かってて言った」
「お、ま……!! っざけんなよ!」
顔の紅潮がさっきとは別の意味で最高潮だね~。
また掴みかかろうと襲ってくるけれど、攻撃が単調で読みやすい。
カッとなりやすいタイプなんだな~。
体力も持久力もあるのに精神に不安あり。
もうちょっと冷静に物事を見ることができたら、大きく成長するだろうな。
なんだか楽しみだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
卒業パーティーのその後は
あんど もあ
ファンタジー
乙女ゲームの世界で、ヒロインのサンディに転生してくる人たちをいじめて幸せなエンディングへと導いてきた悪役令嬢のアルテミス。 だが、今回転生してきたサンディには匙を投げた。わがままで身勝手で享楽的、そんな人に私にいじめられる資格は無い。
そんなアルテミスだが、卒業パーティで断罪シーンがやってきて…。
【完結】剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。
もる
ファンタジー
剣を扱う職に就こうと田舎から出て来た14歳の少年ユカタは兵役に志願するも断られ、冒険者になろうとするも、15歳の成人になるまでとお預けを食らってしまう。路頭に迷うユカタは生きる為に知恵を絞る。
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる