異世界帰還〜案内人を頼まれました〜

慧斗

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25.剛磨の苦手意識

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 再び暖炉の前まで戻って、焦げないように鍋の中をかき混ぜると良い匂いがしてきた。
 スプーンでひとさじスープをすくって味見してみると、なかなかの出来だと思う。
 調味料は無かったけれど、干し肉で塩分は足りたみたいで良かった。

「こんなもんかな~」
「うぉー、良い匂いがする」
「おはよう、ゴウマ」
「腹減った。それ、朝飯?」

 いつの間にか起きていた剛磨が僕の背後から鍋を覗き込んで、盛大に腹の虫を鳴らしている。
 というか、僕は朝の挨拶あいさつをしたのに、返事をしないで朝食の話とはいい根性してるな。

「おはよう、ゴウマ。そうだよ、昨日のビッグボアを使ったスープ」
「へー、普通に美味そう」

 また挨拶をスルーされた…。剛磨にだって家族いたよね? 家族と挨拶しなかったの?

「お・は・よ・う、ゴウマ」
「しつこいよ、お前。聞こえてるっつの」

 聞こえてたんならどうして返さない? 挨拶を返しなさいよ。

「それなら返事しないのはなぜ?」
「……なんでも良いだろ別に」
「良くないよ。君は道場に通っていたと言っていた。そこで礼儀作法は教わらなかったの? 挨拶は基本だろう?」
「ぐっ…うぅ……。確かにそうだけどよ」

 お、一瞬でもひるんだな。この隙に追い討ちをかけるとしますかね。

「君は道場の先生や先輩達に対してもそうやって挨拶をまともにしなかったのかな? だとしたらかなり失礼だよね。そんな人が教え子じゃ、その先生も可哀想だと僕は思う」
「………う…るせぇよ」
「ゴウマ、異世界だからって礼儀を欠いて良い理由にはならないよ」
「…………だろ」
「なに?」
「っ…! 仕方ないだろ! 道場の人やお袋以外とまともに会話したことねぇんだから!」
「……はい?」

 まさかのコミュ障ですか? それは予想外というか、予想の斜め上というか、とにかく意外な答えだね。
 困ったような恥ずかしそうな、そんな顔で凄まれても全然怖くないよ。

「…なんだよ」

 沈黙に我慢の限界がきたのか剛磨が拗ねたような声で尋ねてくるが、僕はそれに答えることができなかった。
 なぜなら…―――。

「なに笑ってんだよ、てめぇは!」
「…ふっ……くくっ、ご、ごめっ…。ちょっと待って」

 そう、まさかの理由に笑いを堪えるのに必死だったから。
 でも結局、肩が震えてしまってバレたけれど。

「いつまで笑ってんだよ! いい加減にしろっての!」
「ははっ。だってまさか人見知りで挨拶返さないなんて思わないもの」
「人見知りじゃねぇわ! 目付き悪いから人が避けるんだよ!」

 自覚してて直そうとしなかったってどうなの?
 剛磨が真っ赤な顔で掴みかかろうと襲ってくるが、ひらりと避けて暖炉に突っ込まれないように腕を掴んで引き寄せる。
 そのままの勢いを利用して腕を引いてパッと離すと、つんのめって倒れた剛磨に睨まれた。
 確かに目付きは悪いけど、こっちはそんな人たくさん居るし慣れてるから怖くもなんともない。

「あーもー!! お前ホンットにムカつく!」
「ははっ。ところでゴウマ早いね」
「そうやって普通に話しかけられると調子狂うんだけど」
「じゃあ話しかけないほうが良い?」
「べっ…つに、そうは言ってねぇだろ」

 ……ツンデレかな? 強面男子のツンデレは需要あるの? 必要かな?

「はいはい。で?」
「あ?」
「あ? じゃないよ。早いねって聞いたんだよ」
「あぁ、いつもの癖で起きただけ」
「なにか習慣でもあったの?」
「柔軟して早朝ランニングが日課だったから」

 あぁ、どうりで筋肉も引き締まってると思った。
 毎朝ランニングして、道場も通ってれば鍛えられるよね。
 健康的な生活してるね、……体は。

「なるほどね。でもこの森でランニングは止めたほうが良いよ」
「さすがにしねーわ。ただ癖で起きちまっただけだし。でも体なまりそうだし、お前、ちょっと付き合えよ」
「ごめん、僕、同性はちょっと…」
「その付き合えじゃねーっつの! 鍛練に付き合えって言ったんだよ」
「うん、分かってて言った」
「お、ま……!! っざけんなよ!」

 顔の紅潮がさっきとは別の意味で最高潮だね~。
 また掴みかかろうと襲ってくるけれど、攻撃が単調で読みやすい。
 カッとなりやすいタイプなんだな~。
 体力フィジカル持久力スタミナもあるのに精神メンタルに不安あり。
 もうちょっと冷静に物事を見ることができたら、大きく成長するだろうな。
 なんだか楽しみだ。
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